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第三十七話 暁の帰還と、重なる鼓動

洞窟の隙間から差し込む柔らかな朝日と、遠くで鳴く小鳥のさえずりで目を覚ました。

私を包み込むエテル殿下の胸元からは、トクントクンと規則正しい心臓の音が響いている。

(殿下の心音、安心します。……殿下が、ちゃんと生きていると分かるから)

その温かさと心地よいリズムに誘われ、再びまどろみに落ちそうになる。けれど、私は首を振って自分を律した。

(ディアナ、しっかりして! 朝一番にここを出なければ、王宮に戻れませんわ。王妃様が刺客を放っている可能性もありますし……。戦わずに済むのが一番ですけれど、もしもの時は、この力で殿下をお守りしなくては)

自分の左手をじっと見つめ、静かに覚悟を決める。

(人の寿命を奪うのは、決して良いことではない。けれど、逃げる隙を作るためなら……この力を使いましょう)

私は、まだ夢の中にいるエテル殿下をそっと揺り動かした。

「殿下、起きてください。早めに洞窟を出ましょう……」

「ううん……まだ眠い……ディアナはどこ……? 君の……温かさが、ほしい……」

殿下は目を閉じたまま、宙を彷徨う手で私を探している。

(ふふっ……殿下、可愛いですわ)

私はそっと、彼の頬に「おはよう」の口づけを落とした。

「私はここにいますわ。ほら、起きてくださいまし。二人で王宮へ戻りましょう!」

途端、エテル殿下は寝ぼけ眼をこすりながら、パッと目を見開いた。

「君におはようのキスをしてもらえるなんて、朝から幸せだなあ……」

そう言って、すかさず私を抱きしめてくる。

「殿下! 刺客たちが来る前に、早く参りましょう!」

急かして着替えを手伝う私に対し、殿下は子供のように駄々をこね始めた。

「いやだ。まだディアナにくっついていたい。城に帰ったらまた公務に押し潰されるし、僕への殺意とも戦わなくちゃいけないんだ。……このままここで、ディアナと暮らすの」

「もう、殿下ったら! いいですか、殿下が王太子として頑張っている姿を、私は誰よりも知っています。殿下への殺意は私も共に戦いますし、公務だって手伝いますわ! だから、共に戻りましょう」

私は殿下の右手をぎゅっと握り、洞窟の外へと踏み出した。

警戒心を最大に引き上げ、周囲を鋭く見渡す。二度と彼に矢を向けさせないよう、殿下を自分の方へ引き寄せ、庇うように歩を進めた。

***

森の出口に差し掛かった、その時

茂みの陰から音もなく現れた数人の刺客たちが、私たちを包囲した。

エテル殿下が瞬時に剣を抜き、私の前に立ちはだかる。

「殿下、下がっていてください……! 貴方様が無事に帰ることが、何よりも最優先事項です。……ここからは、私の出番ですわ!」

私は殿下の背中越しに左手をかざした。

(あの森での暴走とは違う。今度は、ちゃんと加減できる気がするわ……)

意識を集中させると、指先からしなやかな黒い靄が溢れ出し、刺客たちの足元を這い、全身を包み込んでいく。「奪う」のではなく、「眠らせる」――そんなイメージを、私は必死に思い描いた。

「な、なんだこれは……急に、眠気が……」

刺客たちは武器を取り落とし、次々とその場に倒れ伏した。やがて、森には「グォー」という呑気ないびきだけが響き渡る。

(ふぅ……。今度はちゃんと、命を奪わずに済みましたわ! あの時とは違う……。少しだけ、この力と向き合えている気がします)

そのまま私は殿下の手を引き、足早に森を抜けた。

エテル殿下に教わった隠し通路を通り、誰にも見つかることなく彼の自室へと滑り込む。

「殿下、お怪我はありませんか? 大丈夫ですか?」

心配でたまらず、殿下の全身を隅々まで調べようとすると、彼はふわりと微笑んだ。

「大丈夫だよ、ディアナ。君が側にいてくれたからね。……そんなことより、走って疲れたから『君』を補充したいな」

殿下はまた私を腕の中に閉じ込め、深く息を吐いた。

その温かさに包まれながら、私は無事に帰ってこられたことに、心の底から安堵したのだった。

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