朝稽古のあと
朝稽古のあと
朝稽古を終えた紀人とサクラは、道場を出ると、そのまま敷地内の別棟へ向かっていた。
「で?」
隣を歩いていたサクラが、待ちきれない様子で紀人を見る。
「何?」
「昨日言ってた、会わせたいやつら」
「ああ。別棟にいると思う」
「思う?」
「大体あそこにいるから」
別棟は、今では主に倉庫として使われている。
紀人にとっては行き慣れた場所なのだろうが、サクラは昨日から、そこにいるという相手についてほとんど何も聞かされていない。
「本当に大丈夫なんでしょうね」
「大丈夫だって」
「紀人の『大丈夫』は信用できない」
「昨日からひどくない?」
「普段の行いでしょ」
「だから俺、何したんだよ」
紀人が不満そうに返したところで、どこからか子供たちの楽しそうな声が聞こえてきた。
「アガト! 次、俺!」
「ずるい! さっきやったじゃん!」
「こっちも! こっち来て!」
紀人の足が止まった。
「……ん?」
「どうしたの?」
もう一度、子供たちの声が響く。
「……まさか」
紀人が急に歩く速度を上げた。
「ちょっと、紀人?」
サクラも慌ててその後を追う。
別棟が見えるところまで来た二人は、その場で揃って立ち止まった。
「…………」
「…………」
朝稽古を終えた小学生たちが、まだ何人も残っていた。
そして、その真ん中に二体の怪人がいる。
「アガト! 次こっち!」
子供に呼ばれたアガトが、そちらへ向かう。
「俺とやろう!」
「僕も!」
「順番だって!」
アガトの周りへ、さらに子供たちが集まっていく。
少し離れた場所では、もう一体の怪人も何人かの子供に囲まれていた。
「ねえ、これできる?」
「こっち来て!」
怪人は言葉を返さないものの、呼ばれればそちらを向き、子供たちが動けば一緒になって身体を動かしている。
誰一人、怖がっていない。
むしろ子供たちの方が、二体を離そうとしていなかった。
「あちゃー……」
紀人が額を押さえた。
「……紀人」
「何?」
「あれ?」
「うん」
「昨日言ってた、会わせたいやつら?」
「……そう」
サクラは改めて目の前の光景を見る。
「何で小学生と遊んでるの?」
「俺が聞きたい」
「知り合いなんでしょ?」
「知り合いだけど、こうしろとは言ってない」
「アガト、次!」
「こっちも来て!」
紀人は頭を抱えた。
「……何のためにCASHがあんな必死に隠してんだよ」
「これ、まずくない?」
「まずい……よな」
「私に聞かないでよ」
「いや、でも……子供だし」
「子供ならいいの?」
「……よくないよな」
「よくないと思う」
「だよなあ……」
少し考えた紀人が、道場の方を振り返った。
「北山さん呼んでくる」
「先生、まだいるの?」
「いる。すぐ戻るから、ちょっと見てて」
「え、私が?」
「頼む!」
「ちょっと、紀人!」
止める間もなく、紀人は道場へ向かって走っていった。
その場に残されたサクラは、思わず二体の怪人へ視線を戻す。
「…………」
そのうちの一体が、ふとサクラの方を向いた。
サクラの身体に、反射的に力が入る。
朝稽古を終えたばかりだ。構えようと思えば、すぐに動ける。
だが、怪人がサクラへ近づいてくることはなかった。
「こっち! 早く!」
子供に呼ばれると、何事もなかったようにそちらへ向き直る。
そのまま、また遊びに付き合い始めた。
サクラはしばらくその姿を見たあと、ゆっくり肩の力を抜いた。
「……本当に遊んでるだけなんだ」
◇
「どこだ」
しばらくして、紀人が北山を連れて戻ってきた。
「ほら、あそこです」
紀人が指を差す。
「アガト! 次、俺!」
「こっちも!」
道場の小学生たちは、相変わらず二体を囲んで遊んでいる。
北山は何も言わず、その光景をしばらく眺めていた。
「……何だ、これは」
「俺が聞きたいです」
「いつからだ」
「俺たちが来た時には、もうこうなってました」
サクラが答えると、北山は子供たちへ視線を戻した。
「誰も怖がってないのか?」
「全然」
「むしろ子供たちの方から遊びに行ってます」
北山が眉間を押さえる。
「……何のためにこっちは隠してると思ってるんだ」
「俺も同じこと言いました」
「お前は他人事みたいに言うな」
「俺のせいじゃないですよ!」
「知り合いだろ」
「知り合いだったら全部俺の責任になるんですか!?」
隣で聞いていたサクラが、思わず吹き出した。
「サクラ」
「すみません」
「笑い事じゃないぞ」
「はい」
返事をしながらも、口元にはまだ笑みが残っている。
北山はため息をつくと、もう一度子供たちの方を見た。
「……東さんにも報告が必要だな」
「やっぱりですか」
「当たり前だ。道場の子供たちに、これだけ堂々と見られてるんだぞ」
「ですよね……」
「あとで俺から報告を入れる。お前も、どういう状況だったか説明できるようにしとけ」
「俺も?」
「一番こいつらと話が通じるのはお前だろ」
「……まあ、それは」
「否定できないだろ」
「できないですけど……」
「じゃあ決まりだ」
紀人が露骨に嫌そうな顔をした。
「紀人」
サクラが横から声をかける。
「何?」
「諦めなさい」
「お前、さっきから俺の味方じゃないよな?」
「味方だなんて言ってないけど」
「ひどくない?」
◇
やがて、子供たちも帰る時間になった。
「アガト、またな!」
「また遊ぼう!」
「そっちもまたね!」
「バイバーイ!」
子供たちは思い思いに手を振ると、別棟の前からそれぞれ散っていった。
アガトがそれに応え、隣にいた怪人も小さく手を振り返す。
先ほどまで響いていた声が少しずつ遠ざかっていく。
最後の一人の姿が見えなくなったところで、北山が深く息を吐いた。
「……完全に馴染んでるな」
「でしょ?」
「何でお前が得意そうなんだ」
「してませんよ」
「してる」
「してないですって」
また始まった二人のやり取りに、サクラが笑いそうになって口元を押さえた。
◇
「じゃあ、紹介する」
紀人がサクラを二体の前へ連れていった。
「こいつ、サクラ」
アガトと、隣にいるもう一体がサクラを見る。
「俺と同じ学校で、空手やってる。俺のライバル」
「ちょっと」
「何?」
「……それだけ?」
「他に何がいるんだよ」
「別に」
サクラは少し不満そうな顔をしたが、紀人は気づかない。
「あと、これからCASHにも協力することになった」
二体がサクラを見る。
紀人はその反応を眺め、小さく肩をすくめた。
「……まあ、どこまで分かってるかは知らないけど」
「紹介する意味あるの?」
「あるだろ。顔くらい知っといた方がいい」
「それはそうだけど」
紀人がまず一体を示す。
「こっちがアガト」
「アガト」
サクラが呼ぶと、アガトがすぐに反応した。
「で、こっちがユキ」
「ユキ?」
今度は隣の怪人を見る。
「ユキ」
名前を呼ぶと、ユキがサクラの方を向いた。
「あ、この子はユキっていうんだ」
「ああ」
「さっきの子たち、名前で呼んでなかったから」
「こいつ、まだ喋らないからな」
サクラは興味深そうにユキを見る。
「でも、自分がユキだって分かってるの?」
「分かってる」
「ユキ」
試すようにもう一度呼ぶと、ユキはまたサクラを見た。
「本当だ」
サクラの表情が少し緩む。
「よろしく、ユキ」
ユキが反応する。
続いてアガトへ顔を向けた。
「アガトも、よろしく」
アガトもサクラへ応える。
その様子を見ていたサクラは、少しして紀人へ顔を向けた。
「……昨日、紀人に言われてなかったら、たぶん構えてた」
「だから先に言っただろ」
「『見た目で敵だと思って殴るな』だけで分かるわけないでしょ」
「でも殴らなかったじゃん」
「小学生と遊んでるところを先に見たからよ」
「結果オーライだろ」
「紀人が言うと腹立つ」
「何でだよ」
二人のやり取りを聞いていた北山が口を開いた。
「少なくとも、人を襲う連中じゃない。それは俺たちも確認してる」
サクラが振り返る。
「先生も、この二人のこと知ってるんですか?」
「ああ。何度かな」
「CASHの怪人じゃないんですよね?」
「CASHに怪人の隊員はいない」
「あ、そういう意味じゃなくて……」
「分かってる」
北山がわずかに表情を緩める。
「CASHの所属じゃない。こっちが指示して動かしてるわけでもない」
「じゃあ、どうして怪人事件の現場に?」
「勝手に来る」
「勝手に?」
「ああ。呼んでもいないのに現れて、人間を助けて帰っていく」
サクラは二体を見比べた。
「……本当に?」
「今のところはな」
「変な怪人ですね」
「否定はしない」
紀人もアガトとユキを見る。
「まあ、変なのは確かだな」
サクラがすぐに紀人へ顔を向けた。
「紀人が言う?」
「何で俺?」
「類は友を呼ぶって言うでしょ」
「俺は怪人じゃねえよ!」
「誰もそこまで言ってないでしょ」
「今の流れ、絶対そういう意味だっただろ!」
「どうでしょうね」
「サクラ!」
また二人の言い合いが始まる。
アガトとユキは並んで、その様子を眺めていた。
北山はそんな三人と二体を見ながら、深くため息をつく。
「……朝から元気だな、お前ら」
サクラとアガト、ユキの顔合わせは、どうにか無事に終わった。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




