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ビーストギア  作者: 時根脱才 
モズキャッチャー編

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第二章 第1話「証拠がない」

ビーストギア


第二章 第1話「証拠がない」


「怪人を専門に扱う部署を作りたい?」


 低く、呆れを含んだ声が会議室に落ちた。


 東は怯まなかった。


「正確には、正体不明の人外存在による事件を専門に調査し、必要に応じて対処する部署です」


「怪人対策班、というわけか」


「呼び方は何でも構いません」


 東は机上のファイルに目を落とした。


「問題なのは、同種の証言がすでに複数上がっていることです」


 人間ではない何かを見た。


 怪物に襲われた。


 見たこともない生物が現れた。


 そんな通報や証言は、一件や二件ではない。


 実際に怪人を目撃した者もいる。


 中には、金属バットを手に殴りかかった者さえいた。


 そして東自身も――見ている。


 あの日。


 人間ほどの大きさをした、セミの幼虫のような怪物を。


「似たような証言や通報が複数あることは認める」


 上座の男が答えた。


「ですが?」


「証拠がない」


 短い一言だった。


「目撃証言はある。被害を訴える者もいる。だが、怪物が実在すると断定できるだけの物証がない」


「だからこそ、専門に調査する人間が必要なんです」


「逆だ」


 男は即座に切り返した。


「存在するかどうかも確認できていないもののために、先に部署を作ることはできん」


「でも、実際に襲われたと訴えている人までいるんですよ」


「だから警察として調べている」


「通常の事件として、でしょう?」


「当然だ」


「それでは、また同じことが起きます」


 空気が張り詰めた。


 誰も、すぐには口を開かなかった。


「東」


「はい」


「君が嘘をついていると言っているわけではない」


 東は黙って男を見る。


「他の目撃者についても同じだ。本人たちが何かを見たことまで否定するつもりはない」


 男の指先が、机上のファイルを軽く叩いた。


「だが、それが本当に未知の生物だったのか。それを証明するものがない」


「……分かっています」


「なら、こちらの立場も分かるだろう」


 分かる。


 嫌になるほど。


 複数の証言がある。


 それでも、証言だけを根拠に警察が『怪人は実在する』と認定することはできない。


「必要なのは証拠だ」


 男が言った。


「誰が見ても、怪人が実在すると認めざるを得ない証拠を持ってこい」


「…………」


「専門部署の話は、それからだ」


 東はしばらく黙っていた。


 やがて、静かに息を吐く。


「分かりました」


 椅子を引き、立ち上がった。


「なら、見つけます」


「東」


「怪人が実在する証拠を」


 ファイルを手に取る。


「私が見つけてきます」


     ◇


 会議室の扉が背後で閉まった。


「証拠、ね……」


 東は小さく呟いた。


 簡単に言ってくれる。


 だが、間違ってはいない。


 自分が見た。


 他にも見た者がいる。


 だから信じろ――では、組織は動かない。


 ならば、見つけるしかない。


 誰にも否定できないものを。


 廊下を歩いていた東の足が、ふと止まった。


 脳裏によみがえる。


 あの日の光景。


 セミの幼虫のような怪物。


 そして――あの少年。


 高校生くらいだった。


 怪人を前にして、自分だって危険だったはずなのに。


 私を逃がすために、あの少年はその場に残った。


「……生きてるのかな」


 あの後、どうなったのか分からない。


 名前も知らない。


 どこの高校に通っているのかも知らない。


 何も知らない。


 ただ一つ。


 自分が彼に助けられたということだけは、はっきり覚えている。


 もし、もう一度会えたなら。


 今度は――


 自分が守らなければ。


「……って」


 東は自分の頬を軽く叩いた。


「感傷に浸ってる場合じゃない」


 まずは怪人だ。


 証拠を掴む。


 そのためには、もう一度あれを探さなければならない。


 そこまで考えたところで、東は再び足を止めた。


「…………」


 探す。


 見つける。


 そこまではいい。


 では――見つけた後は?


 あの日、東は怪人を前に何もできなかった。


 相手が何者なのか。


 どれほどの力を持つのか。


 何が通用するのか。


 何一つ分からない。


 そんな相手を、今度はこちらから探しに行くのだ。


「丸腰で行ったら、ただの馬鹿ね」


 証拠を見つけても、自分が戻れなければ意味がない。


 東は踵を返した。


     ◇


「武器が欲しい?」


「はい」


「何に使うの?」


「怪人です」


「ふうん」


「…………」


 東は眉を寄せた。


 目の前にいるのは、おかっぱ頭に白衣姿の女性。


 小柄で、顔立ちも幼い。


 ここが研究施設でなければ、博士だとはまず思わなかっただろう。


 酒を買いに行けば、年齢確認をされても不思議ではない外見だ。


 だが、彼女はれっきとした研究者だった。


 通称――白目博士。


 警察用としては明らかに過剰な武器や装備を作っては、周囲から白い目で見られている。


 その積み重ねが、そのまま呼び名になった。


「それで?」


 白目博士が尋ねる。


「どんな怪人?」


「セミの幼虫に似ていました」


「へえ」


「大きさは、人間と同じくらいです」


「一体?」


「私が見たのは一体だけです」


「何かされた?」


「襲われました」


「強かった?」


「…………」


 東はわずかに考えた。


「分かりません」


「分からない?」


「戦ったわけじゃありませんから。詳しく観察する余裕もありませんでした」


「そっか」


 白目博士はあっさりと頷いた。


「じゃあ、何が欲しい?」


「……その前に」


「なに?」


「信じるんですか?」


「何を?」


「怪人です」


「うん」


「普通、もう少し疑いません?」


「どうして?」


「どうしてって……」


 思わず身を乗り出す。


「人間くらいの大きさの、セミの幼虫みたいな怪物を見たって話ですよ?」


「そうだね」


「私以外にも証言はあります。でも、怪人が実在するって証明できるものはない」


「うん」


「だから、さっきまで上に散々言われてきたんです」


「大変だったね」


「他人事ですね」


「他人事だもん」


「…………」


 東は額を押さえた。


「博士」


「なに?」


「私がおかしくなった可能性とか、考えないんですか?」


「僕、医者じゃないし」


「そういう意味じゃありません!」


「難しいなあ」


 本気なのか。


 ふざけているのか。


 どうにも掴めない。


「……もういいです」


 東は諦めて話を戻した。


「通常の拳銃で通用する相手なのか分かりません」


「うん」


「目的は、あくまで証拠を持ち帰ることです。可能なら捕獲したい」


「なるほど」


「でも、相手が襲ってきた場合に何もできないのは困ります」


「つまり?」


「最低限、こちらが逃げる時間を作れる武器が欲しいです」


「分かった」


 白目博士が立ち上がる。


「じゃあ、これかな」


「……え?」


 部屋の奥へ歩いていき、棚を開ける。


 中から大きなケースを取り出すと、それを東の前へ置いた。


「どうぞ」


「…………」


「なに?」


「いや、ちょっと待ってください」


「待つよ」


「そうじゃなくて」


「じゃあ何?」


「もうあるんですか?」


「あるよ」


「怪人用の武器が?」


「怪人用とは言ってないよ」


「じゃあ何ですか?」


「僕が作った武器」


「…………」


「たぶん使えると思う」


「たぶん?」


「使ったことないから」


「…………」


 不安しかない。


「開けても?」


「どうぞ」


 東は留め具を外し、ケースを開いた。


「……何ですか、これ」


 中に収められていたのは、見たこともない形状の銃器だった。


 少なくとも、一般的な警察装備ではない。


「試作品」


「これ、本当に使っていいものなんですか?」


「たぶん」


「今、たぶんって言いました?」


「言ったね」


「…………」


 白目博士。


 白い目で見られる理由が、少し分かった気がした。


「本当に借りていいんですか?」


「いいよ」


「怪人がいるという証拠もないんですよ?」


「だから?」


「…………」


 東は白目博士を見つめた。


 やはり、おかしい。


 話があまりにも早すぎる。


「博士」


「なに?」


「怪人について、何か知ってます?」


「知らないよ」


 即答だった。


「本当に?」


「うん」


「…………」


 東はじっと見る。


 白目博士も、何でもない顔で見返してくる。


「何?」


「いえ……」


 何かが引っかかる。


 けれど今は、怪人に対抗できる可能性があるものの方が重要だ。


 東はケースを閉じた。


「借ります」


「どうぞ」


「壊したら?」


「いいよ」


「いいんですか?」


「その代わり」


 白目博士が、にこっと笑った。


「使ったら、結果を教えて」


「結果?」


「どのくらい効いたか」


「…………」


「効かなかったら、それも教えて」


 東はケースに目を落とした。


 そして、もう一度白目博士を見る。


「博士」


「なに?」


「やっぱり何か知ってません?」


「知らないって」


「…………」


「ほら」


 白目博士はケースを東へ押した。


「早く持ってって」


「自分から貸しておいて追い出すんですか?」


「僕、忙しいから」


「はいはい」


 東はケースを持ち上げ、出口へ向かう。


 扉を開く直前。


「東さん」


 背後から声がした。


 振り返る。


「なに?」


 白目博士は、いつもの軽い表情のまま言った。


「死なないでね」


「…………」


「データ、持って帰ってきてもらわないと困るから」


 一瞬、言葉に詰まる。


「そこは普通に心配してください」


 そう返して、東は研究室を出た。


 扉が閉まる。


 白目博士は、しばらくその扉を見つめていた。


 やがて何事もなかったように視線を戻し、再び手元の作業を始めた。


――つづく


※本作は、作者が物語のストーリー、世界観、キャラクター、設定、展開を考案し、AIとの対話を通じて文章の整理・推敲・執筆補助を行いながら制作しています。


物語の方向性、設定、展開、および最終的な内容の判断は作者自身が行っています。


本作では「人間とAIが協力して、一つの物語を作る」という創作の形にも取り組んでいます。


※本作品は「カクヨム」「小説家になろう」の両サイトに掲載しています。

本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。

それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。

一つの作品だけでも楽しめる。

けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。

ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。

【人間×生成AIによる合作作品】

企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才

文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)

本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。

本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。

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