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第五章 死にたい王子、爆誕?


「……あの、殿下。今の話、もう少し詳しく聞かせてもらえますか」

まだ半分、頭がついていっていない。でも、聞かないわけにはいかない。

「この国の王族は、代々そういう血を引いている。君も知っているだろう? 神の加護だの、奇跡だのといった大層な理由でね」

「……ちょ、ちょっと待ってください。じゃあ、本当に貴方は……死なないのですか?」

「そう。致命傷を負っても、すぐに塞がってしまう」

「……老いもしない?」

「そう」

「……じゃあ一生、お肌のシミとかシワとか、一ミリもできない?」

「……そうだね」

「……………………最強の美容法じゃないですか!!」

「そこ!?」

思わず本音が漏れた。

いやだって普通に羨ましいでしょ! こっちは寿命四年の美容どころじゃないサバイバル生活送ってるんだよ!? なのに、なんで死にたいなんて、そんな贅沢なことを言うのか。

エテル殿下は小さく笑った。けれど、その笑顔は、どこか遠い場所を見つめるように寂しげで。

「君には分からないだろうね。老いて、死ぬということが、どれほど美しく、豊かなことか」

「……」

「僕はね、幼い頃に母を亡くした。彼女は短命だったけれど、最後はとても幸せそうに眠っていたんだ」

「……殿下」

「その時、心の底から思ったんだ。僕も、ああやって『終わり』を迎えたいって」

彼の言葉が、冷たい風に乗って私の胸に静かに落ちた。永遠という牢獄に閉じ込められた王子の、悲痛な叫び。

でも! それとこれとは話が別!

「……お気持ちは分かりました。分かりましたけど、それとこれとは話が別です! 私にそんなお願いをされても困ります!!」

夜の教会裏に、私の魂の叫びが響き渡った。

だって仕方ないでしょ!? 私は聖女候補! 癒すのが仕事であって、殺すなんて真逆もいいところ! それに何より、お母様との約束がある。

『何があっても、人の命を奪うべからず』。

そんな大事な掟、王子様のわがままで破れるわけないじゃないですか……!!

「重ねてお断りします。他を当たってください」

「ふふ、そんなに強く言わなくてもいいじゃないか。それより」

殿下がスッと手を伸ばし、私の頬を掠めた。その指先が氷のように冷たくて、私は硬直する。

「お腹、空いてるだろう? 今夜の王宮の夜食は、一流シェフが作った特製のタルトだよ。……少し、食べていかない?」

「なっ……! 食べ物で釣ろうなんて卑怯です!」

「卑怯で結構。それで、どうする?」

「……で、ちなみに、何タルトですか?」

私の胃袋が、掟よりも先に白旗を上げようとしていた。

「苺と、洋梨と、あとチョコレートも」

「……三種類も!?」

「もちろん全部、味見できるよう用意させよう」

「そ、それはずるいです! 絶対ずるいです! でも……」

自分の意志の弱さに、心の中で盛大に土下座する。

(お母様、ごめんなさい。娘は今、王宮のタルトの誘惑に負けそうです……!)

エテル殿下は、私の葛藤を見抜いているのだろう。愉快そうに目を細めて、とどめの一言を放った。

「大丈夫。タルトを食べるだけだよ。……今夜のところは、ね」

その「今夜のところは」に含まれた含みを、私はまだ、正しく理解していなかった。

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