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第23話「死へ誘うギャル。/ Death Of Me」


 それから私たちは、使える時間をフルに使って練習した。

 

 すごいことに、私が提案した2曲は真先輩も華蓮先生も譜面を見ずに演奏できるそうで、私と春野さんは早速置いてけぼりにされていた。


「うおおおお、すごっ! これがワーミーペダル!? 音がめっちゃウネウネする〜!!」


「音程を変えたり、音にハモりを加えたり出来るエフェクターだからね〜。面白いでしょ?」


 ……と思ってたんだけど、春野さんはさっそくワーミーペダルを使いこなし、ものの数十分でイントロ部分の特徴的なギターサウンドを再現していた。

 結局置いてけぼりにされてたのは私ひとりだったって訳☆ 死にたい……。


「先導。一曲目から早速ズレてるぞ。歌詞を覚えてきているのは良いが、ボーカルのリズムが走りすぎると私達でも支えるのが難しくなる。周りの音をもっとちゃんと聴いてくれ」


 その上真先輩から容赦ないお叱りの言葉……!!


「ず、ずびばぜんッ……!!」


「いや、そんな全力で泣かれてもな……」


 目と鼻と口と耳と……とにかくあらゆる穴から体液を垂れ流す化け物みたいな私を前にドン引きする真先輩。いよいよ本格的に死にたくなってきたから死のうかな!


 そう思ったタイミングで、真先輩は私の肩に手を乗せて、顔を覗き込みながら口を開いた。


「……お前がそうやって走ってしまうのは、『置いていかれる』という焦りからだろう。先導、お前は発声も出来ているし飲み込みも早い。麻里奈たちのバンドは確かに強敵だが、焦り過ぎる必要はないよ」


 ショックを受けている私を慰めるためなのか、それとも本心なのか。

 まだ真先輩とそこまで親密な関係性を構築できていない私では計りきれないけれど、真先輩が嘘をついているようには見えなかった。

 先輩は先輩なりに、私やバンドのことを考えてくれている。そう思うと少しだけ気分が和らいだ。

 

「……ありがとうございます先輩。私、先輩の想いに応えられるよう頑張ります! ……ただ、」


 それはそれとして、ひとつだけ先輩に言いたい事があります。


「あまり胸ばかり見ないでくれると嬉しいんですけど……」


「ミテナイヨ」


 真先輩は目を逸らしながら片言でそう言うけど、意識がこちらの胸(それと華蓮先生の胸)に向けられたままだった。どれだけ胸好きなんですかこの人。


「センパ〜イ? 胸ばかりに気を取られてないでちゃんと演奏してくださいね? 男子中学生でもまだ自制が効きますよ?」


「フッ……リビドーには抗えないタチなんでね」


「いや全然カッコよくないし意味わかんないから。次ふたりの胸見たら目潰しますからね?」


「潰ッ!? せ、せめて目隠し程度で頼む……!」


「ねぇ綾女。もしかして真ちゃんって少し変?」


「少しじゃなくてだいぶヘンだよ……」


 真先輩の変態性が華蓮先生にもバレてしまった。

 まぁ実際変態だしね。春野さんに怒られて反省してください。

 

 :


 それから一週間が過ぎた。

 その間に私達は個人で、そして集まれるタイミングで施設のスタジオを借りて練習した。


「はぁ〜、あと一週間でライブか〜。めちゃくちゃ時間の流れが早く感じる〜。ねっ、あやち!」


「は、はい」


 6限目の授業が終わり、どっと疲れが出る時間帯。

 だけど放課後は、施設のスタジオに行ってセッションをする予定だ。

 疲れはあるけど、放課後にみんなでセッションできる事実があるだけで、嫌なことも疲れも何もかも吹き飛んでいく。

 

 今まで一人で歌うことしか出来なかった私が、今ではバンドを組み、ライブで演奏する為に練習をしている。


 まだ完璧に音を合わせることは出来ていないけど、ギターにベース、ドラムの音が重なり合って「バンド」の音になっていく感覚が、楽しくて仕方がない。


 放課後がこんなに待ち遠しくなるなんて──少し前の自分では考えられない変化だ。今すぐにでも教室を飛び出してスタジオに行きたい。みんなと早く音合わせしたい……!

 

「早く放課後になって欲しいですね……」


「あっ! わかる〜! ウチもそう思ってたんだ〜!」


 そんな想いが先走りしすぎて、つい声に出してしまっていた。だけど春野さんは引く事はなく、いつもの明るい笑顔で共感してくれた。

 

 嗚呼、これが『友達』か……。なんかもうこの事実だけで泣きそうになってしまう。

 嬉しい……春野さんしゅき……。


「お〜なになに? ウワサのライブ対決の話?」


「あ〜、そういえばかなり噂になってるよね〜。がんばってね〜ことねちゃん、先導さんっ」


 などと心の中で呟いていると、春野さんのギャル友である美羽(見た目地雷系)さんと夏帆(ゆるふわ系)さんがやってきた。

 

 この二人も私の友達……とまではいかないけど、話しかけられても多少ドモるくらいで普通に話せるようになっていた。成長したなぁとしみじみ思う。まぁ全然目を見て話せないんですけどね。


「ありがと、美羽に夏帆! めちゃくちゃカッコいいライブにするからさ、二人とも絶対に見にきてよ!」


「うん、楽しみにしてるよ〜」


「そういや先導がボーカルなんだっけ? 琴音がマイク譲るくらいなんだから相当上手いんだろうな〜! 期待してるよ先導!」


「は" い" ッ" !"!"」


「えっ? 声でか……」


 し、しまった!?

 緊張しすぎてついフライ気味な叫び声(スクリーム)が出ちゃったッ!! ヤバい、二人ともドン引きしてる!?

 

 そう思った矢先、美羽さんと夏帆さんの背後から「うっさ」と呟き声が聞こえ、思わず背筋を伸ばしてしまう。


「れ、麗奈さん……」


「……うるさいけど。そのくらい声が大きければ確かにボーカルは向いてるかもね。琴音そんなに声量ないし」


 すらりとしたモデルみたいなスタイルをした黒髪美人ギャル、麗奈さんが私を睨みつけながらそう言った。

 

 口では絶対に言えないんだけど、怖いんだよね麗奈さん……。

 前から私のこと嫌いなのかな? って思ってたけど、ここ最近はずっと私のこと睨みつけてくるし、かと思ったら私の近くの席に来てしばらくしたらため息ついてどこか行っちゃうし。

 

 私なんかやっちゃいました?☆ なんて言おうものなら本気でブン殴られそうだし……。いや、ホントになんでここまで嫌われてるんだろ。


 私麗奈さんに変なことしたっけ? 陰キャだからとか、キモいからが理由なら解決策は自死以外ありませんけど……。


「……琴音。ちょっとお願いがあるんだけど」


「ん、なに?」


 頭の中でアレコレと考えてる内に、どうやら意識が私から春野さんに向けられたみたいだ。良かったぁ……。緊張しすぎて口から心臓吐き出すところだった──


「放課後。先導(そいつ)ちょっと借りてもいい?」


「………………………………んお"ぇっ」


 ──どころの話じゃなかった。

 心臓を口から掴み取られるような感覚がして、踏み潰されたカエルみたいな声が出た。


 あれ? もしかして私、ライブ当日を迎える前に死ぬ感じ???


※サブタイトル

Prompts「Death Of Me」

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