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第21話「時は金なり。/ TIME IS OVER」

※前回までのあらすじ。


主人公、綾女(アヤメ)がバンドメンバーの琴音(コトネ)をバカにされた事にブチ切れ。

喧嘩を売ってきた軽音部所属の麻里奈(マリナ)にライブバトルを挑む。

 

 電車に揺られること1時間。

 四華学院(ヨツハナ)に到着した私たちは、正面玄関から入らず、裏口から侵入する。


 悪いことしてる気がするけど、仕方がない。

 正面玄関から入ると、子供たちや職員さんにバレてしまう可能性があるからね。

 

 本来、外部の人が施設に入るには、施設に事前申請をする必要がある。私たちは一応施設長(華蓮先生)から許可を貰っているけど、施設自体には知らせてないので、やってることは黒よりのグレー。

 見つかったら何を言われるか……考えただけで背筋が凍る。


 細心の注意をはらいつつ、施設内に建てられた音楽教室(スタジオ)の扉を開く。

 するとそこには、既に準備を終えてドラムスローンに腰掛けていた華蓮先生が「やっほ〜」と手を振っていた。


「ハナちゃんセンセー! 久しぶりー!」


「久しぶり〜! いや〜今日も可愛いねコトネちゃんは。THE・ギャルってかんじだ」


「はいっ! THE・ギャルです!」


 ビシッ! とギャルピをする春野さんに、華蓮先生も同じようにギャルピをしていた。ホントいつの間にそんなに仲良くなったの?

 ていうか春野さん、私以上に華蓮先生と仲良くない?


 妙なジェラつきを胸に抱きつつ、じゃれ合う2人をそのままに真先輩に改めて事情を説明する。

 と言っても電車で向かう時に予め説明はしていたんだけどね。


「……事前に聞いていたとは言え、これはすごいな。バンドマンが演奏をする上で、必要な機材がほぼ全て揃っている」


 目をキラキラと輝かしながら、スタジオに置かれてある様々な楽器や設備 (アンプとかエフェクターとか)に意識を奪われていた。

 

 根っからの音楽好きである事が彼女の反応を通して伝わってくる。こんな事を言うのは失礼かもしれないけど、「子供に戻った」みたいな。初めて楽器を手にして演奏をするときの、ワクワクやドキドキした感情を思い出したような表情を浮かべていた。

 

 そんな真先輩は、私の視線に気付いたのか、ごほんと咳払いをしてスローンに座っている華蓮先生に頭を下げる。


「初めまして。1週間前に彼女たちのバンドに加入した有我(アルガ)真(マコト)と申します。担当楽器はベースです。よろしくお願いします」


「うん、話は綾女から聞いてるよ〜。あたしは四華学院(ここ)の施設長をやってる四(アズマ)華蓮(カレン)。よろしくね、真ちゃん」


 そう言って華蓮先生が手を差し伸べ、真先輩はその手を取った。

 珍しく(?)まともに挨拶をしている真先輩に驚いちゃったけど、見た感じいつも通りだし何とかなりそう。


 ……なんて思っていると、真先輩は華蓮先生の手のひらを絡めさせ、ぎゅっと優しく握り始めた。真先輩……?


「四(アズマ)華蓮(カレン)……素敵な名前ですね。それに先導から聞いていた通り──いや。それ以上に美しい人だ。どうです? このセッションが終わったら私と個人的な【音合わせ(セッション)】を──」


「マジでなにやってるんですか? センパイ」


 真先輩の手をそっと掴み上げ、ギリギリと握り締める春野さん。

 いや本当に何やってるんですか真先輩……。


「いっ、いやすまない! 私は顔の良い女性を見ると口説かずにはいられないタチで……!」


「それもう頭の病気だから病院行った方がいいですよセンパイ。っていうか、ぜったいそれだけじゃなかったでしょ」


 指摘され、真先輩は恥ずかしそうに視線を逸らした。

 それだけじゃないって……ああ、そういうことか。


「華蓮先生。演奏中は胸に気をつけた方がいいと思うよ」


「胸に? え、なに? どういうこと……?」


 意味がわからないと首を傾げる先生。

 言葉の通りなんだけど、その言葉の意味は、知らないままの方がいいのかもしれない──


 そんな事を、ドラムを叩くたびに揺れる双(・)丘(・)を横目にボンヤリと考えるのであった。


 :


 自己紹介を済ませたところで、さっそく音合わせ(セッション)をしよう! ──とマイク片手に意気込む私。

 

 だけど他のみんなは、私とは対照的に暗い雰囲気を醸し出していた。

 あれ? もしかしてやる気出してるの私だけ……?


「み、皆さん、どうしたんですか? セッションしないんですか?」


 ストラップを肩に回し、ベースを爪弾いていた真先輩が、閉じていた瞼を開いて鋭い眼光を私に向けてくる。

 もしかして私、相当ヘンな質問しちゃってます……?


「そうだな。セッションしたいよな。わかるよ先導。私も久しぶりに『バンド』として音を合わせるから、今日という日を楽しみにしていた。だがな先導──」


「私たちはまず、ど(・)の(・)バ(・)ン(・)ド(・)の(・)、(・)ど(・)の(・)曲(・)を(・)演(・)奏(・)す(・)る(・)の(・)か(・)。それを決めなくてはならない」


 真先輩の言葉を聞いてハッとする。

 そうだった! 私たちってまだ演(ヤ)る曲が決まってないんだった……!!

 

 麻里奈から渡された用紙には【演奏する曲は二曲。※オリジナルでもコピーでも可】と書いてあった。

 

 麻里奈たちは当然オリジナル曲を演奏するだろうけど、結成して間もない私たちには、当然オリジナル曲なんてない。


 今から作曲に取り掛かったところでライブ当日までには絶対に間に合わないだろうし……。いや曲作ったこと無いからどれくらいかかるのかわからないけどさ。

 

「う〜ん……ライブまでのスパンを考えると、やっぱりコピーになりますよね?」


「当日までに曲を作る事は可能だが、合わせるまでの期間を考えるとソレが無難だろう」


 思案げに呟く真先輩。

 作曲できるんだ。すごいなぁ……って、関心してる場合じゃない。とにかく演奏する曲を決めていかないと……!


「とりあえず演(ヤ)れそうな曲や自分が演(ヤ)りたいと思った曲を挙げていきませんか? そこから何か閃くかもしれませんし……」


 みんなが考え込み始めたので、私はそう提案してみる。

 昨日、華蓮先生と話して気付いた自分の失態。

「バンドは一つの組織」だと言う事を意識して、春野さんたちの意見を聞いてみることにした。

 

 みんなにも「この曲を演奏したい!」って想いがあるだろうし、その中で演(ヤ)れる曲を見つけていければいいんじゃないかなと考えていた。


「おお、いいねそれ! みんなで挙げていこっ!」


「まぁそれが無難だな」


「ねぇ、それってあたしも挙げるの?」


「もちっ! ハナちゃんセンセーはウチらのバンドメンバーなんだからっ!」


「『一時的なサポートメンバー』ね!?」


 否定されるかなと思っていたら、思いの外反応が良かった。

 ホッと胸を撫で下ろしつつ、どの曲を演(ヤ)るのかについて、みんなで意見を出し合う事になった。


「はいっ! まずはウチからっ!」


 何処から持ってきたのか、小さいホワイトボードを取り出して何かを書き始める春野さん。

 ふんふんと鼻歌を交えながら、ホワイトボードに描いたバンド名を私たちに公開する。


「ウチが演(ヤ)りたいバンドは──これだ!!

 【Crossfaith】!!」


「却下だ」


「無理だね〜」


「いや何でッ!?」


 春野さんがあげたバンドは、彼女が一番好きだと言っていたメタルコアバンド【Crossfaith】。

 私も大好きなバンドだし、もし演(ヤ)れるんなら演(ヤ)ってみたいなぁ〜とは思っているんだけど、真先輩と華蓮先生の反応は渋かった。


「何でって春野、このバンドが好きならわかるだろう? 誰が『シンセサイザー』を演奏するんだ?」


「……あっ」


 真先輩に指摘され、春野さんは口を開いた状態でフリーズ。

 そうだ。Crossfaithはギターやベース、ドラムだけじゃなくて『シンセサイザー』が必要になるんだ。

 

 脳髄に響くようなメタルサウンドに加え、ノイジーなエレクトロサウンドは、もはやCrossfaithの象徴、シンボルとも言っていい。

 

 それが無いとなると……確かに。いくら演(ヤ)りたいと言っても中々難しいか。そもそも誰がシンセサイザー弾いてくれるんだって話にもなるし。

 

 春野さんも私と同じで、演(ヤ)りたいが先行しすぎて頭から抜けてたらしい。

 キラキラの笑顔から一点してしょぼくれたひまわりみたいな表情に移り変わった。いやどんな表情なのそれ。


「好きなバンドを演(ヤ)りたいと言う気持ちはわかる。だがここで大事なのは『全員が演奏できる楽器』、『バンド・曲』であること。そしてある程度の『キャッチーさ』が必要になる。Crossfaithは確かに良いバンドだが、ライブを見にくる生徒たちには少し音が重すぎる。なにせメタルのメの字も知らない子たちだ。ハマる子たちもいるだろうが、私たちの目的は好きな音楽を布教しに行く為じゃない」


「……じゃあ、真センパイはどのバンドがいいって言うんですか?」


 Crossfaithが演(ヤ)れなくてムスッとしてる春野さんが、ふてくされた状態で真先輩に尋ねた。


「フフ……この私を誰だと思っている? キミたち以上に音楽に触れ、バンド活動をしてきた女だぞ?」


 真先輩は格好をつけながら、春野さんから手渡されたホワイトボードにバンド名を書き込んでゆく。

 あ、そこにバンド名を書くシステムなんですね。


「私が提案するバンド……それはこれだッ!!」


【THE MAD CAPSULE MARKETS】

【AA=】


 ……うん。いやあの……。


「だからッ、誰がシンセを使うんですか!?」


「打ち込みで何とかなるんじゃないか?」


 そう言って真先輩は顔を背けた。なる訳ないじゃないですか。ってかさっきまでの「デキるバンドマン」オーラは何処にいったんですか???


「……一応聞くけど。華蓮先生はどんなバンドを挙げるつもりだったの?」


「あ〜あたし? 【Slipknot】」


「シンセどころか人数の問題!?」

 

※ Slipknot。

スリップノット(Slipknot)は、アメリカ合衆国で結成された9(・)人(・)組(・)ヘヴィメタルバンド。(Wikipediaより引用)

 

 うん。普通に考えて人数足りないよね。残り5人はどうやって集めるつもりだったのかな??? 


「打ち込みで何とかなるんじゃないかな?」


「打ち込みに対するその期待感は何なの!?」


 そもそも正規メンバーすらちゃんと集まらないから華蓮先生に頼んでるのに……! 打ち込み=召喚術か何かなの!?


※サブタイトル

ROTTENGRAFFTY「TIME IS OVER」

 

更新すると言っておきながら放置してすみませんでした。

 

次またいつ更新になるかわかりませんが、完結させます。

 

それまでお付き合いください。m(_ _)m

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