第二十六話 王子の焦燥と、夜通しの看病
意識を失ったディアナを抱え、僕はなりふり構わず自室へと走った。
視界が揺れる。腕の中の彼女は驚くほど軽く、そして信じられないほどに冷たかった。
そっと自分のベッドに横たえ、その小さな手を握りしめる。青白い顔、微かに乱れた呼吸、額に浮かんだ冷たい汗。いつも饒舌な彼女が、こんなにも静かなのが恐ろしかった。
駆けつけた従者たちが看病を代わろうと進み出てきたが、今の彼女に僕以外の誰かが触れることさえ耐え難く、すべて追い出した。
「僕の代わりに君が傷つくなんて……。ごめん。王妃の狙いは間違いなく僕だったのに、また君に守られてしまったね……」
ディアナのおかげで、僕は忘れかけていた「感覚」というものを取り戻しつつあった。
久々に感じる風の冷たさや花の香りが懐かしく、そして何より、感覚を取り戻すたびにくるくると変わる君の表情や笑顔を見ているのが、たまらなく楽しくて幸せだった。
僕は、君の善意に甘えすぎていたのかもしれない。
君は馬鹿みたいにお人好しで愚直だから、初めは脅して利用しようとした僕のことさえ信じて、側にいて、支えてくれた。僕の醜い弱さまで、君は丸ごと受け入れてくれた。
僕が「生きているのは幸せなことだ」と思い出せたのは、全部君がいたからだ。
そんな君が、僕のせいで毒を仰ぐことになってしまった。
もし僕が君を専属聖女になんてしなければ……。そんな後悔が頭をよぎるけれど、今の僕はもう、君と出会う前の空虚な自分には戻れない。
(エゴだと、わがままだと分かっている。それでも……君に側にいてほしいんだ)
感覚を取り戻した身体が、久々に「痛み」を訴えていた。
怪我をしたわけでもないのに、胸の奥が引きちぎられそうなほどに痛む。……この痛みこそが、僕が君に恋をしているという証拠なのだろう。
「……こんな時に気づくなんて、僕は本当に度し難いな」
僕は、ひんやりとした彼女の額に手を当てた。指先に伝わる体温の低さに、また胸が締め付けられる。
しばらく、その寝顔を見つめていた。何かを確かめるように、何度も。
それから、色を失ったその唇に、僕はそっと、祈るようなキスを落とした。
「目を覚まして……ディアナ。もう僕の隣には、君以外考えられないんだ。僕のすべてを君に差し出してもいい。不老不死のこの命だって、君が望むなら今すぐ捧げよう。だから……お願いだ。僕を一人にしないでくれ」
祈るようなその言葉が、窓の外で瞬く夜空の星々と共鳴した気がした。
月光に照らされた彼女の指先が、ほんの少しだけ、僕の手を握り返したように動いた。




