二十キロ圏
二十キロ圏
「見つけたかもしれません」
聞き込みから戻った川出は、CASHの拠点に広げられていた地図へ新しい印をつけた。
東、北山、ニシ、南浦、シラメ博士が集まり、その地点を覗き込む。
「ここ?」
「はい。住宅地の中にある小さな公園です。神社の火災より前に、落ち葉が突然燃えるボヤが起きています」
「消防にも警察にも記録はないの?」
「ありません。管理人が消火器で消しています。怪我人もなく、通報もしていません」
「そりゃ、いくら記録を調べても出てこないわけだ」
ニシが腕を組んだ。
川出は管理人から聞いた内容を説明した。
気づいた時には落ち葉が燃えており、タバコの吸い殻など原因になりそうなものは見つからなかった。その場に子供もおらず、火遊びとも考えにくい。
さらに、遠くに人ほどの大きさの白っぽいものがいたような気がするという証言もあった。
「白いのもいたのか」
「そこは慎重に見た方がいいです。管理人自身、はっきり覚えているわけではありません。こちらから怪人の特徴を当てはめるのは危険です」
「鳩は?」
「普段から多い公園です。当日もいたと思う、という程度ですね」
東が地図を見る。
「この一件だけじゃ、同じ事件とは言い切れないわね」
「はい。ただ、今までの三件と一緒に並べると見え方が変わります」
◇
川出は火災を発生順に並べ直した。
今回見つけた公園。
神社。
駅前。
そして、死者が出た住宅街の小公園。
シラメ博士が四件の資料を見比べる。
「こうすると分かりやすいね。火の大きさが、毎回変わってる」
最初は管理人が消火器一本で消せた程度で、怪我人もいない。神社では規模が大きくなり、駅前では負傷者が出た。住宅街では複数の住宅へ延焼し、とうとう死者まで出ている。
「毎回ひどくなってるな」
ニシが呟く。
「場所や風の条件も違うから、これだけで怪人の火が強くなってるとは断定できないよ。でも、全部同じ怪人が関わってるなら無視はできないと思う」
東の視線が、住宅街火災の資料で止まる。
「次があるなら、もっと大きくなる可能性がある?」
「あると思って動いた方がいいね」
北山が腕を組んだ。
「だったら、なおさら次を起こさせるわけにはいかんな」
「そのために、場所を探します」
川出は地図へ目を戻し、四つの地点を何度も見比べた。
「……場所も変です」
「変?」
「最初の公園を入れてから、見え方が変わりました」
川出は公園から順番に地点をたどっていく。
「一直線じゃありません。でも、ばらばらでもない。最初の公園を中心に見ると、全部同じ側にあります」
「同じ方向へ進んでるってこと?」
「その可能性があります」
北山が地図を眺める。
「それだけじゃ範囲が広いな」
「そうなんです。だから距離を見ます」
川出は最初の公園を基準に、神社までの距離を測った。
「……およそ五キロ」
続いて駅前。
「約十キロ」
最後に住宅街の小公園。
数字が表示された瞬間、川出の手が止まる。
「十五キロ前後です」
東が顔を上げた。
「五キロずつ?」
「多少のずれはあります。でも、ほぼ五キロ刻みです」
「円にしてみたら?」
シラメ博士の言葉に川出が頷き、最初の公園を中心に円を重ねていった。
半径約五キロの円周付近に神社。
約十キロに駅前。
約十五キロに住宅街。
地図を囲んでいた全員が黙り込む。
今まで別々に起きていたように見えた火災が、一つの規則に沿って並び始めていた。
「……きれいに乗るな」
「完全ではありません。でも三回続いています。偶然だけで説明するには出来すぎています」
南浦が地図を見たまま言った。
「次は二十だ」
「この規則が続くなら、そうなります」
川出が新しい円を描く。
半径約二十キロ。
これまでより大きな円が地図上へ広がった。
◇
「……広いわね」
「はい。二十キロ前後と分かっても、円周全部を監視するのは無理です」
「方向は?」
川出は、これまでの事件地点が集中している側を示した。
「ここまでは絞れます。ただ、一直線ではありません」
「鳩の条件も重ねて」
「はい」
約二十キロ圏。
これまでと同じ方向。
鳩が日常的に集まりやすい場所。
三つの条件を重ねると候補は大きく減ったが、公園や広場、駅周辺、寺社など、まだ複数残った。
「もう一つ条件があれば……」
東が呟く。
「僕もそう思います。ただ、それが分かるまで次の火災が待ってくれる保証はありません」
部屋が静かになった。
誰もが住宅街の火災を覚えている。焼けた家々と負傷者、そして助からなかった住民。
「待ってても仕方ない」
南浦が言った。
「候補があるなら行け」
ニシも頷く。
「全部を一か所に絞れねえなら、こっちが分かれりゃいい」
「戦力も分散するわ」
東が言うと、北山が地図を見たまま答えた。
「それでも、誰もいないよりはましだろ」
完全な答えを待っている間に次の火が上がるかもしれない。しかも、その火は前回より大きくなる可能性がある。
東は決断した。
「分かった。候補を分担するわ。二十キロ前後、これまでと同じ方向、それから鳩が集まる場所。この三つを満たすところを優先する」
「聞き込みも並行して続けます。もっと前の火災がないか確認します」
「お願い」
◇
CASHは複数の班に分かれ、それぞれの候補地へ向かった。
公園では子供たちが遊び、駅前ではいつも通り人々が行き交う。寺社の境内では鳩が歩き、広場ではベンチに腰掛けた人々がそれぞれの時間を過ごしている。
どこにも異変はない。
だからといって、安全だとは言えなかった。
何も起きていない場所と、次に火が上がる場所。その違いを、今のCASHはまだ知らない。
『こちら第一班。異常ありません』
「了解。次の候補へ移動して」
『了解』
しばらくして、別の班からも連絡が来る。
『こちらも異常なし。鳩はかなりいますが、怪しいものは確認できません』
「了解。そのまま次へ」
候補が一つずつ消えていく。
さらに別の班からも異常なしの報告が入り、東は地図上の候補へ次々と印をつけた。
時間だけが過ぎていく。
次の事件が今日起きるという保証すらない。明日かもしれないし、数日後かもしれない。それでも、いつ火が上がるか分からない以上、確認を止めることはできなかった。
◇
その頃、別の候補地へ向かっていたCASHの一班は、目的地へ近づくにつれて周囲の様子が変わっていくことに気づいた。
最初に聞こえたのは、遠くから響く人々の声だった。
歓声ではない。
怒鳴り声と悲鳴が混じっている。
「……何だ?」
隊員の一人が足を止めた直後、曲がり角の向こうから数人の人間が走ってきた。
全員、顔色が変わっている。後ろを何度も振り返りながら、何かから逃げるようにこちらへ向かってくる。
「逃げろ!」
「どうしたんです!」
隊員が声をかける。
「向こう! 向こうに何かいる!」
「何がいたんです!」
男性は立ち止まる余裕もないまま叫んだ。
「白い……化け物みたいなのが!」
隊員たちの表情が一変した。
「場所は!」
「あっち!」
男性が走りながら指差す。
その方向から、さらに人が逃げてきた。
子供の手を強く引いて走る女性。片方の靴が脱げても構わず逃げる男性。自転車を道端へ放り出し、何度も後ろを振り返る学生。
「急ぐぞ!」
隊員たちが走り出した。
近づくにつれ、今度は警察官の声がはっきり聞こえてくる。
「下がってください!」
「ここから離れて!」
「近づかないで!」
角を曲がると、複数の警察車両が道路を塞ぐように止まっていた。
警察官たちが住民を後方へ誘導しながら、無線で怒鳴るように状況を伝えている。
「まだ人が残ってる!」
「そっちへ行かせるな!」
「応援はまだか!」
その声にも余裕がない。
警察官たちは住民を避難させながら、何度も前方を確認していた。手を拳銃へ添えている者もいる。
通常の事件現場とは明らかに空気が違った。
「CASHです!」
隊員の一人が声を上げる。
近くにいた警察官が振り返った。
その顔に、一瞬だけ安堵が浮かぶ。
「ちょうどよかった! 前方に――」
言葉の途中で、奥から悲鳴が上がった。
「うわっ!」
全員の視線が一斉に向く。
警察官たちのさらに向こう。住民が避難して人影のなくなった道路に、それは立っていた。
白い身体。
人間とは違う、鳩を思わせる頭部。
その頭上で揺れる炎。
風が吹いているのに、その炎は消えない。
映像で見ていた時よりも、はるかに異様だった。
人と同じほどの大きさがある。
こちらへ背を向けているわけでもない。
ただ、警察官たちと向き合うように立っている。
その足元を、一羽の鳩が歩いていた。
少し離れた電線にも何羽もの鳩が並んでいる。
「……いた」
一人の隊員が、思わず呟いた。
探していた。
次に現れる場所を予測し、何か所も空振りしながら追ってきた。
そして今、その白い怪人が十数メートル先にいる。
一人の隊員が無線を掴んだ。
目は怪人から離さない。
「本部、こちら――」
周囲の隊員たちも身構える。
警察官の一人が再び叫んだ。
「それ以上動くな!」
白い怪人の頭上で、炎が大きく揺れた。
隊員は息を吸う。
「白い怪人を発見!」
無線の向こうが、一瞬静かになった。
『……もう一度』
東の声だった。
隊員は、今度ははっきりと言った。
「白い怪人を発見しました。警察がすでに対峙しています」
『場所は?』
隊員が位置を送る。
返事を待つ間にも、目の前では警察官たちが少しずつ間合いを取り直している。
誰も怪人から目を離さない。
そして怪人もまた、その場から動こうとはしなかった。
無線から東の声が返ってくる。
『確認した。そこから離れないで』
「了解」
『無理に仕掛けないで。こっちもすぐ動く』
「了解です」
通信を終える。
隊員が無線を握ったまま、白い怪人を見る。
ようやく見つけた。
だが――。
見つけたことと、止められることは違う。
警察官の声が再び響いた。
「動くな!」
白い怪人の頭上で、炎が揺れる。
今度は先ほどよりも大きく。
その場にいた全員が、息を詰めた。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




