第五十九話 冤罪の処刑
王城の屋上。煙が燻る静寂の中で、私は無数の騎士たちに包囲されていた。冷たい剣先が喉元に押し当てられ、銀色の刃が月光を跳ね返している。
そこへ、息を切らせたエテル様が駆け寄ろうとした。そのアイスブルーの瞳には、私を案じる色と、抑えきれない激情が混ざり合っている。
けれど、私は彼が近づく前に、わざと突き放すような冷徹な声を上げた。
「……近寄らないでください、殿下。すべて私一人が行ったことです。貴方は何もご存知ないはずでしょう?」
「ディアナ……何を言っているんだ! 待ってくれ……っ!」
伸ばされたその手を、私はあえて視線で拒絶した。
(ごめんなさい……エテル様。貴方をこれ以上、大罪人の共犯者にするわけには参りません。貴方はこの国の光でいなければならないの……)
エテル様の絶望に満ちた叫びを背中で聞きながら、私は大人しく騎士団に連行された。「王妃殺害」と「国家への呪詛」。あまりに重すぎる罪状を背負わされ、私は再び、あの冷たい地下牢へと繋がれた。
***
「真なるタナトス」の浄化により、王都を覆っていた禍々しい黒い靄は晴れ、人々は意識を取り戻していた。枯れ果てた土壌も、白銀の光に洗われて元の緑を取り戻している。
しかし、一度「万魔の壺」に吸い尽くされた膨大な生命エネルギーは、完全には戻らなかった。かつて不老長寿を謳歌していたヴィタ王国の民たちは、等しく「寿命」という概念を持つ、約百年の命しか持たぬ短命種へと変質してしまったのだ。
「身体が……重い。今までのような力が湧いてこないわ……」
「私の生命力が削られている! 命に『終わり』があるなんて……!」
初めて味わう「死へのカウントダウン」という恐怖。その理不尽なパニックの矛先は、消滅した王妃の遺言通り、唯一の「死神」である私へと向けられた。
牢獄の小さな窓から、遠くで民衆が「死神を殺せ!」と叫ぶ不穏な地響きが聞こえてくる。
私は、冷たい石床の上に膝を抱えて座り込んでいた。
「……処刑は明朝だ。死神、貴様の呪いもそこまでだ」
鉄格子の向こう側、アルリック様が、氷のような視線を投げかけてくる。彼はリヴァベラの最期の嘘を真実だと信じ込み、私を完全な悪と断じていた。
私は何も言い返さず、ただ静かに目を伏せた。
***
アルリック様の足音が遠ざかり、独りきりになった闇の中で。
私は、堪えていた涙をひとしずく零した。
(死にたくないと……思ってしまう。こんな私を愛してくれた、エテル様のそばで、もっと生きていたいと……そう願ってしまう……)
自分の命を差し出して彼を守ると決めたはずなのに。いざその時が近づくと、心の奥底から「嫌だ」という叫びがせり上がってくる。生きたい。まだ、彼の隣で笑っていたい。そんな身勝手な願いを、誰にも打ち明けられないまま。
頬を伝う涙は、あまりにも温かく、そして残酷なほどに生への執着に満ちていた。




