↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/65

第四十八話 断罪の茶会、崩れ去る平穏

二人で並んで座り、手を繋いで、昨日一緒に作った不格好なケーキを食べる。

「君と作ったからか、美味しさが倍増している気がするよ。止まらないな」

そう言ってパクパクとケーキを口にするエテル様の横顔。私もまた、そんな彼との穏やかなひと時を心から楽しんでいた。……けれど。

「失礼する」

不意に現れたアルリック様に、私は恥ずかしくなって繋いでいた手を離そうとした。けれど、エテル様はわざと指を強く絡ませ、絶対に離そうとはしてくれない。

アルリック様はそんな私たちを冷ややかな目で見据え、一通の手紙を差し出した。裏面には、見覚えのある薔薇の朱印、リヴァベラ王妃様のものだ。

(……招待状? 明日の、女性限定の茶会……)

「将来の王太子妃として、社交を学びなさい」

添えられた手紙には、命令に近い一文が記されていた。エテル様は「僕がいない席には出なくていい。何かあったら守れない」と反対してくれたけれど、彼の立場を思えば、ここで私が逃げるわけにはいかない。

「……大丈夫です、エテル様。行ってまいりますわ」

私は一人、嵐の予感がする会場へと向かう覚悟を決めた。

***

当日。会場には華やかに着飾った令嬢たちが集まっていた。

エテル様が「僕が選んだドレスを着てほしい」と用意してくれた、アイスブルーのシフォンがふわふわと揺れるドレス。散りばめられたパールが月光のように輝く。

(……エテル様、ありがとうございます。頑張りますわ)

主催の王妃様の姿はなく、代理としてオーレリアン様がその場を仕切っていた。彼女の一挙一動に令嬢たちが陶酔する中、私は並ぶ茶菓子の美味しさに束の間の癒やしを得ていた。……その時だった。

「……痛っ!」

短い悲鳴と共に、同期のミレイが転倒した。その膝には、転んだだけとは思えないほど深く、抉れたような傷口から血が溢れている。

呆然とする私に、オーレリアン様が満面の笑みで告げた。

「あらあら、可哀想に。ディアナ、次期王太子妃候補の『聖女』である貴方なら、お手本を見せてくださるわよね? 慈愛の力を見せてほしいわ」

ミレイの苦しむ姿を放置などできない。私は駆け寄り、傷口に右手をかざした。……その瞬間。

鼻腔を突く、異常に甘く、どろりとした香り。

(この匂い……誕生祭の時の『聖水』!? 会場の花々に撒かれているんだわ……!)

心臓が凍りつく。逃げ場のない密室に、あの時と同じ匂いが満ちている。

精神がかき乱され、タナトスの力が暴走を始める。絶体絶命の瞬間、私はフェンリスに教わった制御法を必死に思い出した。

(……眠れ。お花さんたち、お願い、眠って……!)

左手から溢れかけた黒い靄が、周囲の花壇を包み込む。すると、聖水を吸い上げた花々が次々と蕾を閉じ、香りが遮断された。

(今よ……!)

私は再びミレイの傷に集中する。「生なる神アウレリアよ、傷を癒したまえ――」

寿命が削れる特有の音と共に、黄色い光が傷を塞いでいく。安堵したのも束の間、ミレイは「ふわぁ……」と大きな欠伸をして、そのまま深い眠りに落ちてしまった。

「えっ……!? ミレイ!?」

それだけではない。制御しきれなかったタナトスの「眠り」の波動が会場中に広がり、悲鳴を上げていた令嬢たちや、オーレリアン様までもが、糸が切れた人形のように次々と眠りについていく。

静まり返った異常な光景。そこへ、剣を帯びたアルリック様が踏み込んできた。

「……やはり、死神だったか」

冷徹なその一言が、私の退路を断った。

一面に立ち込める死の霧。眠り続ける人々。言い逃れのできない証拠が、そこにはあった。

(判明してしまった……。こうなった以上、もう、エテル様の隣にはいられないかもしれない。……ううん、たとえそうだとしても、彼だけは絶対に道連れにしない)

私は震える拳を握りしめ、アルリック様を見据えた。

「……エテル殿下は、何も知りません。私が彼を騙して、側に仕えていました。彼に、罪はありません」

彼だけは守りたかった。彼には、光の中にいてほしかったから。

「そんなこと、分かっている」

アルリック様の冷たい剣先が、私の首元に突きつけられる。私は無駄な抵抗を捨て、そのまま冷え切った地下牢へと連行された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。