第二十四話 決意の晩餐会
「……ふわぁ。……あ、また欠伸をしてしまったわ」
殿下の「抱き枕係」に任命されてからというもの、私の日常は一変してしまった。
暗闇の中で至近距離にある殿下の整った寝顔、規則正しい鼓動、時折無意識に引き寄せられる腕の逞しさ……。意識しすぎて一睡もできず、そのまま朝を迎えるという緊急事態に陥っているのだ。
(殿下は嫌がっている様子はないけれど……余命わずかな死神に好かれても、困るだけですわよね。このまま側にいたいなんて、私には贅沢すぎる願いだわ)
そこまで考えて、私は自分の思考にはたと気づき、動きを止めた。
(……あら? 「側にいたい」って、今、私……)
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられるように痛む。それなのに、同じ場所がじんわりと温かい。矛盾した感覚に戸惑いながら、私はその正体にようやく思い至った。
(……嘘でしょう。これ、やっぱり……恋、なのでしょうか)
そんな答えの出ない疑問を抱えつつ、私は殿下の公務を手伝っていた。自分の気持ちを自覚してからは、どうしてもチラチラと殿下の方を見てしまう。
殿下は私の視線に気づいているのかいないのか、時折ふっと優しく微笑んでくれる。そのロイヤル・スマイルに、私の心臓はまた跳ね上がる。
***
そんな穏やかな空気を切り裂くように、アルリック様が部屋に入ってきた。
(ひぇぇ……アルリック様! 不備がないように、死神だと悟られないように……私は完璧な聖女。うん、微笑みを忘れずに、ディアナ!)
自分に言い聞かせ、必死に書類整理に没頭するフリをしながら二人の会話を盗み聞きする。どうやら、今夜は後妃であるリヴァベラ王妃主催の晩餐会が開かれるらしい。王妃の名前が出た瞬間、殿下の瞳が凍てつくように険しくなったのは、気のせいではないはずだ。
書類に目を戻した瞬間、目の前に影が落ちた。見上げると、アルリック様が至近距離で私を見下ろしていた。
「リヴァベラ王妃様が、殿下の専属聖女であるディアナ様にも是非お会いしたいと申されております。今夜の晩餐会、出席をお願いしますよ」
そう言い残し、アルリック様は部屋を後にした。
(……良かった。「お前は死神か!」とバレて処刑されるのかと思って、心臓が止まるかと。アルリック様を見るたびに、本気で寿命が縮んでいる気がしますわ……)
***
胸を撫で下ろしていると、エテル殿下がいつになく真剣な表情で私の元へ歩み寄ってきた。
「……ディアナ。君だから忠告しておく。王妃には細心の注意を払うんだ。あの人は、僕を消したくて仕方がない」
「消したい、って……。でも殿下は、その……不老不死、なのでは……」
「そう。普通の方法では、僕を殺すことはできない。……だからこそ、僕の側にいる『死神』の君に、目をつけたんだろうね」
その一言に、背筋が凍りついた。まさか、私の力を利用して殿下を。
「いいかい、今夜は絶対に僕の側を離れないと約束して」
私はこくこくと力強く頷いた。
血の繋がらない母子。それも、王位継承権を持つ殿下を疎ましく思う王妃。その残酷な構図に、胸が締め付けられる。
(アルリック様の真意も読めないし、殿下をお守りできるのは私しかいないみたいですわね。今夜の晩餐会、気合を入れて臨みましょう! 殿下、貴方は私が……絶対に、死なせたりしませんから!)
鼻息荒く、私は心の中で固く誓った。




