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ビーストギア  作者: 時根脱才 
フレイムピジョン編

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炎の向こう

炎の向こう


 赤色灯の光が、夕暮れの住宅街を染めた。


 サイレンを響かせながら、消防車が次々と現場へ入ってくる。


「消防です! 道を空けてください!」


 避難していた住民たちが左右へ分かれた。


 車両が止まりきるより早く消防隊員たちが降り、ホースを引き出して走り始める。


「延焼、複数棟!」


「逃げ遅れあり!」


「一軒目、二階に一人!」


「隣の住宅も確認できてません!」


 現場にいた警察官や住民から、次々に情報が飛んでくる。


「母が中にいるんです!」


 先ほど自宅へ入ろうとして止められていた男性が、消防隊員へ駆け寄った。


「どの家ですか!」


「あそこです! 二階にいるはずです!」


「年齢は?」


「七十代です! 足が悪くて、一人じゃすぐに逃げられないんです!」


「分かりました。ここから離れてください!」


「お願いします! 母を……!」


 消防隊員たちが燃える住宅へ向かう。


 別の隊員たちはホースを構えた。


「放水開始!」


 大量の水が燃え上がる軒先へ叩きつけられる。


 炎が一瞬押し戻された。


 だが、火は一軒だけではない。


「隣も燃えてる!」


「二隊、そっちへ!」


「了解!」


 別の隊員たちが走る。


 住宅街の上には、太い黒煙が立ち上り続けていた。


     ◇


「まだ中に子供がいます!」


 一人の女性が、泣きながら消防隊員へ駆け寄った。


「どこですか!」


「二階! 奥の部屋です!」


「名前は?」


「――です!」


「分かりました!」


 消防隊員が煙の中へ入っていく。


「お願い……お願い……」


 女性の膝から力が抜けかける。


 近くにいた警察官が身体を支えた。


「ここは危険です。もう少し下がってください」


「でも、子供が……」


「消防が入っています。ここにいる方が危険です」


 女性は燃えている家を何度も振り返りながら、安全な場所まで下がった。


 その横を担架が通る。


「救急!」


 煙を吸った男性が運ばれてきた。


「意識あります!」


「酸素!」


 救急隊員たちがすぐに処置を始める。


「ゆっくり呼吸してください」


「ゲホッ……ゲホッ……!」


「大丈夫です。無理に喋らなくていいですよ」


 少し離れた場所には、公園から逃げる途中で転倒した子供がいた。


 膝から血を流し、母親の手を強く握っている。


 その向こうでは、腕に火傷を負った住民が処置を受けていた。


 消防隊員が走る。


 救急隊員が負傷者を運ぶ。


 警察官が住民を規制線の外へ誘導する。


 誰かが叫ぶ。


 別の誰かが泣いている。


 それでも炎は燃え続けていた。


     ◇


 火災の規模が大きくなるにつれ、現場には報道陣も集まり始めていた。


 規制線の外。


 燃える住宅街を背に、レポーターがカメラへ向かって話している。


『現在も消防による消火活動が続けられています』


 生中継だった。


 レポーターの後ろでは、消防隊員たちが走り回り、何本ものホースから放水が続いている。


『火災は公園付近から周辺の住宅へ広がったとみられ、複数の住宅に延焼しています。現在も逃げ遅れた方がいないか、確認が――』


 風が吹いた。


 画面の奥を覆っていた煙が、一瞬だけ横へ流れる。


 そこに――白いものがあった。


 燃える公園の近く。


 人間と同じほどの大きさの白い姿が立っている。


 だが、その頭部は人間のものではない。


 鳥を思わせる頭。


 そのさらに上では、炎が揺れていた。


 レポーターは気づかない。


 背後を振り返ることもなく、中継を続けている。


『――続けられています。また、現場では複数の負傷者が確認されており――』


 白い姿は、数秒間。


 確かにテレビ画面の中に映っていた。


 中継スタッフの一人が、モニターを見たまま固まる。


「……え?」


 別のスタッフも画面を見る。


「何だ、あれ……」


 直後、カメラが不自然に横へ振られた。


 白い姿が画面から外れる。


 レポーターが一瞬だけ戸惑った。


『……現在も消防による活動が続いています。現場からは以上です』


 映像がスタジオへ戻った。


 アナウンサーは手元の原稿へ目を落とした。


 しかし、すぐには話し始めない。


 ほんの数秒。


 生放送では長く感じる沈黙が流れた。


『……ただいまの中継映像の一部については、現在確認中です。新しい情報が入り次第、お伝えします』


 それ以上は触れず、別のニュースへ移った。


     ◇


 だが、遅かった。


 見ていた人間は多い。


『今の何?』


『後ろにいたよな?』


『白いやつ』


『テレビに映ったぞ』


『駅前のやつと同じじゃない?』


 テレビ画面をスマートフォンで撮影していた者。


 録画していた中継を巻き戻した者。


 映像を一時停止して、白い姿の部分だけを拡大する者。


 数分もしないうちに、切り抜かれた映像がSNSへ投稿され始めた。


『これ』


『頭燃えてる』


『鳥みたいな顔してない?』


『駅前の動画と比べてみた』


『同じじゃね?』


 投稿は消えるどころか、次々に増えていった。


     ◇


 そして、テレビの中だけではない。


 現場にいた人々も、同じものを見ていた。


「……あれ」


 避難していた一人の男性が、公園の方を指差した。


「何?」


「いる」


「何が?」


「あそこ!」


 炎と煙の向こう。


 先ほどテレビの中継にも映り込んだ白い姿が、まだそこに立っていた。


「……駅前のやつ」


「え?」


「駅前の火事の動画。見ただろ?」


「あれと同じ……?」


 周囲の何人かが気づき始める。


「本当だ……」


「何だよ、あれ……」


 一人がスマートフォンを取り出した。


 それを見て、別の人間もカメラを向ける。


「撮れ!」


「危険です! もっと下がってください!」


 警察官が声を張り上げる。


 住民たちは規制線を越えようとはしなかった。


 それでも、安全な場所からスマートフォンを向け続ける。


「映ってる?」


「映ってる!」


「もっと寄れない?」


「これ以上は無理!」


 今回は駅前より近い。


 白い身体。


 鳩を思わせる頭部。


 頭上で揺れる炎。


 その周囲を、何羽もの鳩が飛び交っていた。


「鳩……なのか?」


「怪人だろ、あれ……」


 白い怪人は、逃げる人々を追わない。


 消防隊員へ襲いかかることもない。


 ただ、燃え上がる公園と住宅の近くに立っていた。


 何をしているのか。


 なぜそこにいるのか。


 誰にも分からない。


 風が吹いた。


 黒い煙が流れ、白い怪人を覆い隠す。


「見えない!」


「まだいる?」


「どこだ?」


 数秒後。


 煙が薄くなった。


「……いない」


「え?」


「どこ行った?」


 先ほどまで怪人が立っていた場所には、炎しか残っていなかった。


     ◇


「一人出ます!」


 消防隊員の声が響いた。


 煙の中から、一人の隊員が飛び出してくる。


 その腕には、小さな子供が抱えられていた。


「救急!」


 待機していた隊員が駆け寄る。


「呼吸あります!」


「こっちへ!」


 子供が担架へ乗せられた。


「――!」


 安全な場所で待っていた母親が、子供の名前を叫ぶ。


「お母さんですか!」


「はい!」


「こちらで処置します! 少し待ってください!」


「この子、大丈夫なんですか!?」


「今、確認しています!」


 母親は泣きながら何度も頷いた。


 救急隊員たちが子供を囲み、処置を続ける。


 その一方。


 別の住宅では、まだ捜索が続いていた。


「二階、確認!」


「奥の部屋!」


「視界悪いぞ!」


「了解!」


 煙の中を隊員たちが進んでいく。


 外では、一人の男性が燃える家を見上げていた。


 母親が中にいる。


 そう伝えた男性だった。


「母さん……」


 拳を強く握る。


 指が白くなるほど力が入っていた。


「まだですか……?」


 誰に聞いたのか、自分でも分からなかった。


 誰も答えられない。


 消防隊員たちは、まだ中にいる。


 それだけだった。


     ◇


 時間が過ぎた。


 激しかった炎も、放水によって少しずつ勢いを失っていく。


 住宅街を覆っていた黒煙も、徐々に薄くなっていた。


 それでも消防隊員たちは、最後まで住宅内の確認を続けていた。


 やがて。


 一人の隊員が住宅から出てきた。


 外で待っていた男性が、その姿を見て立ち上がる。


「母は?」


 隊員はすぐには答えなかった。


「……母は?」


 男性がもう一度聞く。


 消防隊員の表情を見る。


 その瞬間。


 何かを察したのかもしれない。


「……嘘だろ」


 男性の声が震えた。


 膝から力が抜ける。


「嘘だろ……母さん……」


 近くにいた警察官が身体を支えた。


 男性は振り払わなかった。


 ただ、焼けた家を見つめていた。


     ◇


 日が暮れる頃には、火災の大部分が抑えられていた。


 黒く焦げた公園。


 焼けた住宅。


 水浸しになった道路。


 割れた窓。


 焦げた臭い。


 何台もの消防車と救急車が、まだ現場に残っている。


 火傷を負った者。


 煙を吸った者。


 避難する途中で怪我をした者。


 負傷者が次々に搬送されていった。


 そして今回の火災では、一人の死亡が確認された。


 駅前で起きた火災とは違う。


 ついに、人が死んだ。


     ◇


 テレビでは、引き続き住宅街の火災が報じられていた。


『本日夕方、住宅街で大規模な火災が発生し、複数の住宅に延焼しました』


 画面には、現在の現場が映っている。


『消防によりますと、複数の負傷者が確認されているほか、逃げ遅れた住民がいなかったか確認を進めています』


 先ほど生中継に映り込んだ白い姿について、詳しい説明はなかった。


『なお、中継映像の一部については現在確認中です』


 それだけだった。


 一方、SNSでは違った。


『テレビにも映った』


『現地で撮った人の動画もある』


『これ駅前のと同じだろ』


『頭の火まで一緒』


『鳩みたいな怪人』


『神社の火事も関係あるんじゃない?』


 テレビ中継の映像。


 住民が撮影した映像。


 駅前で撮影された過去の映像。


 それらが並べられ、比較され始めていた。


 一つの不鮮明な映像だけではない。


 違う場所。


 違う人間。


 違うカメラ。


 それでも、そこにはよく似た白い姿が映っている。


 まだ、その正体を説明できる者はいない。


 住宅街を焼いた炎との関係も分からない。


 それでも――。


 白い怪人の姿はもう、一部の目撃者だけが知るものではなくなっていた。

本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。

それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。

一つの作品だけでも楽しめる。

けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。

ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。

【人間×生成AIによる合作作品】

企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才

文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)

本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。

本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。

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