第1話「もう一人の協力者」
フレイムピジョン編
第1話「もう一人の協力者」
CASHの拠点に、主要メンバーが集められていた。
東、北山、ニシ、南浦、川出。いつもの顔ぶれが揃ったところで、シラメ博士が入口へ目を向ける。
「今日はみんなに会ってもらいたい人がいるんだ」
「会ってもらいたい人?」
ニシが怪訝そうな顔をした。
東や川出も詳しいことまでは聞かされていないらしく、シラメ博士の次の言葉を待っている。
「入っていいよ」
その声に応じて扉が開いた。
一人の少女が、少し緊張した様子で部屋へ入ってくる。
制服姿の、ごく普通の女子高生。
けれど、その顔を見た瞬間だった。
「――サクラ!?」
椅子が床を擦る大きな音が響いた。
北山が勢いよく立ち上がっていた。
ニシも目を見開き、川出も言葉を失っている。東も驚きを隠せず、入ってきた少女を見つめていた。
「北山先生……」
サクラが小さく頭を下げる。
「お前……」
北山は、その先の言葉をすぐには出せなかった。
最後に見たサクラは、こんな姿ではなかった。
怪人の姿でキッドと一騎打ちをし、その後、ヨミによって吹き飛ばされた。まともに生きているとは思えないほどの一撃だった。
しかも、その後には倒れていたはずの身体までなくなっている。
生きているのか、死んでいるのか。それすら分からなくなっていた教え子が、今は制服を着て、自分の目の前に立っている。
「……生きてたのか」
「はい」
「本当に……サクラなんだな?」
「はい。私です」
ようやく現実を受け入れ始めた北山が、一歩前へ出ようとする。
その時だった。
「近づくな」
低い声が飛んだ。
北山の足が止まる。
声を発したのは南浦だった。
「何?」
北山が振り返る。
南浦はすでに椅子から立ち上がり、サクラをまっすぐ見据えている。その姿には、教え子との再会を喜ぶ北山とはまるで違う緊張があった。
「そいつが本人だって証拠は?」
「何言ってる。サクラだぞ」
「そう見えるだけかもしれない」
「南浦」
東が名前を呼ぶ。
それでも南浦は、サクラから目を離さなかった。
「忘れたのか。俺たちは人間に化ける怪人を追ってた」
その言葉で、北山も言い返しかけた口を閉じる。
ミラーカメレオン。
人間の姿を写し取り、その人物になりすまして事件を起こす怪人を、彼らはつい最近まで追っていた。
目の前に知っている顔がある。知っている声で話している。それだけでは本人である証明にならないことを、嫌というほど思い知らされている。
「最後に見たサクラは怪人だった。ヨミに吹き飛ばされて、そのあと消えた」
南浦の口調は変わらない。
「それが人間の姿で戻ってきた。信用しろって方が無理だ」
北山は拳を握った。
生きていてほしかった。今すぐにでも目の前の少女を教え子だと信じたい。
だが、南浦の警戒そのものを間違いだと言い切ることもできなかった。
サクラも反論しない。むしろ自分が疑われることを、ある程度は覚悟していたようだった。
「まあ、そうなるよね」
シラメ博士が間へ入った。
「でも、サクラ本人だよ。そこは確認してある」
「間違いないの?」
東が尋ねる。
「うん。姿を見ただけで判断したわけじゃないよ」
シラメ博士がはっきり答えると、南浦はようやく構えをわずかに緩めた。
それでも、警戒そのものを解いたわけではない。
北山が改めてサクラを見る。
疑う必要がないのなら、今度こそ言える。
「……本当に、よかった」
ようやく出てきた言葉だった。
「心配かけました」
サクラも、少しだけ表情を緩めた。
◇
「じゃあ、今のサクラについて話すね」
全員が落ち着いたところで、シラメ博士が説明を始めた。
「まず、怪人になる前とまったく同じ身体に戻ったわけじゃない」
再会を喜んでいた北山の表情が、再び曇る。
「……戻せないのか?」
「一度、怪人になるところまで改造された身体だからね。人間だった頃の身体を全部そのまま残して、その上から怪人の身体を被せたわけじゃないんだ」
シラメ博士は言葉を選びながら続ける。
「怪人に改造された時に、失われた部分もある。別のものに置き換えられた部分もある。元通りの人間にしようとしたら、足りないものが多すぎるんだよ」
「足りない?」
「人間だった頃の組織や器官。それを全部人間のものに戻そうとしたら、足りない分をどこかから持ってこなくちゃいけない。一人のドナーで足りるとも限らない」
北山だけではない。ニシも川出も、言葉を失った。
一人の少女を完全な人間へ戻すために、別の人間の身体をどれほど必要とするのか。
それは単純に、技術があるかどうかだけで決められる話ではなかった。
「できるからやっていい、とはならないでしょ?」
シラメ博士の言葉に、誰も反論しなかった。
「だから今のサクラは、人間として生活できるようになってるけど、怪人になる前と同じ普通の人間に戻ったわけじゃない。言うなら、改造人間が一番近いかな」
「改造人間……」
ニシが小さく呟いた。
サクラ自身は静かに聞いている。初めて聞かされた話ではないのだろう。
「学校にも戻れる。普通に食事もできるし、日常生活も送れる。でも、怪人だった頃の性質が全部なくなったわけじゃない」
「力も残ってるんですか?」
川出が尋ねる。
「残ってるよ」
その答えを聞いた瞬間、南浦の目が細くなった。
◇
「脳は?」
短い問いだった。
シラメ博士が南浦を見る。
「調べてる。今のところ異常は見つかってないよ」
「洗脳は?」
「確認されてない」
「チップは?」
「それも見つかってないよ」
「見つかってないだけかもしれない」
南浦は即座に返した。
シラメ博士も、それを否定しなかった。
「怪人にした連中が、こっちに分かる仕掛けだけ残すとは限らない」
「……そうだね」
「音かもしれない。電波かもしれない。言葉かもしれない」
南浦はサクラを見る。
「何か仕込まれてないって、言い切れるのか」
シラメ博士はすぐには答えなかった。
確認できた範囲で異常はない。だからといって、未知の技術による仕掛けが絶対に存在しないと証明することは別の話だった。
「僕たちが確認できる範囲では何もないよ。でも、未知の仕掛けまで含めて絶対にゼロかって聞かれたら……そこまでは言えない」
「なら、俺は反対だ」
「サクラは人を襲ってない!」
北山がすぐに言い返した。
「知ってる」
南浦も即答する。
「だったら――」
「だから今、言ってる」
北山が止まった。
「あの時はキッドが相手だった」
南浦は、サクラがかつて見せた力を知っている。
「もし次に、あの力が普通の人間に向いたらどうする」
「…………」
「何か起きてからじゃ遅い」
サクラが人間を襲ったことはない。
南浦も、それを問題にしているわけではなかった。
あれだけの力を持つ身体に、本人すら知らない何かが残されていたら。そして、それがいつかサクラの意思とは関係なく働いたら。
その可能性を無視するつもりがないだけだった。
◇
「それで、これからなんだけど」
シラメ博士が話を進めた。
「必要な時には、サクラにも僕らへ協力してもらうことになった」
「待て」
今度は北山だった。
「もちろん正式なCASH隊員じゃないよ。警察官でもないし、学生だからね」
シラメ博士は少し笑った。
「まあ、難しく考えなくていいよ。キッドみたいな協力者が、もう一人増えたと思ってくれればいい」
「普段は学校生活を優先してもらうわ」
東が続ける。
「必要もないのに現場へ出すつもりはない。危険すぎると判断した場合には、こちらから止める。それが条件よ」
それでも北山は納得できなかった。
「サクラ。学校に戻れるんだろ?」
「はい」
「だったら戻れ」
「戻ります」
「なら、もう戦わなくていい」
北山の声には、怒りよりも焦りがあった。
「あんな目に遭って、ようやく帰ってきたんだぞ。また怪人と戦う必要なんてない」
目の前の教え子を、一度は死んだと思った。
そのサクラが生きて戻り、学校へも戻れるという。ならば、今度こそ普通の女子高生として暮らしてほしい。
北山がそう思うのは当然だった。
「……先生」
「何だ」
「学校には戻ります。普通に生活もします」
「だったら――」
「でも、それだけにはしたくないんです」
北山が黙る。
「私みたいな人が、また出るかもしれないから」
サクラは自分の手へ目を落とした。今は、どこから見ても普通の少女の手だった。
「何でもできるなんて思ってません。でも、今の私だからできることがあるなら……何もしないでいるのは嫌です」
北山は何も答えられなかった。
普通に生きてほしい。その気持ちは変わらない。
けれど、サクラ自身が自分の意思でここに立っていることも分かっていた。
◇
「南浦さん」
サクラが呼びかけると、南浦が視線を向けた。
「さっきの話、私も分かります」
「サクラ」
北山が心配そうに見る。
「私、人を襲ったことはありません。でも……キッドと戦った時の力がなくなったわけじゃないんですよね?」
サクラがシラメ博士を見る。
「うん」
「だったら、私も考えておかなきゃいけないと思います」
南浦へ向き直る。
「もし私が、自分の意思じゃない動きをしたら……止めてください」
「止める」
南浦は迷わなかった。
「それでも止まらなくて、誰かにあの力を向けるようなことがあったら……」
サクラはそこで一度、言葉を止めた。
怖くないはずがない。
それでも、続きを口にする。
「その時も、迷わないでください」
「撃ってもか」
「はい」
「サクラ!」
北山が声を上げた。
「そんなことを簡単に言うな!」
「簡単に言ってません!」
サクラも思わず声を強めた。
けれど、その声はすぐに小さくなる。
「私だって怖いんです」
北山が止まった。
「自分が知らないところで何かされてて、それで誰かを傷つけることになったら……その方が怖い」
サクラは自分の手を握った。
「だから、そうなる前に止めてほしいんです」
南浦はしばらくサクラを見ていた。
「分かった」
返したのは、それだけだった。
サクラを信用したわけではない。怪人に対する考えを変えたわけでもない。
だが少なくとも、サクラ本人も自分の中に残っているかもしれない未知の危険から、目を逸らしてはいなかった。
◇
「まあ、今ここで全部決めなくてもいいだろ」
ニシが腕を組み直した。
「実際に一緒に動いてみないと分からんこともある」
「そうですね」
川出も頷いた。
「少なくとも、サクラさん本人が何も考えずにここへ来てるわけじゃない。それは分かりました」
東が全員を見回す。
「今日ここで、全員にサクラさんを信用しろとは言わないわ」
南浦を見て、それから北山へ視線を移す。
「サクラさんも、無理に認めてもらおうとしなくていい。必要になった時に、できることをやる。まずはそこからよ」
「はい」
サクラが頷いた。
全員に歓迎されたわけではない。すべての不安が消えたわけでもない。
それでも、ここから始めることはできる。
◇
話が終わり、サクラが帰ろうとしたところで北山が呼び止めた。
「サクラ」
「はい?」
「……無茶だけはするなよ」
サクラは一瞬きょとんとしたあと、少しだけ笑った。
「先生もですよ」
「俺はいい」
「よくないです」
「お前な……」
ほんの一瞬だけ、道場にいた頃の二人へ戻る。
北山はまだ、サクラが戦うことを納得してはいない。
それでも、生きて戻ってきた教え子と、もう一度こんな会話ができる。
今は、それだけでもよかった。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




