-風に吹かれて-2
帝都の影。
目立つ犬の置物が置いてある家の引き戸を叩く。
「こんにちは。ジュンです。ゼロはいますか?」
走り回るような足音が聞こえ、暫くして引き戸が開くとゼロがひょっこり顔を出した。
ゼロはいつもと違う格好で黒い犬の形をした可愛いらしい寝巻きを着ていた。
「よっ。何処か調子悪い所とかあるか?」
「うん?どうかしたの?ボクは至って普通だよ?さっきから外が騒がしいんだけど何かお祭りでもしてるの?」
「いや、お祭りはしてないぞ。ゼロに何処も異常が無いならそれでいいよ。今から出られそうだったら来てくれないか?少しでも戦力が欲しいんだ」
「…うん?ちょっと待ってて」
一度、戸を閉めるとゼロは可愛らしい寝巻きから着替えて戻って来た。
「行く所は決まってるの?」
「まだ決まってないけど情報収集もしたいしギルドに行こうかと思ってる」
「ギルドでも把握できてるのかなぁ?」
「分からないだろうな。こんな事、一度も無かっただろうしギルド内でもパニックになってるかもしれない。だけど、行かないよりはマシかと思うんだ」
「そうだね。行こうか!なっちゃん達も待ってるからね」
そして俺達は騎士のいる安全なギルマンシェを通ってギルドへと急いだ。
ギルド、アラルトルーフェ。
外にいる時から聞こえていたけど、建物の中は予想していた以上にパニックになっていた。
受付けに固まるギルド員達。
悲鳴や制止する声、怒鳴り声が響き渡っていて煩かった。
人の集団から足を引っかけてこけながらもやっとの思いで抜け出して来た女の人が一人いた。
「ユミルさん!大丈夫ですか?…それといきなりで申し訳ないんですけど帝都中で起きている事について何か分かりますか?」
片足が挟まって動けないでいるユミルさんを引っ張り上げる。
「……はぁ。ありがとう。残念ながら私達でも何が起きているのかは分かってないのよ。今の状況を調べる為にタンザリーファにいる知り合いの所に行きたいのだけど……ギルドがこの状態じゃ行けそうに無いね…。ジュン君、アオイちゃん、ゼロ君。お願いがあるの。タンザリーファにいるルキにこの手紙を渡しに行ってもらえないかな?あの子なら何か分かると思うの」
「行くのは構いませんけど…ルキさんってどんな人ですか?タンザリーファも行った事が無いのでなんとなくでしか分からないので簡単に道も教えてもらえますか?」
「ああ、そうだったね。ルキは金色、長髪の女の子でウォルタリカ出身の人だから頭に角を着けてるの。だから、直ぐに分かるかな?タンザリーファはここから北北東の位置、レイウォークから北東にあるメイディシアの森の中にあるんだ。行くまでは看板があるし、森の中は道案内もあるから迷う事は無いと思うよ。行けそう?」
「はい。多分、行けるかと思います」
「それじゃ、手紙をお願いね!ルキには私から連絡入れとくから。頼んだよ!」
そう言うとユミルさんは手紙を渡して人混みの中に戻って行ってしまった。
受け取った手紙を見ると今の状況についてと、何かしらのサンプルが二つの小袋に入っている。
「これって何だろうねぇ?二つ共ちょっとしか入ってないけど…赤い?」
「うん?これは…血?ユミルさんの力で凍らされてる血だ。って事は、もう一つの粉みたいなのは皮膚?サンプルが無いと分からないからか」
「これで解決できるといいね」
「そうだな。出る前にツインメリオで何か買っておきたかったけど開いてなかったよな…。タンザリーファまで持つかな」
準備不足が少々不安でもあるけど、手紙を折らないようにポケットに仕舞い込んで荒れる帝都を後にした。
道に沿って歩き、橋を二つ超えるとリジェモーレとの分かれ道の看板を左に向かって歩く。
そして目の前に広がるメイディシアの森へと入って行った。
メイディシアの森。
ルコルトの森と違って泥濘は無く、綺麗に舗装されていて森の匂いも何か独特で薬草の匂いが漂っていた。
森の中には薬草を食べる鹿のようなディアントや蟷螂のようなクルティスがうろついて見える。
ディアントは群れをつくって移動してるらしく数が多すぎる為、できれば気づかれたくはない。
ディアントが目の前を通ると立ち去るまで待つを繰り返してクルティスだけの時はゼロと二人で倒しながら北北西に向かいながら歩いて行った。
森の中にある小さな橋を越えて行くと見た事の無い光景が視界に入った。




