第二十七話 目覚めと、甘すぎる看病!?
「……んぅ」
小鳥のさえずりと、窓から差し込む柔らかな朝日の光で目を覚ました私。
意識が浮上すると同時に、昨夜の記憶が鮮明にフラッシュバックする。
(……そうですわ。毒の中和が間に合わなくて、倒れてしまったのですわね。せっかくの晩餐会で、殿下に多大なご迷惑をかけてしまいましたわ……)
申し訳なさでいっぱいになりながら、ふと横を向く。そこには、私の手を「絶対に離さない」と言わんばかりの強さで握りしめ、椅子に座ったまま健やかな寝息を立てているエテル殿下の姿があった。
「殿下……ありがとうございます。ずっと、側にいてくださったのですね」
かつて第一教会で聖女をしていた頃、無理がたたって倒れても、誰も看病などしてくれなかった。「体が弱いからダメなんだ」「役立たず」……そんな言葔ばかりを浴びせられてきた。倒れた翌朝も、一人きりの部屋で天井を見つめながら、痛む体を引きずって起き上がるしかなかった。
だからこそ、こうして殿下が夜通し付き添ってくれたことが、何よりも、涙が出るほど嬉しい。誰かが自分のために眠らずにいてくれる、それがこんなに温かいことだなんて、知らなかった。
(ふふっ、殿下ったら……)
幸せな気持ちで、殿下のふわふわとした金髪をそっと撫でていると、「……うぅん」と声を漏らし、殿下がゆっくりと目を覚ました。
「殿下、おはようございます。ご心配をおかけいたしました。側にいてくださって、本当にありがとうございます」
私が笑って告げると、殿下は潤んだアイスブルーの瞳でじっと私を見つめ、次の瞬間、壊れ物を扱うように強く抱きしめてきた。
「……っ、ディアナ。目が覚めてよかった……本当によかった……!」
抱きしめる殿下の体は微かに震えていて、彼がどれほどの恐怖を感じていたのかが伝わってくる。私は何も言わず、優しく彼の背中を抱きしめ返した。
***
しばらくの抱擁の後。運ばれてきたお粥を、殿下自らふーふーと冷まし、匙ですくって私の口元へ運んできた。
「!?!?!?!? で、殿下! お待ちください!そんな、殿下のような高貴なお方に食べさせてもらうなんて…畏れ多いですわ!」
「ダメだよ。これは僕を夜通し心配させた『罰』だからね。今日一日の食事は全部、僕が食べさせる。着替えも移動も、全部僕が側にいるから」
その表情は、冗談でも悪戯でもない、真剣そのもの。
「えっと……その、分かりました……」
あまりの熱量に抗うこともできず、私は過保護を極めた殿下の「あーん」攻撃を、顔を真っ赤にしながら受け入れるしかなかった。
***
着替えだけは「恥ずかしすぎます!」と全力で自重してもらったものの、移動の時は当たり前のように「お姫様抱っこ」をされ、常に腰を引き寄せられる。距離が近いにも程がある。
(ち、ち、ちかい! 近すぎますわ! 自分の想いに気づいた直後にこの距離は、心臓への暴力ですわ!!)
するりと逃げようとしても、腰に置かれた手は驚くほど力強く、びくともしない。
「殿下……その、距離が近すぎます……」
「うん、近いね。でもこの方が君をよく見れるし、異変があってもすぐに守れるだろう?」
さらに顔を近づけて囁く殿下。その距離、あと数センチで唇が触れそうな近さ。
「はひょ……」と、変な声しか出せない私。
――
その日の夜。いつものように「抱き枕」任務に就いていた私を、殿下は正面から向かい合わせに抱きしめた。
「殿下、どうしたのですか……? 寒いですか…?」
心配になった私は、殿下の肩にそっと毛布をかけ直す。
「違うよ。……ただ、もう君を離したくないと思ったら、抱きしめずにはいられなかったんだ。君を離さないよ。正確には、離せそうもない。……君はもう、このままずっと僕の聖女でいてね」
そう言って、私の額に優しく口づけを落とす殿下。そのまま彼は、幸せそうに深い眠りへと落ちていった。
(離さないって言いました!? えっ、ずっと殿下の側にいたいという私の願いが、叶ってもいいのですか……? 殿下、ありがとうございます。これからも……命に代えても、貴方をお守りいたしますわ)
私は溢れそうになる涙を堪え、殿下の背中にそっと手を回した。
愛おしい体温を感じながら、私たちは一つになって眠りについた。




