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ビーストギア  作者: 時根脱才 
復活編

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第六章 第15話 少しだけ前へ

第六章 第15話 少しだけ前へ


事件から数日が経った。


朝、紀人が教室へ入ると、いつもより少しだけざわついていた。


理由はすぐに分かった。


窓際に、久しぶりに見る姿がある。


「……サクラ」


呼ばれたサクラが振り向く。


「何?」


「いや……本当に学校来たんだな」


「来るでしょ、普通に」


周囲では、クラスメイトたちがサクラを囲んでいた。


「もう大丈夫なの?」


「ずっと休んでたよね」


「大怪我したって聞いたけど」


サクラは、そのたびに同じような説明を繰り返している。


「うん。ちょっと長く治療してただけ」


ちょっと。


その言葉を聞いた紀人は、何とも言えない顔になった。


怪人になり、戦いの中で吹き飛ばされ、生死不明になった。普通の治療では助からないほどの重傷を負い、今では改造された身体と専用の変身システムで怪人と戦っている。


それを全部まとめて、ちょっと長く治療していただけ。


「……便利だな、その説明」


紀人が小さく呟くと、サクラがこちらを見る。


「何か言った?」


「何でもない」


学校や家族には、事件に巻き込まれて重傷を負い、長期間の治療と保護が必要だったと説明されている。それ以上のことは、当然話せない。


この教室で、その説明の裏側を知っているのは紀人だけだった。


◇


休み時間。


廊下へ出たサクラを、紀人が追いかけた。


「本当に普通に戻るんだな」


「さっきも言ったでしょ」


「いや、だってさ……」


紀人は言葉を探した。


ほんの少し前まで、生きているのかすら分からなかった相手が、今は制服を着て同じ教室で授業を受けている。


まだ、その光景に頭が追いつかない。


「戦えるようになったからって、学校辞める理由ないでしょ」


「まあ……そうだけど」


「紀人だって学校来てるじゃん」


「俺は――」


言いかけて、紀人は止まった。


確かに同じだ。


自分も怪人と戦っている。身体だって、もう普通とは言えない。


それでも学校へ来て、授業を受け、友人たちと話している。


戦うようになったからといって、それまでの日常をすべて捨てたわけではない。


「……そうだな」


紀人が答えると、サクラはそれ以上何も言わず教室へ戻っていった。


◇


放課後。


紀人が帰り支度をしていると、サクラの端末が鳴った。


画面を確認したサクラが言う。


「博士から」


「また?」


「検査」


「今日も?」


「まだしばらくは必要なんだって」


サクラは鞄を持ち上げる。


「CASH行くのか?」


「うん」


正式な所属が決まったわけではない。


今のサクラは、あくまでCASH預かり。学校生活へ戻りながら、必要に応じて身体の検査や装備の調整を受けることになっている。


「俺、そんなに検査してないけどな……」


紀人が自分の身体を見下ろす。


サクラは振り返りながら言った。


「気になるなら博士に聞けば?」


「聞くと余計なことまで言われそうなんだよな」


「それはある」


そこだけは、二人とも迷わず意見が一致した。


◇


その頃。


CASHでは、今回の一連の事件について検証が行われていた。


東、北山、ニシ、南浦、川出、そしてシラメ博士。


机の上には複数の戦闘記録が並んでいる。


シラメ博士が画面を切り替えた。


「まず、これ」


映し出されたのは、以前CASHの特殊弾で撃破したネズミ型怪人。


その隣には、キッドが戦った、より強力なネズミ型怪人の記録が表示されている。


北山が腕を組んだ。


「同じネズミでも、随分違うな」


「そうなんだよね。前に特殊弾で倒せた個体は、こっちと比べると明らかに弱い」


南浦が聞く。


「つまり?」


「特殊弾が怪人に通用する。それ自体は間違いないよ。でも、キッドが戦ったクラスの怪人にも同じように効くかと言われると、保証はできない」


川出が眉を寄せる。


「同じ種類だから、同じ強さとは限らない」


「そういうこと」


東が腕を組んだ。


「じゃあ、結局強いのが来たらキッド頼み?」


「今のところはね」


シラメ博士はあっさり答えた。


北山が苦い顔をする。


「随分はっきり言うな」


「事実だからね」


室内の空気が少し重くなる。


だが、東は何かを考えるように目を細めた。


「……ただ、手が一つ増える可能性はあるわ」


全員の視線が東へ向く。


北山が眉を上げた。


「何だ、それ?」


「それはまた今度」


「何だよ、それ」


東は答えず、シラメ博士だけが少し楽しそうに笑っていた。


◇


次に表示されたのは、一連の強奪事件の記録だった。


スピーカー、鏡、加湿器、UFOキャッチャー、掃除機。


そのほかにも、奪われた物品が並んでいる。


川出が説明する。


「今回確認できた怪人能力と、盗難品を照合しました」


画面が切り替わった。


強化モズキャッチャーに追加された、掃除機由来と考えられる吸引能力。


同じ系統の機能を持ったシロアリ怪人。


そして、強化ミラーカメレオン。


東が呟く。


「やっぱり、盗まれた物が怪人の強化に使われてたのね」


「その可能性はかなり高いです」


川出の説明を、シラメ博士が引き継ぐ。


「しかも、それだけじゃない」


モズキャッチャーに追加された分厚い外装甲。


強化された捕獲機構。


以前より精度を増したミラーカメレオンの擬態能力。


「もう、昔と同じ怪人がそのまま出てくると思わない方がいい」


シラメ博士は全員を見回した。


「過去の怪人が持っていた能力を抜き出して別の怪人へ加える。シロアリみたいな雑魚にまで搭載する。それだけじゃなく、本体そのものも強化してくる」


ニシが低く唸る。


「何でもありになってきたな」


「そこまでではないと思うけどね。ただ、向こうの技術が以前より進んでるのは間違いない」


東は黙って画面を見る。


敵は、確実に強くなっている。


◇


「でも」


東が口を開いた。


「こっちも、何も変わってないわけじゃない」


全員が東を見る。


「シロアリなら、今のCASHの武器で倒せる」


南浦が頷く。


「一撃でな」


「特殊弾も、少なくとも一部の怪人には通用する。それに、一度経験した能力なら対応できることも増えてきた」


掃除機機能付きのシロアリ怪人。


最初は未知の能力に翻弄された。


だが、二度目の戦闘ではCASHも対応できた。


川出が言う。


「避難誘導や周囲の封鎖も、以前より早くなっています」


「そう」


東が頷いた。


「前だったら、怪人が出たらキッドが来るまで何もできなかった」


今は違う。


CASHだけで倒せる相手がいる。


倒せない相手でも、時間を稼ぐことはできる。


一般人を逃がし、雑魚怪人を引き受け、戦線を維持する。キッドが主怪人との戦闘へ集中できる状況を作ることもできる。


CASHにも、できることが確実に増えていた。


シラメ博士が言う。


「勝てるようになった、とまではまだ言えないけどね」


東は少し笑った。


「でも、何もできないわけじゃなくなった」


そこにいる全員が、その言葉を否定しなかった。


◇


会議を終え、東たちは本部の廊下を歩いていた。


以前なら、CASHの一行を見るだけで露骨に避ける者がいた。怪訝な顔を向ける者もいた。


またあいつらか。


そんな空気が、確かにあった。


だが、今日は少し違う。


向こうから歩いてきた警察官がCASHの姿を見ると、一瞬だけ迷うように足を止めた。


そして。


「……先日の件、お疲れさまでした」


軽く頭を下げる。


東が思わず足を止めた。


「……どうも」


警察官は、そのまま通り過ぎていく。


さらに別の者も、何も言わずCASHの一行へ道を空けた。


ニシが小声で言う。


「何か気味悪ぃな」


「せっかく少し認めてもらったのに、その言い方やめなさいよ」


東が呆れる。


川出が小さく笑った。


北山は廊下の先を見ながら言う。


「まあ、今更怪人なんかいませんとは言えねえわな」


今回、多くの警察関係者が実際に怪人を目撃した。


怪人特別対策班は壊滅し、その後の現場をCASHが引き継いだ。


好かれたわけではない。


全面的に信頼されたとも言い切れない。


それでも、怪人に対応できる存在として、少しずつ認められ始めていた。


◇


その時、東の端末が鳴った。


画面を確認する。


「……本部から?」


川出が聞く。


「CASHの今後について」


全員が東を見る。


ニシが聞いた。


「決まったのか?」


東は文章を読み、ため息をついた。


「引き続き検討中」


南浦が鼻を鳴らす。


「何だそりゃ」


「私も聞きたいわよ」


東が端末を閉じる。


CASHをどこに置くのか。


誰の指揮下にするのか。


どこまで独立性を認めるのか。


まだ結論は出ていない。


ただし、以前の上層部の直接指揮へそのまま戻れという命令も来ていなかった。


東は少しだけ肩の力を抜く。


「まあ、今すぐあの人たちの下へ戻れって言われなかっただけマシか」


誰も否定しなかった。


◇


「東さん」


川出が声をかける。


「もう一つあります」


「何?」


川出は端末を操作した。


表示されたのは、一連の強奪事件で奪われた物品の一覧。


そこには、確認済み、推定使用済み、用途不明と、それぞれ分類がつけられていた。


東が画面を見る。


「……残ってる」


「はい」


今回、怪人の能力として使用されたことが確認できた物と、まだ用途の分からない物。


すべてが一致しているわけではない。


シラメ博士が画面を覗き込んだ。


「まだあるね」


東が博士を見る。


「ってことは」


「今回の二体を作って終わりじゃないかもしれない」


部屋の空気が、また少し変わった。


何に使うのか。


何を作るのか。


すでに何かが作られているのか。


まだ何も分からない。


ただ一つ確かなのは、敵の手元には、まだ使われていない可能性のある材料が残っているということだった。


◇


夕方。


学校からの帰り道を、紀人とサクラが並んで歩いていた。


「明日、遅刻しないでよ」


「何でお前に言われなきゃいけないんだよ」


「今日もギリギリだったでしょ」


「間に合ったからセーフ」


「それをギリギリって言うんだけど」


「細かいなあ」


「普通だから」


紀人が少し笑った。


ついこの間まで、隣にいるサクラが生きているのかすら分からなかった。


今は普通に学校へ来て、普通に話し、普通に文句を言っている。


そして必要になれば、自分と同じように怪人と戦う。


敵は以前より強くなっている。


まだ分からないことも多い。


ジンのこと。


怪人たちの目的。


CASHのこれから。


何一つ、完全には終わっていない。


それでも、紀人は隣を歩くサクラを見る。


少なくとも、こちら側も昨日までと同じではない。


サクラがその視線に気づいた。


「何?」


「いや」


紀人は前を見る。


「何でもない」


二人は、そのまま帰り道を歩いていった。


◇


同じ頃。


誰もいなくなったCASHの部屋では、モニターだけが点いたままになっていた。


画面に表示されているのは、一連の強奪事件で奪われた物品の一覧。


確認済み。


推定使用済み。


そして。


用途不明。


まだ何に使われたのか分からない項目が、画面にはいくつも残されていた。

本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。

それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。

一つの作品だけでも楽しめる。

けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。

ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。

【人間×生成AIによる合作作品】

企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才

文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)

本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。

本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。

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