第三十六話 微睡の誓い
ディアナとエテルは、大きな毛布に二人で包まり、互いの体温を確かめ合うように抱きしめ合っていた。
静寂が支配する洞窟の中に、不意に可愛らしい音が響く。
「ぐぅぅ……」
(――っ! こんないいムードの時にお腹が鳴るなんて、恥ずかしすぎて無理ですわ……!)
顔を真っ赤にしたディアナは、誤魔化すように鞄の中をまさぐった。幸い、万が一の備えとして忍ばせていた軽食が見つかる。
「……殿下、これ。食べましょう。この雨では、明日の朝一番に発つしかなさそうですし……今夜はここで一晩過ごすしかありませんわね」
差し出された二つのパン。エテルはそれを嬉しそうに受け取ると、空いた方の手でディアナの右手をそっと包み込んだ。それはいつものような握り方ではなく、指と指を深く絡ませ合う、もう二度と離さないと言わんばかりの強い繋ぎ方だった。
二人は甘い空気を感じながら、ささやかな食事を分け合った。
洞窟の外から聞こえる雨音に耳を傾けながら、ディアナは苔むした地面に身体を横たえる。
(……色々な真実を知って、安心したせいかしら。急に眠気が……。暴走した時の力のことは、まだ怖くて疑問も残るけれど。今は……少しだけ、殿下に甘えても許してもらえるかしら)
ディアナは、隣で同じようにまどろんでいるエテルの背中に、そっと縋り付いた。
(殿下……好きですわ。この言葉を、胸を張って口にできる日が……いつか来ますように……)
心の中で切に願うと、エテルがゆっくりと身体をこちらへ向けた。
「ディアナ。君の方から抱きしめてもらえるなんて……嬉しいな。このまま、一緒に寝ようか。君が側にいれば、幸せな夢が見られそうだ」
エテルは再び指先を絡ませ、愛おしそうに目を閉じる。ディアナもまた、その大きな温かさに身を預け、深い眠りへと落ちていった。
***
真夜中、ふと目が覚める。腕の中に伝わるディアナの温もりと愛おしさが、僕の心をかつてないほど穏やかにしていた。
全身を僕に預けて眠る彼女の姿は、安らかな信頼に満ちている。
今日、彼女にだけは僕のすべてを話した。不老不死の呪い……生きているだけで周囲を不幸にする、この醜い存在。
もう生きていたくない。この苦しみを終わらせたい。そう願って、自分の欲望のために彼女を側に置いた。
けれど、彼女は僕に「生きる楽しさ」や「幸せ」を思い出させてくれたんだ。
君は「私は死神ですから」と悲しそうに笑うけれど、僕の呪いを弾き飛ばしたのは、間違いなく君の愛だ。
打ち明けるのは、本当は怖かった。無意識に寿命を奪う化け物だなんて知られたら、「気持ち悪い」「側に来ないで」「もう貴方の側にいたくない」と拒絶されるのではないかと、足が震えるほどに。
けれど、君はそんな僕を「辛かったですね」と抱きしめ、心さえも救ってくれた。
死神としての宿命を背負う君にも、きっと僕に言えない辛さや悲しみがあるんだろうね。
次は、僕が君を救う存在になりたい。君が僕を救ってくれたように。
「むにゃ……殿下……これからも……お側に……いさせてください……」
小さな寝言が聞こえ、僕の中で彼女への愛おしさが爆発しそうになる。
「君は、本当に……」
こらえきれず、そっと彼女の唇に口づけを落とした。
そのまま彼女をさらに深く抱き寄せ、僕は幸福な眠りへと戻る。
(僕の方こそ、生涯、君を僕の側に置いておきたいよ……)




