また火が出た
また火が出た
神社で火災が起きてから、数日が経った。
消防による調査は続いていたものの、出火原因はまだ分かっていない。
火の気がある場所ではなく、タバコの吸い殻も見つからなかった。放火の可能性も調べられているが、それらしい道具や痕跡も出ていない。
警察には、火災の直前に「白い服の人を見た」「頭の辺りが光っていた」という証言も残されていた。
ただ、それだけで不審人物が火をつけたと決めることはできない。
火災直後の境内は煙に包まれ、そこにいた人々も混乱していた。炎の反射を人影と見間違えた可能性もあれば、記憶そのものが曖昧になっている可能性もある。
結局、その証言も数ある情報の一つとして記録され、火災そのものは通常の案件として調査が続けられていた。
◇
さらに数日後。
駅前広場には、多くの人が行き交っていた。
改札へ急ぐ会社員、学校帰りの学生、買い物袋を提げた人。ベンチに座ってスマートフォンを眺めている者もいれば、待ち合わせ相手を探して周囲を見回している者もいる。
そんな人々の足元を縫うように、何羽もの鳩が歩いていた。
「また増えてない?」
「増えたよな。糞もすごいし」
二人の男性が鳩を避けながら通り過ぎていく。
広場の端では、誰かが落とした食べ物を一羽の鳩が見つけていた。それをつつき始めると、すぐに別の鳩が寄ってくる。
さらに一羽、また一羽。
いつの間にか、小さな群れができていた。
誰も気に留めない。
この場所では、いつもの光景だった。
「……何か焦げ臭くない?」
一人の男性が足を止めた。
隣を歩いていた女性も立ち止まり、周囲を見回す。
「そう?」
「ほら、何か――」
男性の言葉が途中で止まった。
広場の一角から、突然炎が上がった。
「え……?」
近くにいた人々も、すぐには状況を理解できなかった。
だが、炎は消えない。
それどころか、すぐそばの植え込みへ燃え移った。
「火事だ!」
誰かの叫び声が響いた瞬間、広場の空気が一変した。
「火! 火出てる!」
「離れて!」
「消防呼んで!」
炎が乾いた葉を舐めるように走り、勢いを増していく。
それまで普通に歩いていた人々が、一斉に火から離れようとした。
「押さないで!」
「危ない!」
「うわっ!」
逃げる人同士がぶつかる。
一人の男性が体勢を崩し、その前にいた女性を巻き込むように転倒した。
「大丈夫ですか!?」
「立てます!」
「早く、こっちへ!」
近くにいた人が手を差し出し、二人を起こす。
その間にも、黒い煙が広場へ流れ始めていた。
「ゲホッ……!」
煙を吸った男性が激しく咳き込む。
子供を連れていた母親は、その手を強く握って火から離れていった。
「お母さん、鳩が!」
子供が空を指差す。
炎に驚いた鳩の群れが、一斉に飛び立っていた。
何十もの羽音が重なり、人々の頭上を横切っていく。
「うわっ!」
突然飛び立った鳩に驚き、身をかがめる人もいる。
炎。
煙。
逃げ惑う人々。
その頭上を飛び交う鳩。
数分前まで何の変哲もなかった駅前広場は、完全な混乱に包まれていた。
「駅員呼んで!」
「もう消防に電話した!」
「火から離れてください!」
駆けつけた駅員たちが声を張り上げ、人々を広場の外側へ誘導していく。
その時だった。
「……何だ、あれ?」
一人の学生が足を止めた。
隣にいた友人が振り返る。
「何?」
「あそこ」
学生が指差した先。
炎と煙の向こうに、白いものが見えた。
最初は、誰かが逃げ遅れているのかと思った。
「人いるぞ!」
誰かが叫ぶ。
だが、白い影は逃げようとしない。
それどころか、その場に立ったまま炎の向こうからこちらを見ているようにも見えた。
「……違う」
「何が?」
「あれ、人じゃない」
白い姿。
その頭部は、人間のものではなかった。
鳥のようにも見える。
さらに、その頭上では炎のようなものが揺れていた。
「何だよ、あれ……」
別の人間も気づいた。
その声で、さらに何人かが同じ方向を見る。
「撮れ!」
「え?」
「撮れって!」
何人もの人間がスマートフォンを取り出した。
「危ないですよ! 離れてください!」
駅員が制止する。
それでも、火から距離を取りながらカメラを向ける人はいた。
画面の向こう。
煙の中に白い異形が映る。
鳥を思わせる頭部。
その上で揺れる炎。
「もっと寄れない?」
「無理だって!」
「まだいる?」
「いる、いる!」
その時、風向きが変わった。
煙が大きく流れ、白い姿を覆い隠す。
「見えない!」
「どこ行った?」
数秒後。
煙が薄くなった。
だが、そこに白い姿はもうなかった。
「……消えた?」
「どこに?」
誰にも分からなかった。
◇
やがて、消防車のサイレンが近づいてきた。
消防隊員が広場へ入り、消火活動を始める。
周囲には規制が敷かれ、救急隊員が転倒した人や煙を吸った人の状態を確認していった。
「息苦しくないですか?」
「大丈夫です。ちょっと咳が……」
「念のため診ますね」
転倒して足を痛めた人もいる。
幸い、死者はいなかった。
重傷者もいない。
それでも数人がその場で手当てを受け、一部は念のため病院へ運ばれることになった。
消火活動が続き、やがて炎も見えなくなる。
先ほどまで鳩が歩いていた広場には、焦げた植え込みと、熱で変形したベンチの一部、黒く焼けた地面が残った。
そして、その周囲を警察官と消防隊員が行き交い始めた。
◇
「出火原因は?」
「まだ何とも。ただ、今のところ火元になりそうなものは見つかってません」
「目撃者は?」
「かなりいます」
警察官たちは、その場に残っていた人々から順番に話を聞いていった。
すると、同じような証言が何度も出てきた。
「白い怪物みたいなのがいたんです」
「怪物?」
「はい。人じゃなかった」
別の目撃者も言う。
「鳥みたいな顔だったと思います」
「鳥?」
「鳩……かな。いや、そこまでは分からないですけど」
さらに別の人間は、
「頭の上が燃えてた」
と証言した。
一人なら、混乱による見間違いで済ませられたかもしれない。
だが、話を聞いた場所も時間も違う人間から、似た内容が繰り返し出てくる。
「これ、撮ってた人がいるみたいです」
一人の警察官がスマートフォンを差し出した。
画面の中では、撮影者の激しい息遣いと周囲の悲鳴が聞こえている。
映像も大きく揺れていた。
炎。
煙。
逃げていく人々。
そして、その奥。
一瞬だけ、白い人影のようなものが映っている。
「……何だ、これ」
「分かりません」
「別の映像は?」
「何本かあります」
別の角度から撮られた映像を確認する。
どれも鮮明ではない。
だが、それぞれに似た白い影が残っていた。
単なる人間だと言い切るには、奇妙な姿だった。
映像を見ていた警察官の一人が、ふと眉を寄せる。
「そういえば……似た証言、なかったか?」
「似た?」
「この前の神社の火事」
記録を確認する。
白い服の人。
頭の辺りが光っていた。
今回ほど明確ではない。
しかし、まったく無関係だと切り離すには妙な一致だった。
「上に上げよう」
「二件を?」
「この映像もだ」
◇
駅前で撮影された映像は、警察内部だけに留まらなかった。
『駅前の火事、何かいる』
『着ぐるみ?』
『鳥っぽくない?』
『特撮の撮影じゃないの?』
『いや、普通に消防来てたぞ』
『これ加工じゃない?』
同じ火災を別方向から撮影した映像も、次々に投稿されていく。
煙でほとんど見えないもの。
人に遮られているもの。
数秒しか映っていないもの。
どれも決定的とは言い難い。
加工された映像だと言われれば、そう見えなくもなかった。
だが、実際に駅前で火災が起き、負傷者まで出ている。
そして、違う場所から撮影された複数の映像に、似た白い姿が残っていた。
◇
報告を受けた警察上層部でも、意見は割れた。
「怪人だと決まったわけではない」
「だが、これを無視して通常捜査だけ続けるのか?」
「神社の件と似た証言もある」
「映像まで出回り始めている。対応を間違えれば、そっちの方が問題になるぞ」
怪人事件と断定するには材料が足りない。
しかし、怪人ではないと切り捨てるにも無理がある。
通常の火災捜査は、そのまま続ける。
同時に、怪人が関与している可能性についても調べる。
その判断によって、二件の火災と駅前で撮影された映像の情報がCASHへ回されることになった。
◇
「それで、こっちにも回ってきたってわけね」
東が資料を机へ置いた。
CASHのメンバーが、駅前で撮影された映像を確認する。
画面の中では、炎と煙の向こうに白い姿が映っていた。
「怪人だろ」
南浦が短く言う。
「可能性は高いですね」
川出が答えた。
「ただ、この映像だけでは断定できません」
「こっちは?」
東が神社火災の資料へ目を落とす。
「駅前火災を調べていた担当が見つけたものです。火災直前に白い人影を見たという証言と、頭の辺りが光っていたという証言があります」
ニシが二つの資料を見比べた。
「同じ奴か?」
「それもまだ分かりません」
川出はそう答えながら、二つの発生地点を地図へ落とした。
神社。
駅前広場。
「火災の規模も違います。目撃証言だけで同じ相手と決めるのは早いです」
「でも、調べる価値はある」
東が言った。
「通常捜査は向こうに続けてもらう。私たちは、怪人が関わっている可能性を追うわ」
川出は二つの地点を見ながら、周辺情報を確認していく。
発生時間。
目撃証言。
周辺の状況。
しばらくして、その手が止まった。
「……鳩」
「何?」
東が尋ねる。
「神社にもいます。駅前広場にもかなり集まってる」
「それだけ?」
「今のところは」
川出はすぐに続けた。
「二件だけです。偶然でもおかしくありません」
「なら、まだ決めつけない」
東が地図を見る。
「場所、時間、目撃情報、防犯カメラ。拾えるものから全部拾いましょう」
「了解です」
川出が頷いた。
まだ二件。
それだけなら、偶然の一致かもしれない。
だが、もし三件目が起きたなら。
その時にも鳩がいたとしたら。
意味は大きく変わってくる。
◇
夜。
住宅街に囲まれた、小さな公園。
昼間なら子供たちが遊んでいる場所も、今は静まり返っていた。
公園のすぐ向こうには、住宅が並んでいる。
電線の上には何羽もの鳩が止まり、地面にも数羽が残っていた。
その鳩たちの向こうを、白い影がゆっくりと通り過ぎる。
鳥を思わせる頭部。
その上で揺れる炎。
白い影は足を止めることなく、公園の奥へ進んでいく。
やがて、その姿は住宅街の暗がりへと消えていった。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




