予測時刻
予測時刻
脚部のチャージは終わった。
アタッチメントの一部が点灯し、先ほどまで鳴り続けていた駆動音も止まっている。
それでも、サクラはすぐには蹴らなかった。
フレイムピジョンには何度も毒を打ち込んでいる。反応は確実に鈍くなっていたが、戦う力そのものを失ったわけではない。
周囲には、まだ雑魚怪人も残っている。
「もう少し、隙を作ります!」
「分かった!」
北山は答えると、飛び込んできた雑魚怪人へ向き直った。
「サクラの邪魔をさせるな!」
銃声が重なる。
サクラは右拳を構え、フレイムピジョンだけを見据えた。
◇
フレイムピジョンが腕を振るう。
サクラは身を沈めてかわし、その懐へ入り込んだ。
「もう一発!」
右拳が腹部を捉える。
針が飛び出し、毒を打ち込んだ。
すぐに距離を取る。
フレイムピジョンは追ってくる。
まだ速い。
まだ力もある。
だが、最初とは違った。
サクラが離れた方向へ身体を向けるまで、ほんのわずかに遅れる。
「効いてはいますね」
倒せるほどではない。
それでも、その一瞬が欲しかった。
◇
「右から来る!」
川出の声。
雑魚怪人がサクラへ向かって走る。
「行かせるか!」
ニシが横からぶつかり、そのまま地面へ押し倒した。
別の一体が背後から迫る。
銃声。
南浦の弾丸を受け、怪人が崩れ落ちた。
「前だけ見てろ!」
「ありがとうございます!」
サクラは振り返らない。
フレイムピジョンの頭上で炎が膨らむ。
「来ます!」
放たれた炎を横へ跳んでかわした。
炎は参道沿いの店へ飛び、軒先へ燃え移る。
ユキがすぐに走った。
身体から白い霧が広がり、燃え上がろうとした炎を覆う。
火が弱まり、消えていった。
誰も消火のために戦線を離れない。
北山もニシも、南浦も川出も、それぞれの敵へ向かったままだ。
◇
フレイムピジョンがサクラへ踏み込む。
拳が飛んできた。
サクラは首を傾けるようにかわす。
風圧が頬を撫でた。
続けて二撃目。
今度は後ろへ跳んで距離を取る。
攻撃そのものはまだ鋭い。
毒を入れたからといって、正面から受けられる相手ではなかった。
「やっぱり、これだけじゃ無理ですね……!」
右拳だけで押し切ろうとすれば、どちらが先に倒れるか分からない。
だからこそ、脚部を用意した。
◇
「雑魚、あと三!」
川出が叫ぶ。
「こっちは任せろ!」
ニシが一体へ向かい、北山も別の一体を引き受ける。
残る一体がサクラへ走った。
「サクラに近づけるな!」
南浦の銃声。
雑魚怪人が倒れる。
サクラの前が開いた。
「今です!」
川出の声に、サクラが地面を蹴る。
フレイムピジョンも反応した。
腕を振り上げる。
速い。
だが――わずかに遅い。
サクラはその差へ身体を滑り込ませた。
拳をかわし、一歩踏み込む。
脚部アタッチメントの点灯を視界の端で確認する。
もう、待つ必要はない。
「これで――!」
身体をひねる。
軸足が地面を捉えた。
腰の回転をそのまま脚へ乗せる。
「終わりです!」
蹴りがフレイムピジョンの身体へ直撃した。
接触した瞬間、脚部アタッチメントが作動する。
蓄積されていたエネルギーが、一気に流れ込んだ。
強烈な光が接触点から弾ける。
衝撃が空気を震わせ、周囲の砂埃が広がった。
「っ……!」
反動を受けたサクラも押し戻される。
一歩。
二歩。
地面を踏み締めて止まった。
顔を上げる。
フレイムピジョンはまだ立っていた。
「……!」
北山が息を呑む。
だが、怪人は反撃しなかった。
頭上の炎が揺らめく。
身体が一度、大きく傾いた。
踏みとどまろうとする。
それでも支え切れない。
白い身体が地面へ倒れた。
◇
一瞬、戦場から音が消えたように感じられた。
「……やったか?」
北山が呟く。
「確認します!」
川出が動く。
フレイムピジョンは倒れたまま動かない。
頭上の炎も消えている。
「対象、沈黙!」
「残りを片づけろ!」
ニシの声で、止まりかけていた戦場が再び動き出す。
CASHの銃撃。
北山の拳。
ニシの蹴り。
残っていた雑魚怪人が一体、また一体と倒れていく。
最後の一体が地面へ崩れたところで、ようやく銃声が止んだ。
◇
サクラは自分の脚へ目を落とした。
アタッチメントは完全に沈黙している。
先ほどまでの駆動音も、もう聞こえない。
「本当に一発でしたね」
北山が息を整えながら答えた。
「当てたんだからいいだろ」
「外してたら、また殴り続けるところでしたけどね」
「それは今考えるな」
サクラが小さく笑う。
緊張が少しだけ抜けた。
その向こうでは、ユキがまだ参道沿いを回っている。
軒先に残った火。
店先で燻っているもの。
見つけるたびに白い霧を散布し、一つずつ消していた。
◇
川出が無線を取る。
「T寺から本部。フレイムピジョン、沈黙。雑魚怪人も制圧しました」
『了解』
東の声が返る。
『負傷者は?』
「確認中です。今のところ大きな被害はありません。サクラも無事です」
『分かった』
川出は時計を見る。
まだ、本来の予測時刻にはなっていない。
『全員は戻さない』
「え?」
『まだ時間が残ってる。T寺側も警戒を続けて』
「別の何かが出る可能性ですか?」
『捨てられない』
「了解」
『サクラ、北山君、川出君。それと何人かはそのまま残って』
「はい」
『南浦さんとニシさんはT駅へ』
南浦が無線を取った。
「今からか?」
『本来の予測時刻までまだある。こっちの戦力を増やしておきたい』
「了解」
ニシも頷いた。
「行くぞ」
二人は数名の隊員とともに、T駅へ向かう準備を始めた。
◇
T寺には、サクラ、北山、川出とCASH隊員の一部が残った。
ユキもそのまま、残り火を確認している。
フレイムピジョンは倒した。
雑魚怪人もいない。
それでも規制は解除せず、警戒を続ける。
なぜ一時間も早く現れたのか。
なぜ炎が以前より小さかったのか。
何も分かっていない。
「まだ終わりじゃないんですね」
サクラが言った。
川出が時計を見る。
「少なくとも、十二時半までは」
◇
T駅。
『南浦、到着』
『ニシも配置につく』
無線を聞いた紀人が時計を見る。
十二時十分。
規制された駅前には、まだ何の異変もなかった。
CASHは警戒を続け、消防と救急も待機したまま。
紀人は周囲へ視線を走らせる。
先ほどまでなら、今すぐT寺へ向かいたいという苛立ちがあった。
だが、フレイムピジョンを倒したという報告を聞いた今、胸の中にあるのは別の緊張だった。
本当に、ここには何も来ないのか。
◇
十二時二十分。
『第一班、異常なし』
『第二班も異常なし』
上層部から、また通信が入った。
『まだ規制を解除しないのか』
「十二時三十分までは維持すると言いました」
東はそれだけ返した。
シラメ博士も時計を確認する。
誰も気を抜かない。
◇
十二時二十五分。
無線から余計な会話が消えていった。
あと五分。
紀人は無線を握ったまま、駅前から道路、建物の上へと順番に視線を走らせる。
南浦もニシも、それぞれの位置で動かない。
十二時二十八分。
異常なし。
十二時二十九分。
何も起きない。
秒針だけが進んでいく。
そして――。
十二時三十分。
本来なら、怪人が現れると予測されていた時刻を迎えた。
誰も動かなかった。
駅。
道路。
建物。
空。
どこにも異変はない。
『第一班、異常なし』
『第二班、異常なし』
淡々とした報告だけが無線を流れる。
十二時三十一分。
それでも、何も起きない。
「……来ない?」
紀人が呟いた。
『まだ解除しない』
東の声がすぐに返る。
『もう少し待つ』
紀人は再び周囲を見渡した。
予測時刻は過ぎた。
それでもT駅には、何も現れなかった。
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それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
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ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




