第十四章 嵐の後のティータイム
朝起きて、寝ぼけ眼の殿下を叩き起こし、着替えを手伝い……。
待って。私、一応「聖女」として雇われたはずなんですけど、これじゃあただの「お世話係(侍女)」じゃないですか!?
そんなセルフツッコミを入れつつ、エテル殿下と豪華な朝食を囲んでいた、その時だった。
「専属聖女になったからって、調子に乗るのも大概になさって!!」
廊下から響き渡る怒号。止めようとする侍女や執事たちの慌てふためく気配。
扉が勢いよく開くと、そこには憤怒の形相を浮かべたオーレリアン様が立っていた。
(ひえっ、オーレリアン様……! それに後ろにはアルリック団長まで。朝から胃に穴が開きそうですわ)
「ディアナ! 殿下の側に侍るなんて、生意気すぎますわ! 身の程をわきまえなさい!」
「はい、申し訳ありません……」
とりあえず謝る。これ、教会時代からの生存戦略。
不本意ながらここに連れてこられたんです!なんて言おうものなら、火に油を注ぐだけだ。
ふと見ると、背後に控えるアルリック団長は、心酔したような瞳でオーレリアン様を見つめていた。
(そういえば、団長はオーレリアン様の婚約者候補だったっけ……。目の前で殿下に猛アタックする彼女を見て、よく平気な顔してられますね団長!? いや、そこは私が口を挟む問題じゃないですけど。まあ、そのおかげで私への『死神疑惑』の視線が緩んでるから助かるけど!)
とにかく、彼女の機嫌を取るのが先決だ。
「オーレリアン様、紅茶はいかがですか? お好きな茶菓子も用意させますわ」
精一杯の愛想笑いで勧めたが、彼女の怒りは収まらなかった。
執事が淹れたばかりの熱い紅茶を、彼女は無造作に私へと振りかけた。
「――っ!」
熱い。でも、いつものこと。彼女はこうして自分の優越感を確認すれば、清々しい顔をして去っていくのだ。
満足げに私の濡れた姿を眺めたあと、彼女はアルリック団長を連れて、嵐のように部屋を後にした。
「はぁ……。全く、相変わらず激しいお方ですわ」
割れたティーカップの破片を拾い、床を拭く。王太子付きの専属聖女にそんな雑用をさせていいのかと、周囲の従者たちが真っ青になって止めようとするが、私は気にしない。……慣れているから。
***
「殿下、少し着替えて参ります」
ぐっと拳を握りしめ、顔を伏せる。
(大丈夫。いつものことだから。これくらい、平気なはず……)
そう自分に言い聞かせているのに、なぜか喉の奥が熱くて、うまく息が吸えない。情けない姿や、胸の奥に滲む悔しさを、彼にだけは見せたくなかった。
逃げるようにその場を離れたのになぜか、彼は追いかけてきた。
「……待ちなよ。その格好では、自分の部屋まで戻りにくいだろう?」
背後からかけられた声。お茶で濡れたシャツは肌に張り付き、うっすらと透けてしまっている。
「……あ、ありがとうございます」
エテル殿下は、何も言わずに自分の上着を私の肩にかけた。
不器用で、冷たくて、でもどこか温かい彼の優しさ。
その温もりに少しだけ心が救われてしまう自分が、何よりも恨めしかった。




