第二章 不老不死?笑わせるな(エテルside)
「ヴィタ王国の栄光は、永遠の命と共にあり!」
「不老不死こそ、神が我が国に与えし最高の誉れなり!」
父上も、大臣たちも、民衆も。この国の人間は、みんな声を揃えてそう言う。
……もう、耳にタコができそうだ。
不老不死、万歳? 永遠の生に祝福を?
冗談じゃない。そんなもの、ただの質の悪い『呪い』でしかないのに。
僕はただ、普通に老いて、普通に死にたいだけだ。なのにこの国では、それが一番贅沢で、一番難しい願いだなんて。
「……母様」
部屋の片隅、埃ひとつない額縁の中に納まった肖像画に目をやる。
そこに映るのは、僕が幼い頃に亡くなった母上ノエル。春の陽だまりのような微笑みを浮かべる、優しい人だった。
けれど、母上は病弱で、短命だった。一〇〇〇年生きるのが当然の王族の中で、彼女だけがロウソクの火が消えるように、あっけなく逝ってしまった。
「どうして、母様は死んで……僕は生き続けるんだろうね」
同じ血を引いているはずなのに。
僕の身体には『神の加護』が刻み込まれている。傷を負っても瞬時に塞がり、病に冒されることもない。時間は、僕の横をただ通り過ぎていくだけ。
老いない。死ねない。終われない。
愛した人はやがて灰になり、自分だけが取り残されて、虚しい記憶だけが積み上がっていく。
何百年、何千年とその繰り返し? そんな未来を想像するだけで
「……吐き気がするよ」
僕は静かに目を閉じる。
もし、この永遠という名の牢獄を壊す方法があるなら。たとえそれが神に背く禁忌だろうと、僕は迷わずその手を取るだろう。
***
「ねえ、聞いた? 第一教会で、また古い文献が見つかったらしいわよ」
廊下を通りかかったメイドたちの囁き声が、偶然耳に飛び込んできた。
「え? どんな?」
「“死神”に関する古文書よ。百年に一度現れるっていう……」
僕は無意識に足を止める。
「死神!? 怖いわね……人の寿命を奪うなんて」
「そうよ。知られた瞬間、即処刑なんですって。恐ろしいわ」
死神。他者の寿命を奪い、己の糧とする存在。
……奪うことができるなら。僕の『余りすぎた寿命』を、押し付けることも可能なんじゃないか?
「……ふふ、面白い」
僕は小さく口角を上げた。
もしその『死神』とやらが実在するなら、僕をこの終わらない地獄から救い出してくれるかもしれない。不老不死を捨てて、ただの人間になれるかもしれない。
僕は、ただ死にたいわけじゃないんだ。『寿命を全うする』という、生き物として当たり前の権利を取り戻したい。
母様が生きられなかった時間を、僕は本当の意味で生きて、そして、綺麗に終わりたい。
「第一教会、か」
窓の外を見やる。夕闇に溶けゆく白い尖塔。あそこに、僕の望みを叶える『救世主』がいるかもしれない。
この時の僕は、まだ知らなかった。
そこにいる死神が、震える手で人を助け、自分の寿命を削って泣いているような、ひどくお人好しで、愚直な少女だということを。
そして、誰よりも『生』に恋い焦がれている存在だということを。
「待っててね、僕の死神」
僕は仮面のような微笑みを貼り付け、夜の闇へと足を踏み出した。




