第二十二話 甘い罰、苦い恋
第二十二話:甘い罰、苦い恋
「いいですか殿下、今日は『味覚のリハビリ・スパルタ編』ですわ!」
私は意気揚々と、市場で見つけてきた「特製・炎の激辛クッキー」をテーブルに並べた。
これ、一口食べれば火を噴くと言われている代物だ。感覚が戻りつつある殿下なら、これくらいの刺激があれば一気に味覚が研ぎ澄まされるはず!
「……ディアナ。君、目がキラキラしてるけど、それ明らかに食べ物の色じゃないよね?」
「リハビリです! さあ、あーんしてください!」
私がクッキーを差し出すと、殿下は観念したように口を開けた。……けれど、食べる直前で殿下がニヤリと不敵に笑う。
「……やっぱり、一人で食べるのは寂しいな。ほら、ディアナも」
電光石火の早業でクッキーを奪われ、逆に私の口元へ突きつけられた。
「えっ、ちょ、殿下!? 私はいいんですのよ!?」
「ダメだよ。一緒に苦しむ……じゃなくて、一緒に味わうのがパートナーだろ? さあ、あーん」
拒否権なしのロイヤル・スマイル。結局、私たちは「せーの!」でそのクッキーを口にした。
「「…………!!!」」
数秒後、二人の顔が真っ赤に染まる。
「辛っっっ!! 痛いですわ! 舌が火事です!!」
「……っ、これは……確かに、生きてる実感が……するね……」
涙目になりながら悶絶する私たち。慌てて中和用の水を飲み干し、ようやく一息ついたところで、殿下が差し出してきたのは一個の小さなショートケーキだった。
「お口直し。……一個しか用意させてないから、半分こしようか」
「あ、ありがとうございます……」
一つのフォーク。一つのケーキ。私が一口食べた後、殿下がそのまま同じフォークでケーキを口に運ぶ。
(……あ、それ。私がさっき使った……!!)
間接キス。その単語が脳内を駆け巡り、私の顔は激辛クッキーを食べた時以上に真っ赤になった。
そんな私を余所に、殿下はフォークを口に含み、ゆっくりと味わうように瞳を閉じる。
「……甘いな。でも、それ以上に……」
殿下はフォークを置き、じっと私を見つめた。
――
繋いだ手から伝わってくる、彼の体温。昨夜の「抱き枕」の感触や、雨の中での抱擁。一つ一つの記憶が重なり、もはや「リハビリ」という言い訳が通用しないほど、空気が甘く、熱く、溶けていく。
「……殿下?」
「味がしなくても、君が隣で笑ったり、赤くなったりしているのを見てるだけで……なんだか、胸がいっぱいだよ」
それは、感覚を失っていた男が初めて自覚した、心そのものの「味」。
「……ズルいですわ、殿下」
「……君が可愛すぎるのが悪いんだよ」
見つめ合う距離が、あと数センチまで近づく。
時間が止まったみたいだった。心臓の音だけが、やけに大きく耳の奥で鳴っている。
互いの吐息が触れ合うほどの間近で、私たちは言葉を失い、ただ高鳴る鼓動を共有していた。
(……ダメですわ。このままじゃ、寿命が尽きる前に心臓が止まってしまいます……!)
二人の距離は、もはや後戻りできないところまで加速していた。




