間話 これ、本当に特撮?
間話 これ、本当に特撮?
動画が公開されてから、まだそれほど時間は経っていなかった。
それでもコメント欄は、すでに追いきれないほどの勢いで流れている。
『モズキャッチャー!?』
『懐かしいの来た!』
『再登場怪人じゃん』
『前よりデカくなってない?』
『装甲ゴツすぎ』
『掃除機ついてるw』
『いや笑えないだろ、あれ普通に厄介だぞ』
画面の中では、キッドがモズキャッチャーへ踏み込んでいた。
拳を放つ。
確かに当たった。
だが、その直後に吸引され、強制的に間合いを潰される。
『あー、近すぎる!』
『パンチ当たってるのに威力出てないな』
『蹴りもミート位置ズレてる』
『これキッドと相性最悪じゃね?』
『近づけられたら有利かと思ったら逆なの面白い』
『打撃キャラに超近距離押し付けるの嫌すぎる』
捕獲腕に掴まれたキッドが、そのまま地面へ叩きつけられた。
『痛そう』
『今回めっちゃ苦戦してんな』
『モズキャッチャー普通に強い』
『前倒した相手とは思えん』
そして、戦場にアリアが現れた瞬間。
コメント欄の速度が、さらに跳ね上がった。
『!?』
『アリア!?』
『え?』
『サクラ!?』
『生きてた!?』
『うおおおおおお!』
『味方きた!』
アリアとキッドが並び、モズキャッチャーを攻め始める。
一人では吸引によって作れなかった間合いを、アリアが補う。キッドの拳と蹴りが、次々とモズキャッチャーへ入っていく。
『連携うまっ』
『キッドの間合い作ってくれてる』
『これ完全に味方だろ』
『サクラ復活じゃん』
『熱い』
攻撃を重ねるたび、モズキャッチャーの装甲が壊れていく。
『いける!』
『ボロボロじゃん』
『あと少しだろ』
『勝ったな』
その直後だった。
アリアの攻撃が、キッドの背中へ叩き込まれた。
コメント欄が一瞬だけ静まり返る。
『え』
『は?』
『???』
『今キッド殴った?』
『誤爆?』
『いや完全に狙ってたぞ』
『ちょっと待て』
『敵なの!?』
『さっきまで共闘してたじゃん!』
混乱する視聴者を置き去りにするように、今度はモズキャッチャーの身体から異変が始まった。
ひび割れた外皮が、一枚、また一枚と剥がれ落ちていく。
『……え?』
『何これ』
『脱皮?』
『第二形態!?』
『待って』
『中、無傷じゃね?』
外装が完全に崩れ落ち、その下から本来の身体が現れる。
『うわあああああ』
『今まで外側しか殴ってなかったのかよ!』
『絶望感やばい』
『あれ全部装甲だったの!?』
『キッドの反応が完全に俺ら』
『そりゃ「嘘だろ」ってなるわ』
『こっちはボロボロなのに向こう本体ほぼ無傷じゃん』
しかも、敵に回ったアリアと、本来の身体を現したモズキャッチャーが並んでキッドへ向かう。
『無理ゲー始まった』
『二対一はダメだろ』
『サクラ何で敵なんだよ』
『操られてる?』
『いやこれ何かあるだろ』
『アリア一言も喋ってないの怖い』
◇
そこへ、新たな影が飛び込んできた。
強烈な蹴りを受け、アリアが吹き飛ばされる。
そして画面に現れたのは、これまで見たことのない女性型のヒーローだった。
一瞬、コメント欄が止まる。
次の瞬間。
爆発した。
『誰!?』
『新ヒーロー!?』
『女!?』
『女性ライダー枠来た!?』
『ライダーじゃねえ』
『細かいことはいい!』
『羽!?』
『蝶の羽だ!』
『めっちゃかっこいい』
『デザイン好き』
『右手何あれ』
『蜂の針っぽい』
『アリアっぽくない?』
『蜂と蝶の要素あるよな』
『絶対関係あるだろ』
女性ヒーローは、迷うことなくアリアへ向かっていく。
その動きは速く、何より躊躇がない。
『強っ』
『キッドより容赦ないw』
『動き綺麗だな』
『飛べるの便利すぎる』
『マスク越しだけど絶対美人じゃん』
『分かる』
『何が分かるんだよ』
『雰囲気で分かる』
『分からねえよw』
『いや絶対美人』
『スタイル良すぎ』
『声もかっこいい』
『この人誰なんだろ』
『新キャラかな』
『前からいた?』
『初登場じゃね?』
『キッドと並ぶとめっちゃ絵になる』
『コンビになるのかな』
『それはそれで見たい』
戦闘が進み、アリアの正体がミラーカメレオンだと判明すると、コメント欄は再び沸騰した。
『そういうことか!』
『偽物だったのかよ!』
『サクラじゃなかった!』
『ミラーカメレオンまたお前か!』
『怪人の姿までコピーできるようになったの!?』
『能力強化されすぎだろ』
一方、女性ヒーローは何度も右拳をミラーカメレオンへ当て続けていた。
『右ばっか使ってない?』
『ほんとだ』
『右手の針みたいなの関係ある?』
『蜂なら毒じゃね?』
『麻痺系?』
『でも一発じゃ効いてないぞ』
『蓄積型とか?』
『考察班はえーよ』
やがて、ミラーカメレオンの動きが目に見えて鈍り始める。
『あ』
『遅くなった』
『やっぱ何か入れてるだろ』
『擬態も崩れてる』
『毒説濃厚』
『この人、戦い方が地味に怖いな』
『一発で倒すんじゃなくてずっと削ってる』
『めっちゃ冷静』
その頃、キッドもメモリーを入れ替えていた。
『ゾウ!?』
『カンガルー!』
『ヒクイドリ!?』
『何その組み合わせw』
『いや理にかなってる』
『ゾウで吸引耐えて』
『カンガルーでパンチ』
『ヒクイドリで蹴りか』
『キッド頭使ってるじゃん』
『成長したな』
『親目線やめろ』
カンガルーの力を乗せた拳がモズキャッチャーへ入る。
今度は、外装ではない。
本体が大きくよろめいた。
『入った!』
『今度はちゃんと効いてる!』
『外装じゃない!』
『カンガルーパンチ強っ』
続けて、ヒクイドリの力を乗せた蹴りが直撃する。
『ヒクイドリえぐいw』
『あれ食らいたくねえ』
『そもそもヒクイドリに蹴られたくねえよ』
二人のヒーローが、それぞれの怪人を追い詰めていく。
やがて、女性ヒーローの拳を何度も受けたミラーカメレオンが倒れた。
『新ヒーロー勝った!』
『強い』
『何者なんだよマジで』
『早く正体教えろ』
『マスク外して』
『絶対美人だから』
『まだ言ってる奴いるw』
残るモズキャッチャーが最大出力で吸引を始める。
そこへキッドと女性ヒーローが、同時に飛び込んだ。
『うおおおおお!』
『二人で行った!』
『合わせた!』
『この連携好き』
『初共闘なのに息合ってきてる』
最後は、カンガルーの拳。
そして、ヒクイドリの蹴り。
強烈な二撃を受け、モズキャッチャーが倒れる。
『勝ったああああ!』
『今回長かった』
『めっちゃ強かったな』
『外装剥がれた時マジで終わったと思った』
『新ヒーローいなかったら負けてた?』
『多分かなり危なかった』
『次も出てくれ』
そして映像は、女性ヒーローの正体を映さないまま終わった。
『え?』
『終わり!?』
『正体は!?』
『そこ見せろよ!』
『マスク取れええええ』
『次回まで引っ張る気か』
『絶対美人なのに』
『だから何で分かるんだよw』
◇
いつものように、コメント欄は盛り上がっていた。
新しい怪人。
新しい能力。
新しいヒーロー。
次の配信を待ちきれない視聴者たちが、それぞれ好き勝手に感想や考察を書き込んでいる。
だが、その流れの中へ、少しずつ違う種類の書き込みが混ざり始めた。
『ところでさ』
『何』
『今回の場所、見覚えあるんだけど』
『ロケ地?』
『いや』
少し間が空く。
『この前ニュースになった場所と近くない?』
『ニュース?』
『例の銃乱射テロ』
コメントが流れる。
『あー』
『あれか』
『さすがに偶然だろ』
『特撮と現実混ぜるな』
『ロケなんて前に撮ってるだろ普通』
『でも建物似てない?』
『似た場所なんていくらでもある』
別の書き込みが入る。
『前の動画でも警察っぽい車映ってなかった?』
『特殊部隊みたいなのもいたよな』
『いや撮影用だろ』
『警察車両まで全部用意してんの?』
『制作費どうなってんだよこの番組』
『スポンサーどこだよw』
『毎回街壊してるしな』
『CGだろ』
『じゃあどこまでCGなんだよ』
いつもの冗談。
いつもの考察。
普段なら、それだけで流れていく話だった。
その中へ、一つの書き込みが入る。
『俺、あの日あの辺にいた』
コメントの流れが、ほんの少し変わった。
『何の日?』
『テロ』
『マジ?』
『嘘乙』
『本当』
『銃声聞いた?』
『分からん』
『でも音は聞いた』
『ニュースで言ってたのと違う感じだった』
すぐに反応が返ってくる。
『はいはい』
『陰謀論始まった』
『特撮見すぎ』
『怪人が本当にいたとか言い出すぞw』
『いや俺も遠かったから何とも言えんけど』
書き込んだ本人も、それ以上は続けなかった。
それでも。
書き込みそのものは、確かにそこに残った。
◇
しばらくして、また別のコメントが流れる。
『知り合い警察だけどさ』
『はい嘘』
『早いw』
『最近怪人の話するとマジで嫌な顔するぞ』
『お前が怪人の話ばっかしてるからだろ』
『それだ』
『草』
コメント欄は、また笑いに包まれる。
だが、その直後。
『でも最近こういう動画多くない?』
『このチャンネルの宣伝だろ』
『誰が撮ってんの?』
『スタッフ』
『毎回?』
『そういう設定』
『生配信っぽい回もあったよな』
『演出』
『全部?』
『全部だろ』
『……本当に?』
そこで一瞬、返事が止まった。
だが、すぐに別のコメントが流れ込む。
『考えすぎw』
『特撮は特撮として楽しめ』
『新ヒーローの正体考察しようぜ』
『美人』
『またお前か』
『絶対美人』
『もう分かったからw』
コメント欄は、またいつもの空気へ戻っていった。
◇
それからも、コメントはものすごい速度で流れ続けた。
『次回いつ?』
『モズキャッチャーまた復活するかな』
『もう勘弁してやれ』
『女性ヒーロー次も出して』
『名前まだないの?』
『キッドの新メモリーもっと見たい』
『ゾウ強かった』
『ヒクイドリ怖い』
そんな大量の書き込みの中に。
ほんの一つ。
『もし、これが本物だったら?』
すぐ下に返事がつく。
『本物なわけないだろw』
『特撮見すぎ』
『寝ろ』
その書き込みも、あっという間に大量のコメントの中へ埋もれていった。
◇
一人の視聴者が、動画を止めた。
コメントは書かない。
代わりに別の画面を開く。
表示されたのは、大規模銃乱射事件を伝えるニュース記事。
被害状況。
現場周辺の写真。
視聴者は記事を眺めたあと、もう一度動画へ戻った。
再生。
画面の中に映る建物。
道路。
交差点。
一度止める。
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写真を見る。
また動画へ。
見比べる。
似ている。
偶然と言われれば、そうなのかもしれない。
撮影場所が近かっただけと言われれば、それまでかもしれない。
だが。
視聴者は、しばらく画面から目を離さなかった。
コメント欄では今も。
『新ヒーロー絶対美人』
『まだ言ってんのかよw』
『次回で顔出し頼む』
そんな書き込みが流れている。
視聴者は何も書かなかった。
誰かに自分の考えを伝えることもしなかった。
ただ。
動画の再生位置を最初へ戻す。
そして、もう一度。
最初から再生した。




