六日後・後編
六日後・後編
CASHから上層部へ、緊急の作戦案が上げられた。
過去五件の発生地点と被害状況。
最初の公園を起点として、約五キロ刻みで外側へ広がる距離。
酉方向への偏り。
六日周期。
ほぼ同じ発生時刻。
そして、すべての条件を重ねて残った二つの候補地点。
東は資料を示しながら、一通りの説明を終えた。
「この二地点を、予測時刻より前に封鎖したいと考えています。周辺住民も事前に区域外へ避難させます」
返ってきたのは、予想どおりの言葉だった。
「まず、正式な会議にかけるべきだ」
東の眉が動く。
「いつですか?」
「関係部署も多い。警備、交通、地域、消防との調整も必要になる。まず担当者を集めて――」
「いつ開くんですか?」
「早急に調整する」
「明日?」
「今ここで日時までは決められない」
「明後日?」
「東君。順序というものがある」
東は机の上のカレンダーを指した。
「次の事件まで、六日しかありません」
「君たちの予測では、だ」
別の一人が資料を置いた。
「そもそも、その前提から確認する必要がある。五キロ刻み、六日周期、十二支で酉の方角。それを根拠に二地域を封鎖しろと?」
「十二支だけで決めたわけじゃありません」
「だが、君たちの解釈だろう」
「前回も私たちが予測した二十キロ圏で、実際に怪人を発見しています」
「二十キロ圏のどこか、だ」
「だから今回は二地点まで絞ったんです」
「二地点『も』残っている」
声が強くなった。
「一地点ですらない。どちらに出るかも分からない状態で、二か所とも封鎖して住民を避難させろというのか?」
「はい」
「簡単に言うな」
相手は資料を指で叩いた。
「住民だけの話ではない。交通規制には人員がいる。周辺の店舗や事業所はどうする。公共交通に影響が出れば、さらに調整が必要になる」
「だから今から始めたいんです」
「六日で?」
「六日しかないからです」
◇
「仮に外れたらどうする」
別の声が飛んだ。
「何も起きなかったら?」
「それでいいです」
「よくない」
即座に否定された。
「住民を避難させ、道路を封鎖し、警察官を投入し、消防と救急まで待機させる。それで何も起きなかった時、誰が説明する?」
「私がします」
「君一人で済む話ではない!」
机を叩く音が響いた。
「なぜ避難させた。なぜ営業を止めた。なぜ交通を止めた。その根拠が『五キロと六日の法則があり、酉の方向だったから』で通ると思っているのか?」
「じゃあ、当たったら?」
東が聞いた。
「何?」
「何もしないで、六日後に本当に怪人が来たら?」
「だから、それを検討するために会議を――」
「また会議ですか」
「言い方に気をつけろ」
「気をつけてます」
東は資料を順番に示した。
「最初は消火器一本で消せるボヤでした。それが神社、駅前と大きくなって、住宅街では死者が出た。前回はさらに被害が増えて、警察官まで一人殉職した」
部屋が静かになる。
「火災は毎回大きくなっています。次も同じなら、さらに被害が増える可能性がある」
「可能性だ」
「そうです。可能性です」
東は否定しなかった。
「でも、今までで一番具体的な可能性です」
◇
「CASHはいつから予知機関になったんだ」
冷たい声が飛んだ。
「予知じゃありません。捜査です」
「なら、次にこの場所へ現れる証拠を出せ」
「未来の事件の証拠なんてあるわけないでしょう」
「ならば、二地域を封鎖する根拠として不十分だ」
「起きてから証拠を集めるんですか?」
東の声が低くなった。
「また?」
「東君」
「前回、現場から怪人の目撃情報が上がっていた。それでも怪人事件として扱うかどうかを決められなくて、CASHには何も来なかった」
「その件は今――」
「今の話です」
東は遮った。
「その結果、私たちはニュースを見て現場へ行った。着いた頃には、ほとんど鎮火してた」
さらに、前回の事件地点を指す。
「その次は自分たちで先回りした。怪人は見つけた。CASHの武装で足止めもできた。でも、範囲を絞り切れなくて戦力を分散させたせいで、火災が広がった時に押さえ切れなくなった」
東は二つの候補地点を指した。
「だから今回は、ここまで絞ったんです」
◇
「それでも、まず会議だ」
また同じ言葉が返ってきた。
東はしばらく相手を見ていた。
「会議の日程を決める。関係部署を集める。そこで持ち帰って検討する人が出る。もう一度集まる」
「決めつけるな」
「今までそうだったでしょう」
「組織は手続きで動く」
「怪人は手続きを待ってくれません」
東はカレンダーを示した。
「六日後です。話してる間にも減るんです」
「だからといって、手続きを飛ばしていい理由にはならない」
「じゃあ、また間に合わなかったら?」
「そうならないように検討する」
「その検討で間に合わなかったことが、もうあるでしょう」
東の言葉に、返事が止まった。
「また二の舞になる」
東は一度そう言ってから、首を横に振った。
「いえ。もう二の舞でも三の舞でもない。何回繰り返すつもりですか?」
◇
「住民にはどう説明する」
別の人物が尋ねた。
「怪人が六日後のこの時間に来る可能性がある、と発表すれば混乱するぞ」
「そんなことを発表する必要はありません」
「では?」
「不発弾らしきものが見つかったことにすればいい」
何人かの表情が変わった。
「……本気で言っているのか?」
「安全確認と処理のための一時封鎖。それなら住民の避難も道路規制もできます」
「虚偽の説明を警察がするのか」
「だったら、別の理由を考えてください」
「簡単に言うな」
「理由を決めるのはそちらで構いません」
東は引かなかった。
「私たちが必要なのは、予測時刻になった時、戦闘区域に一般人がいないことです」
「君は自分が何を要求しているか分かっているのか?」
「分かっています」
「二地点を同時封鎖。住民を避難。交通規制。消防と救急を事前待機。その上、CASHも二分する」
「はい」
「外れれば全部無駄になる」
「外れれば、人が死なない」
東は即答した。
「それで十分です」
◇
話は簡単には終わらなかった。
責任や権限、住民への説明、交通への影響、消防との調整、予測が外れた場合の対応。
同じ論点が形を変えて何度も戻ってくる。
それでも東は引かなかった。
何を話していても、六日後という期限だけは変わらない。
そして上層部にも、最後まで無視できない事実があった。
前回、CASHは怪人の出現範囲を予測した。
実際に、その範囲でフレイムピジョンを発見した。
そして、対応が間に合わず人が死んだ。
警察官も一人、殉職した。
全面的な賛同が得られたわけではなかった。
それでも、六日後へ向けた準備を即日開始することだけは認めさせた。
◇
上層部との話を終えて戻った東を見て、南浦が尋ねた。
「揉めたか」
「……聞かないで」
「会議は?」
「最後まで言ってたわよ」
南浦が小さく鼻で笑った。
「だろうな」
「笑い事じゃないわよ」
東は疲れたように息を吐いたものの、椅子には向かわず、そのまま地図の前へ戻った。
「通ったんですか?」
川出が尋ねる。
「全面的に納得したって顔じゃなかったけどね。でも、準備は今日から始める」
「それなら間に合います」
「間に合わせるのよ」
東は二つの候補地点を指した。
「通常部署には、住民の避難、交通規制、立入制限を進めてもらう。消防と救急も、当日は予測時刻より前から区域外で待機」
火災が発生してから通報し、到着を待つ必要はない。
そして戦闘区域から一般人を事前に出しておけば、CASHも救助のために戦力を削らずに済む。
「CASHは二班」
東が一つ目の地点を指す。
「こっちはキッド」
もう一つへ指を移した。
「こっちはサクラ。それぞれにCASHをつける」
シラメ博士が頷く。
「キッドには僕から説明しておくよ」
「お願い。サクラには私から話す」
◇
川出が作戦内容を改めて確認した。
「次の予測日は六日後。時刻は過去五件から、この時間を中心に前後数分」
続いて地図を示す。
「最初の公園から約二十五キロ。酉方向。鳩が多く集まる場所という条件まで重ねて、候補はこの二地点です」
「予測時刻ぎりぎりに入るのはなしね」
東が言った。
「避難も規制も、十分前に終わらせる。キッドとサクラも早めに配置する」
北山が尋ねる。
「片方に出たら、もう片方はすぐ合流か?」
「すぐには動かさない」
「どうして?」
「予測を信用しすぎないため」
東は二つの地点を見た。
「片方に出たからって、もう片方が絶対に安全とは限らない。状況を確認するまでは両方とも維持する」
川出も頷いた。
「その方がいいと思います。規則性はかなり強いですが、怪人が必ず同じ行動を取る保証はありません」
法則は見つけた。
だが、それを過信するつもりはなかった。
◇
東は、地図に並ぶこれまでの五地点へ目を移した。
最初は、誰も事件だと思わなかった小さなボヤだった。
それが神社へ移り、駅前へ移り、住宅街へ移った。
火災は起きるたびに大きくなり、死者が出た。
その次にはさらに多くの人が傷つき、市民を助けようとした警察官まで命を落とした。
その間、CASHはずっと後手に回っていた。
怪人が現れてから知る。
火が出てから向かう。
情報が来なければ、自分たちで探す。
ようやく先回りできたと思えば、範囲を絞り切れず戦力を分散させた。
だが、今度は違う。
場所は二つまで絞った。
日付も分かった。
時間も読める。
一般人は戦闘が始まる前に区域外へ出す。
消防と救急も、火が上がる前から待機する。
そして二つの候補地点には、最初から怪人を倒せる者を一人ずつ置く。
「今度は追いかけない」
東が言った。
誰も口を挟まなかった。
「火が上がってから走るのも、怪人を見つけてから人を集めるのも終わり」
川出が最後に確認する。
「六日後です」
「ええ」
東は二つの印を見比べた。
フレイムピジョンがこれまでと同じ規則で動くのなら、次に現れた時、そこに待っているのは逃げ惑う住民ではない。
到着の遅れたCASHでもない。
すでに戦う準備を終えた者たちだ。
「今度は――」
東は静かに言った。
「こっちが先に待ってる」
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




