第一章 命を削って働く聖女候補、つらたん
「聖女の務め」とか言いますけど、マジで命がけなんですけど!?
ここはヴィタ王国の中心部、第一教会。
白亜の石造りに壮麗な大聖堂、巨大なステンドグラス……まあ、見た目は荘厳で素敵なんだけど、中身はドロドロの女の戦場だ。
なぜなら、ここには私みたいな「聖女候補」たちがぎゅうぎゅう詰め。
みんな一応「清く正しく美しく」がモットー……のはずなのに、現実はこれだ。
「あらあら、ディアナ様。また倒れたってお聞きしましたけれど?」
「そんなに無理なさって……『寿命を削る奇跡』なんて、本当に大変ですわねぇ?」
はい、来ました。嫌味コンボ。
声の主は、同期の聖女候補リサとミレイ。見た目は天使、中身はサソリ。笑顔で急所を刺してくるタイプである。
「大丈夫です、ちょっと貧血気味なだけですから」
私はできるだけ「聖女っぽい」柔らかな微笑みで答える。
……が、内心のツッコミは止まらない。
(貧血どころじゃねーよ!! こっちはあと数年で人生の千秋楽なんだよ!!)
でも言えない。そんなこと言ったら「やだー大げさぁ、悲劇のヒロイン気取り?」って笑われる未来しか見えない。
「まあ、無理なさらないで? ディアナ様が早死に……ゴホッ、倒れたりしたら、癒やしてもらう下層民の方々が困りますものねぇ」
今、絶対に「早死に」って言いかけたよね!?
なんでそんな呪いみたいな言葉を、聖歌みたいなトーンで言えるのか。この子たち、悪役としての才能がカンストしてる。
そんな嫌味コンビの上を行くのが、筆頭聖女オーレリアン様だ。
彼女は徹底した長寿至上主義者。私のような短命種は、彼女の視界に入るだけで「汚れ」らしい。
「あら、ごめんなさい。あまりに汚らわしい存在が視界に入ったから、つい手が滑ってしまったわ」
慈愛に満ちた微笑みを浮かべたまま、彼女は私の顔に淹れたての熱いお茶をぶっかけた。
熱い。痛い。
でも、彼女は一〇一二年を生きる、この国の「正義」そのもの。逆らえるはずもない。
「……失礼いたしました、オーレリアン様。お手を煩わせてしまい、申し訳ございません」
床に滴るお茶を拭きながら、私は必死に耐える。
リサたちの「無能聖女のくせに候補生になるからよ」というひそひそ声が、嫌でも耳に届く。
(……それでも、私はやめられないんだよなぁ)
病で苦しむ人、怪我で泣く子供。助けを求める声を聞くと、身体が勝手に動いてしまう。
私の母は、伝説級の聖女だった。
その背中を見て育った私には、「見捨てる」という選択肢がどうしても選べないのだ。
「ディアナ様! お急ぎください、近くの村で怪我人が!」
呼び出しの声に、私は弾かれたように立ち上がる。
背後に「また命を削りに行くのね、馬鹿ねぇ」という冷たい視線を感じながら。
***
現場に着いた瞬間、私は息を呑んだ。
血に染まった少年が担ぎ込まれている。まだ息はあるけれど、このままでは…
「すぐに癒やします!」
私は少年のそばに膝をつき、祈りを込めて手をかざした。
(お願い、間に合って……!)
掌から溢れ出した温かな光が少年の傷を塞いでいく。
誰かを生かすことができる。その瞬間だけは、自分の存在が許されたような気がして。
ピキッ。
胸の奥で、嫌な音が響いた。
……ああ、これ。わかる。
今、ガッツリ寿命削れたわ。
あとどれくらいだろう。たぶん……二年ちょっと。
(やばい、街角にできた新しいパン屋さんのクロワッサン、まだ食べてないのに……!)
食い意地のはった後悔がよぎるが、手は止めない。
少年の呼吸が安定し、涙を流す母親が私に何度も頭を下げる。
その笑顔を見るたびに、「ああ、やっぱり損してでも助けてよかった」なんて思っちゃう私は、たぶん相当な大馬鹿野郎なんだと思う。
***
夜。教会に戻った私は、窓辺で月を見上げていた。
「あと、どれくらいかな……」
小さく呟く。
生きたい。でも、誰かから奪うのは嫌だ。
お母様との約束を破りたくない。
そう思っていた時ー。
どこかで、不思議な視線を感じた。
いや、気のせい?
でも……なんだろう、胸がざわつく。
まるで、誰かに「やっと見つけた」って言われたみたいな。




