第四十七話 粉塵爆発! 王太子殿下の甘い挑戦
また別の日。エテル様は、いつも側で自分を支えてくれる私に「何か形に残るものを贈りたい」と、全力で尽くす方法を考えていたようだった。
そして、甘いものが大好きな私のために、手作りのケーキを贈ろうと決意したのだという。
「完璧な比率で混ぜれば、失敗することはないはずだ!」
厨房に籠もったエテル様は、まるで国家機密の魔導書を解読するかのような凄まじい集中力で、小麦粉を計量し始めた。卵や牛乳と混ぜ合わせるまでは、騎士らしい正確な手つきで順調に進んでいた……。
しかし、事件は粉を振るう工程で起きた。
「もっと、効率よく……!」
せっかちな性格が災いしたのか、彼はボウルを激しく振りすぎてしまったのだ。一瞬にして厨房中の粉が空中に舞い上がり、視界を真っ白に染め上げる。
そこへ運悪く、加熱用の火の魔導具が反応してしまった。
ドーン!!
凄まじい爆発音と共に、白い粉煙が厨房の天井まで噴き上がる。鍋や食器がガラガラと音を立てて棚から転がり落ち、まるで小さな雪山でも崩れたかのような惨状だった。
「エテル様!? 大丈夫ですか……っ!?」
驚いて駆けつけた私の目に飛び込んできたのは、頭の先からつま先まで真っ白な粉まみれになったエテル様だった。金髪もまつ毛も粉で真っ白になり、まるでおじいちゃんのような姿で立ち尽くしている。
「……ディアナ、すまない。雪の妖精になろうとしたわけじゃないんだ……」
しょんぼりと項垂れるその姿があまりにも愛らしくて、私は思わず駆け寄って彼に抱きついた。
「ふふっ、大丈夫ですわ! 世界で一番可愛い妖精さんですこと!」
私の言葉に、エテル様は粉まみれの顔をさらに赤くして照れくさそうに笑った。
***
その後は、二人で並んでケーキ作りの続きをすることに。
「ほら、エテル様。混ぜる時は優しく、ですわよ」
「ああ、難しいな。剣を振る方がよっぽど楽だよ」
そんな会話をしながら、私の指についた生クリームをエテル様が不意に舐めとったり、出来栄えを確認するために「あーん」をし合ったり。
頬に粉をつけたまま見つめ合う、砂糖菓子のように甘い時間が流れていく。
「うん! とても美味しそうだ。……夕食後に、二人で食べようか?」
「ええ、もちろんですわ! いただくのが今から楽しみです!」
不格好だけれど、愛情がたっぷり詰まったデコレーションケーキ。
幸せを噛みしめる私たちの背後に、音もなく「断罪」の影が忍び寄っていることなど、この時の私たちはまだ知る由もなかった。




