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Star Dust-Drop-  作者: 鳥海水瀬
.8-枯れない花の言い伝い-
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-枯れない花の言い伝い-19

船の上。

外はすっかり日が傾いて綺麗な夕空に変わっていた。

ナルは気分が少しでも紛れるようにと俺をデッキチェアーに寝かせてから発着の準備をしていた。

風に吹かれて船は走り出す。

(ナルも疲れてるはずなのに…)

船尾楼の扉の前に凭れ、疲れて眠ってしまっているアオイ達を見てると欠伸する姿、弱音を吐く姿を一度も見せない従兄の姿がかっこよかった。

海を眺めていると夕方だからか帰って行く船が何艘も見えている。

ずっと海を見ていると、さっきまで船尾楼にいたはずなのに黒い翼がわざと視界を遮るように目の前を通ってもう一つのデッキチェアーに腰かけた。

「…そう言えば、ハルトの手は大丈夫なのか?意識を失う前に腔発して大怪我してたように見えたけど」

「治癒の力が無ければオレもお前のように倒れてたかもな。治癒のお陰で今は元通りだ。この銃もな。あの治癒の力は何処まで治し、直す事ができるのかが不思議だ」

「そっか…。それなら良かった。アオイの治癒は形があれば直せるらしいけど、ナルみたいにレンズが砕け散ってたらフレームの再生はできてもレンズだけは戻せないんだ。凄いよな。……そうだ。凄い事でもう一つあるんだけど」

何だと言うような顔をしながらハルトは俺を見る。

「俺が意識失ってる時に名前で呼んでくれたよな?あれ、凄い嬉しかったんだけど」

「……はっ?だ、誰が?オ、オレは別にお前の名前なんて呼んでないぞ!」

慌てて起き上がるハルトの顔は真っ赤になっていて、前にナツキが寝顔は可愛いとか言ってたのも分からんでもないと思えてくる。

「あははっ。そんなに顔を真っ赤にしてまで必死に否定しなくても。……なぁなぁ?お前じゃなくて、もう一回名前で呼んでみてくれない?」

「…誰が!お前はお前で充分だ!」

「えー…。ケチ」

ふと、後ろから笑い声が聞こえているのに気がついた。

少しずつ動くようになってきた身体を動かして船尾楼を覗き込むようにハルトと一緒に顔を向けるとナツキが笑いを堪えてたようで肩が小刻みに震えている。

「寝てたんじゃなかったのか?」

「うん、少しだけね。それにしても…はははっ。やっぱりハルは素直じゃないね。しっかり名前で呼んでいたのに。僕とフユネとアキハ以外の人を名前で呼んだのは初めてだったからちゃんと覚えているよ」

「…え、ハルトって人の名前を覚えるのが苦手なのか?」

「名前くらいは知ってる。ただ呼ばないだけだ」

「……相手を信頼しているかどうかだよね。ハルは」

図星なのか驚いた顔をしてハルトは固まっていた。

「ははっ。やっぱりそうだったか。良いじゃないか。名前で呼んであげても。大分前からハルの中では答えが出ていたんだろ?信頼しきれる相手かどうか。ただ呼び方を変えるタイミングが無かっただけで」

「…フン。ナツキには全部見透かされてるってわけか。分かったよ。名前で呼べば良いんだろ?そんなの簡単だ!…ジュ……ジュ…!」

「え、何て?ジュ?」

簡単と言い張ってはいたけれど眉間に皺が寄るだけで言えてない。

「ジュ…ジュ…ジュ-ス…」

「明らかに目を逸らしてるって事はわざとだよな…。はい、もう一回」

「だから、ジュ………うん」

最初よりは近づいているけどやっぱりそれ以上の言葉が出て来ない。

(倒れてた時みたいにすれば普通に呼べるようになるだろうか?試しに痛がる振りでもしてみるか)

「ハル、もう少しだよー。がんばれ、がんばれー」

ナツキの顔は笑ったままで応援が棒読みになっている。

「あー、もう!…ジュー…っ!」

「ジュンだよジュン。そこまで言えるんだから最後まで!ほらほら。………あ」

痛がる振りをするつもりだけだったのにバランスを崩してデッキチェアーから落ちてしまった。

(駄目だ…本当に痛い…)

「ジュン!?…はぁ。何やってんだ」

「ははっ。やっと名前…呼べたな。……痛い」

ハルトは中々起き上がれない俺を見て溜め息を吐きながらもデッキチェアーに運んでくれた。

「立てないお前を見てると、つまらん意地を張るのもどうでもよくなった」

「あはは…悪いな…。何もできなくてごめんな。………足手まといにしかなってなくてごめん」

泣くつもりなんてなかったのに目から涙が溢れ出て来る。

急いで拭っても次から次へと溢れ出て止まらなくなった。

誤魔化すように顔を腕で隠してると頭を強く殴られてしまった。

腕を恐る恐る退けるとハルトが眉間に皺を寄せて怒ってるのが見える。

「何で泣く必要がある?ナツキを助けてくれたんだろ?オレはそれに感謝してるんだ。足手まといになったのはオレも変わらん。気にするな」

「はははっ。お前のその顔は反則だ…」

怒っていた顔からハルトは見せた事の無い顔で微笑んでいるのがおかしくておかしくて笑いが止まらなくなった。

「…何がおかしいんだよ」

「何でも無いよ。あはははは!……痛っ」

痛む身体を押さえながら独り笑い続けた。

何に笑っているのか理解していないハルトを見てナツキも笑っている。

舵輪の前に立つナルも微笑んでいて、笑い声で起きたアオイとゼロは不思議そうに見ていた。

(本当にみんなと出会えてよかったよ)

潤む瞳に見える空は海と反射して色鮮やかなオレンジ色を映していた。


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