第十一章 死神の天敵、はじめまして
「はぁ……」
豪華な天蓋付きベッドの端に腰掛け、私は本日何度目かわからない溜息をついた。
専属聖女。響きはいいけれど、要するに「殿下が転んだり刺されたりした時に即座に駆けつけられる位置にいろ」という、超至近距離の待機任務だ。
今までの殺人的な忙しさと比べれば、寿命を削らずに済むし、温かいご飯も食べられる。
……けれど。
(オーレリアン様も他の候補生も、長寿種は手厚く葬るのに、短命種には見向きもしなかった。あの時、腕の中で泣いていた小さな女の子……あの子みたいな短命種の人たちは、今頃どうしているんだろう)
窓の外に広がる王都の灯りを眺めて憂いていると、背後から心を見透かすような声がした。
「あの聖女たちは長寿種しか助けないから、短命種の人たちはどうなっちゃうのかなー……とか気にしてる?」
「えっ……あ、まあ、はい」
図星を突かれて肩を跳ねさせると、エテル殿下はティーカップを傾けながら、事も無げに続けた。
「大丈夫だよ。僕の権限を使って、『怪我人や病人を癒すのが君たちの仕事だろう?』って少し喝を入れておいたから」
「……喝、ですか?」
「うん。『王太子の命に逆らう不届き者は教会にはいないよね?』って、とびきりの笑顔で聞いたら、みんな顔を真っ青にして『もちろんです!』って言ってたよ。だから多分、これからは平等に助けてもらえると思うよ」
「あはは……ありがとうございます(引き気味)」
目に浮かぶ。あのキラキラしたロイヤル・スマイルで、実質的な脅迫をキメている殿下の姿が。
……うーん。強引で腹黒い変人だけど、短命種を蔑ろにしないところは、ちょっとだけ好感が持てるかもしれない。ちょっとだけ、だけど。
「……なんてね。周りの心配もいいけれど、君はもっと自分の心配をした方がいいよ? 死神の君にとって、ここは文字通りの『死地』なんだから」
「……それを言いますか!? ここに放り込んだの、貴方ですよね!?」
思わずツッコんでしまったが、殿下は「うんうん、元気があっていいね♪」と上機嫌な様子。
「特に、アルリックには気をつけなよ。彼は『聖絶騎士団』の団長で、とにかく鼻がいい。ついでに僕の専属護衛騎士でもあるから仲良くしてね?」
「…………は……い???」
えっ!? 今さらっと何て言った!?
私の命を虎視眈々と狙う専門集団のトップと、仲良くしろって!?
無理!! 絶対無理!! 矛盾の塊ですかこの王子は!!
***
その後、私は緊張で強張った顔のまま、アルリック団長のもとへと連れて行かれた。
……にしても、『鼻がいい』ってどういう意味。まさか文字通りの意味じゃないですよね? 嫌な予感しかしないんですけど。
そんな私の不安を余所に、紹介されたアルリック団長は、意外にも気さくで爽やかな「いいお兄さん」風の騎士だった。
だったのだが。
「よろしく、新しい専属聖女殿」
差し出された手を、私はおそるおそる取った。
『……ほう。君が新しい専属聖女か。妙だな、君からは……酷く懐かしい、沈丁花のような死の香りがする』
握手した瞬間、向けられた眼光は凄まじい圧を放っていた。にこやかな笑顔はそのままなのに、瞳の奥だけが、まるで獲物を品定めする猟犬のように鋭く光っている。
あの人、絶対私のこと「黒」だと思って疑ってません!?
「……はぁ。私、ここで本当に生きていけるの……?」
面白がる腹黒王子と、私を狩る気満々の専門家。味方のはずのお方はエンタメ気分だし、護衛のお方は死神狩りのプロフェッショナル.どちらを頼ればいいのか、いっそ教えてほしい。
私の絶望的な雄叫びは、虚しくも月夜の王宮に反響していた。




