第22話「想いはひとつ。/ Into The Line」
「ちょっとどうするんですか!! このままだと演奏する曲決まらないまま本番当日になっちゃいますよ!?」
それからアレやコレやと話し合うこと30分。
いつの間にか「演奏する楽曲」決めから「好きなバンド紹介コーナー」に成り果て、終いには「こんなバンドは嫌だ」という大喜利にまで発展した。
私としては今まさに「こんなバンドは嫌だ」って感じだけど。ってやかましいわ!
「しかし、見事にバラバラだな」
「好きなバンドは各々違うしね〜」
「そもそも好きなバンドを言い合う場ではないですし……」
それから再び沈黙。
ど、どうしよう……。このままだと演る曲も見つからない上に、練習できる時間もどんどんと減っていっちゃう。
麻里奈たちがどんな演奏をするのか、私や春野さんは知らない。
でも真先輩があれだけ「勝てない」って言う程の相手だ。このままダラダラと時間を潰していても麻里奈たちとの差は埋まらない。「勝てない」って事実だけが音を殺して歩み寄ってくるみたいだ。
絶対に勝ちたい。
勝ってみんなと、春野さんと真先輩たちとバンドを続けたい。
だってまだ組んで1ヶ月もたってない。一緒にライブもしてない。オリジナル曲だってないままだ。
産まれたばかりの、まだ何もしていないバンドなのに。
それをあんな色ボケクソ女に台無しにされてたまるか。
「……あの、私からもいいですか?」
ふぅ、と息を吐いて手を挙げる。
今までみんながバンドの名前や曲を挙げている中、私はひとりでこの状況を打開する曲を、そして常識を覆してくれるバンドのことを考えていた。ホントはずっと前から考えてたんだけどね。
「おっ。あやちも挙げてくれる感じ?」
「ふむ。そう言えば先導からはまだ聞いてなかったな」
「うん。聞かせてよ、綾女の演りたい曲」
三人から向けられる視線。
私はドキドキと高鳴る心臓を抑えつけながら深呼吸をする。
みんながどんな反応をするかわからない。
もしかしたら否定されるかもしれない。
それでも。私の心の中で渦巻く感情が、このバンドの曲を演りたいってずっと叫んでる。
結局は自分の演りたい曲かよって言われるかもだけど、私は確信していた。このバンドなら、そしてこの曲達なら。
メタルを知らなくても、ラウドロックを知らなくても、そういった人たちの心を震わせることが出来るんじゃないかって。
曲自体は複雑。だけど聴いててシンプルにカッコいい。こんな音楽は心に残りやすい。これは私自身の体験に過ぎないけど、声を大にしてハッキリと言い切れる。
カッコいいって評価してもらうには、ラウドミュージックへの動線になってくれるのは、このバンドしか無い。そう思っていた。
手渡されたホワイトボードに、そのバンドと演りたい曲を書いてみんなに見せる。
「「「……………………」」」
「ど、どうですかね……?」
三人の視線が、私が書き出したホワイトボードの、緊張でガタついた文字に注がれる。
そして訪れる沈黙の時間。その間に高鳴る私の心臓がうるさい。今すぐにでも自分の心臓を握り潰して、その音を止めてやりたいくらいだった。
やっぱり私なんかが意見出しなんかしない方が良かったんじゃないのか……そんな考えが脳裏に浮かんだその瞬間、
「──いいね。あたしコレやりたいかも」
キラキラと、昔憧れていたヒーロー番組を見た大人のような表情をしながら、華蓮先生がそう言った。言ってくれた。
「……ふむ。悪くないな。確かにこの曲なら、メタルやラウドを知らない層にも刺さる筈だ」
「うん! っていうかイイ! めっちゃイイよあやち! ウチも演りたいもんこの曲! あ〜でも出来るかな? ウチ『ワーミーペダル』持ってないんですけど!」
「あっ、それなら大丈夫だよ。ワーミーならあたしが昔使ってたヤツがあるから。それ使いなよ」
「マジ!? ハナちゃんセンセー神! マジ神!!」
「とは言え、ずっと借りたままと言うのも難しいでしょう。春野、みんなで合わせる時は華蓮さんに借りて、家や学校で練習するときは私が持ってるヤツを使え。私も貸すから」
「か、神が二人いる……!?」
それから華蓮先生に賛同するように、春野さんと真先輩が頷いてくれた。というか私以上に盛り上がってる気もするけど、気のせいじゃないよね……?
予想以上にイイ反応が返ってきて、さっきまでの緊張が嘘のように反転し、何だか気分良くなってきた! 調子いいなと言われるかもしれないけど、陰キャって元々そういう種族だから気にしない。
けど、私が選曲したバンド、そして曲にはある課題があった。
「それはそれとして。いいのか先導? お前が選出した二曲。どちらともお前の得意なシャウトを活かし辛い曲だ。それに両方とも全英語詞で歌い回しも早い。今のお前の技術で歌い切れるのか?」
真先輩から厳しい意見。というか、私自身も危惧していた問題点を指摘される。
先輩の指摘通り、この曲は歌うのが難しい。
カラオケで何回か歌ったことはあるけど、その時もちゃんと歌えていたかと言うと否だ。
正直、全編シャウトのメタルコアや、coldrainみたいなシャウトと歌半々の曲の方が私的には歌いやすかったりする。
私が選出した曲はどちらとも歌がメイン。
シャウトパートはかなり少なく、その上原曲でシャウトを担当しているのはメインボーカルではなくギターボーカルだったりする。
要するに演奏するにしても歌い分け──パート分けも考えないといけない。
それにさっき春野さんが言ってたけど『ワーミーペダル』というペダル操作ひとつで音程を変化させることが出来るエフェクターが必要になる。
話を聞く感じだと、春野さんはそのエフェクターを使ったことがないみたいだ。
それを思うと私と春野さん──初心者同然の私たちにとって、かなり負荷が大きくなりそうだ。だけど……
「──歌い切ります。何が何でも。だから先輩、お願いします。一緒にこのバンドの曲を演ってください」
私はそう言って、真先輩に頭を下げる。
私と春野さんの負荷が大きいとか、初心者だからどうとか。そんな事は言われなくても、私たちが一番よくわかってる。
私も春野さんも、まだライブをした事が無ければ、曲合わせだってろくにした試しがない。
華蓮先生と一緒に音を鳴らしたあの時と、先輩と一緒に少し音合わせした程度だ。
私たちが戦おうとしてるマリナの足元にも及ばない。そんな事は私たちが1番よくわかってる。
でも。だからこそ逃げちゃ駄目なんだ。
ここで仮に簡単な曲に逃げたとして、演ろうとしてる音から逃げたとして。
これから戦おうとしてる相手に勝てるとは思えないし、何より今ここで逃げたら私はぜったいに後悔する。
それも一生。消えない傷として心の中に残り続ける。
負けたり失敗するとは怖いけど、「もしも」の暗い感情に怯えていたくない……!
「先輩の危惧してる事はわかります。あと2週間ちょっとしかないのにヤれるのかって、初心者同然の私たちがちゃんと出来るのかって。そう思ってるんですよね?」
「ならハッキリと言います。出来ます。私も春野さんも、このバンドの曲を完璧に乗りこなしてみせます」
顔をあげて真先輩の目をまっすぐに見つめながら言い切る。
シンと張り詰めた空気の中、真先輩は少しだけ困ったように笑うと、
「……そこまで言われたら、否定する訳にはいかないな」
持ってきていたケースの中から5弦ベース── 【Spector REX 5】を取り出した。
「私相手に啖呵を切ったんだ。先導、そして春野。全力で乗りこなせ」
いつもちゃらけた態度を取っている先輩とは真反対の表情。
バンドマンとして、そしてベーシストとしての顔を見せる真先輩が、私の視線と重なり合う。
もちろんと答える代わりに、私も用意していたSuper55を手に取った。
※サブタイトル
SHADOWS「Into The Line」
【ちょびっと解説】
[シンセサイザー]
→めちゃくちゃ簡単に説明すると電子回路を使って音を出すピアノの親戚みたいな楽器のこと。2010年代以降からよく使われてるイメージ。(crossfaith、Fear, and Loathing in Las Vegas、NEW BLEED、ARTEMAなど。海外だとELECTRIC CALLBOY等)
ピコピコしたゲーム的な音やノイジーな電子音など、様々な音を生み出せる事からメタル・ラウド系の音楽に使用される。
[ワーミーペダル]
Digitech 社が販売する製品。
ペダル操作一つで「自由自在に音程を変化させる」ことができるエフェクター。めっちゃ音がウネウネする。




