間に合え
間に合え
「白い怪人を発見しました。警察がすでに対峙しています」
CASHの隊員は無線を握ったまま、道路の先に立つ白い怪人から目を離さなかった。
『場所は?』
東の声に応じて位置情報を送る。
『確認した。そこから離れないで。こっちもすぐ動く』
「了解」
周囲では警察官たちが住民を後方へ下げ、建物や路地に逃げ遅れた人間がいないか確認していた。
「もっと離れてください! この先には近づかないで!」
その騒ぎの向こうで、白い怪人だけが異様なほど静かに立っている。
白い身体。鳩を思わせる頭部。そして、その頭上では風に煽られても消えない炎が揺れていた。
一人の警察官が前へ出る。
「その場から動くな!」
怪人は反応しない。
「聞こえているなら――」
銃声が響いた。
「なっ――!」
警察官が振り返る。
撃ったのはCASHの隊員だった。
対怪人用の弾丸がフレイムピジョンの身体を捉え、その上体を大きく揺らす。怪人は一歩後ろへ下がり、白い身体には浅い傷が残った。
「何をやってるんです!」
「怪人相手に警告してる時間はありません!」
「だからって、いきなり撃つのか!」
「前の火災で人が死んでる! 次はもっと大きくなる可能性があるんです!」
再び発砲。
弾丸を受けたフレイムピジョンが怯み、動きを止める。
「こいつは俺たちが押さえます! あなたたちは市民の保護と救出を最優先にしてください!」
その横で、別の警察官がCASHの射撃を見ていた。
「……効いてる」
拳銃を抜き、フレイムピジョンへ発砲する。
「待って!」
制止は間に合わなかった。
拳銃弾は確かに命中した。だが、白い怪人はほとんど反応しない。
「……何で?」
もう一発。
結果は同じだった。
「それじゃ止まりません!」
CASHの隊員が怒鳴る。
「こいつは俺たちに任せてください!」
「じゃあ、俺たちは何をすればいい!」
「人を逃がしてください! 建物と路地を確認して、残ってる人を全部下げて!」
警察官は一瞬だけ怪人を見たあと、拳銃を下ろした。
「……分かった。全員、住民の避難を優先! 逃げ遅れを残すな!」
「了解!」
警察官たちが一斉に動き出した。
怪人への対応はCASH。
住民の避難と救助は警察。
役割が分かれた。
◇
CASHの隊員たちは射撃を続けた。
対怪人用の弾丸が命中するたび、フレイムピジョンは身体を揺らし、前へ出ようとする足を止める。
致命傷にはならない。
だが、足止めにはなる。
「本隊が来るまで、ここから動かすな!」
先行班の役目は明確だった。
倒す必要はない。
東たちが到着するまで、この場に留めておけばいい。
「本部! 交戦に入りました!」
◇
報告を受けた東は、すぐに指示を飛ばした。
「全班、現場へ!」
各地へ散っていた北山、ニシ、南浦、川出たちが、それぞれの候補地から現場へ向かい始める。
「サクラにも連絡を――」
東が言いかけると、シラメ博士が端末を取り出した。
「キッドには僕が連絡しておくよ。東さんはサクラを」
「お願い」
東はサクラへ、シラメ博士はキッドへ連絡を入れる。
CASHの武装で足止めはできても、怪人を倒し切ることはできない。現場班が時間を稼いでいる間に、決定打となる二人を呼ぶ必要があった。
「現場班、状況は!」
『対怪人武装は効いてます! 今のところ足止めできています!』
「そのまま保たせて! もう向かってる!」
『了解!』
東はサクラへの呼び出しを続けながら、現場から送られてくる情報へ目を走らせた。
今なら、まだ間に合う。
怪人はその場にいる。
先行班も持ちこたえている。
今度こそ逃がさずに済むかもしれない。
◇
その期待を断ち切るように、フレイムピジョンの頭上で炎が大きく膨れ上がった。
「来るぞ!」
次の瞬間、怪人の周囲から炎が噴き上がる。
「散れ!」
隊員たちが左右へ飛ぶ。
炎は道路を走り、植え込みへ燃え移る。そこから建物の軒先へ火が移るまで、ほとんど間がなかった。
「もう燃え移った!」
「早すぎる!」
前回の住宅街火災より、明らかに速い。
「本部! 火災発生! 延焼が始まってます!」
『消防は!?』
「警察から要請済み!」
『住民を下げて! 取り残さないで!』
「了解!」
先ほどまで怪人の足止めだけに集中できていた状況が、一変した。
◇
CASHは射撃を続けたが、周囲では炎が急速に広がっていく。
「二階に人がいる!」
「こっちにも怪我人!」
「一人動けません!」
助けを求める声が重なる。
「一人、救助へ!」
隊員が一人抜ける。
さらに別の場所から声が上がり、もう一人が救助へ走った。
怪人へ向けられる銃口が減り、射撃の間隔が開く。
フレイムピジョンが一歩前へ出た。
「止めろ!」
残った隊員が撃つ。
弾丸が命中し、怪人が怯む。それでも人数が揃っていた時ほど押し戻せない。
「本部! 応援はまだですか!」
『もう向かってる! 保たせて!』
「了解!」
◇
先ほど拳銃を撃った警察官は、すでに救助へ回っていた。
「まだ中にいる人は!」
近くの住民が指差す。
「奥の路地! 一人暮らしのおじいさんがまだ出てない!」
「分かりました!」
警察官が走る。
煙が流れ始めた路地へ入り、声を張り上げた。
「警察です! 誰かいますか!」
返事はない。
「いたら返事してください!」
「……こっち……」
かすかな声が聞こえた。
警察官が奥へ走ると、一人の男性が壁際に倒れていた。
「大丈夫ですか!」
「足が……転んで……」
「立てます?」
「無理……」
「肩につかまってください。ここから出ます」
男性の腕を自分の肩へ回し、身体を支える。
「すみません……」
「謝らなくていいです。行きますよ」
二人はゆっくりと出口へ向かった。
背後では、炎の音が少しずつ大きくなっていた。
◇
消防車のサイレンが近づいてくる。
だが、炎は待ってくれない。
「怪人が動く!」
フレイムピジョンが前へ出る。
「撃て!」
弾丸が命中し、怪人が怯む。
その直後、別方向から悲鳴が上がった。
「助けて!」
倒れている人がいる。
「一人行け!」
「でも、こっちが!」
「人命優先だ!」
また一人、救助へ走る。
銃口が減るたび、フレイムピジョンを押さえる力も弱くなっていった。
◇
「もう少しです!」
警察官は男性を支えながら路地を進んでいた。
ようやく出口が見える。
向こうから別の警察官が走ってきた。
「こっちだ!」
「一人負傷! 受け取ってくれ!」
「分かった!」
あと数メートル。
背後で炎が爆ぜる音がした。
警察官が振り返る。
赤い光が路地の壁を染め、炎が一気に迫ってくる。
「急いで!」
「足が……!」
「もう少しだから!」
待っている警察官へ男性を渡そうとした、その時だった。
背後で大きな音が響く。
炎が路地を埋めるように噴き上がった。
「危ない!」
警察官は男性の身体を前へ突き飛ばした。
男性が道路へ転がり、待っていた警察官がその腕を掴んで引き寄せる。
直後、炎が路地を飲み込んだ。
◇
悲鳴が上がった。
同時に、CASHの隊員が叫ぶ。
「怪人が移動!」
射撃が薄くなった隙を突くように、フレイムピジョンが炎と煙の向こうへ進み始めた。
「追え!」
隊員が後を追おうとする。
だが、すぐ横からまた声が飛ぶ。
「こっちに怪我人!」
倒れている人。
燃え始めた建物。
まだ避難できていない住民。
そして、遠ざかる怪人。
「本部、怪人が移動!」
『追える!?』
「負傷者が多すぎます!」
無線の向こうで、東が一瞬黙った。
『……人命優先。怪人は後! 人を助けて!』
「了解!」
隊員たちが救助へ回る。
フレイムピジョンへ向けられていた銃口が途切れた。
その隙に白い怪人は煙の向こうへ進み、やがて完全に姿を消した。
◇
東たちが到着した時には、消防による本格的な消火活動が始まっていた。
北山、ニシ、南浦、川出たちも、それぞれ別方向から現場へ集まってくる。
「怪人は!?」
「逃げられました!」
先行班の隊員が悔しそうに答えた。
「すみません! あと少しだったんです。でも火が広がって、怪我人が――」
「謝らなくていい」
東は即座に言った。
「人を助けたんでしょ」
「……はい」
「なら、それでいい。全員、救助に回って!」
「了解!」
悔しさを抱えている暇はなかった。
怪人は逃げた。
だが、現場にはまだ助けを必要としている人がいる。
◇
火災は、前回を上回る被害を出した。
消防による消火と救助が続き、負傷者が次々に搬送されていく。
それでも、全員を救うことはできなかった。
火災による複数の死者。
そして、市民を避難させようとして炎に巻かれた警察官一人の殉職が確認された。
助けられた男性は生きていた。
救急隊員の処置を受けながら、何度も同じことを尋ねる。
「あの警察官は……?」
誰も、すぐには答えられなかった。
◇
事件後。
CASHへ戻った川出は、新しい地点を地図へ追加した。
五件目。
最初の公園から距離を測る。
「……約二十キロ」
予測は当たっていた。
それでも、止められなかった。
川出は最初の公園を中心に、改めて円を重ねていく。
五キロ。
十キロ。
十五キロ。
二十キロ。
事件地点は、それぞれの円周付近に並んでいる。
「偶然じゃない」
川出が言った。
今度は誰も異論を挟まなかった。
「しかも、全部同じ側です。一直線ではありませんが、明らかに一方向へ進んでいます」
シラメ博士は被害状況を並べていた。
「火の方も同じだね。最初は消火器一本で消えたボヤだった。それが回を重ねるたびに大きくなって、今回は複数の死者まで出た」
「距離が広がるのと一緒に、火も大きくなってる……」
東が地図を見つめる。
「次は?」
「この法則が続くなら、約二十五キロです」
「でも、二十五キロの円周全部なんて見られない」
「はい」
今回、予測地点の一つへ先回りすることはできた。
怪人を発見し、CASHの武装で足止めすることもできた。
それでも戦力を分散させた結果、本隊が到着するまで保たせることができなかった。
同じ方法では、また同じことが起きる。
川出は五つの地点が集中している方向を、指でゆっくりとなぞった。
「だから次は、この方向をもっと絞ります」
次の火が上がってからでは遅い。
今度こそ、怪人が現れる前に待ち構えるために。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




