第六章 第14話 生きていた
第六章 第14話 生きていた
「……サクラ?」
紀人は、目の前に立つ女性を見たまま動けなかった。
見間違えるはずがない。
ついさっきまで自分と並んで戦っていた女性ヒーロー。その正体は、ずっと行方を気にしていた少女だった。
サクラは、そんな紀人を見て首を傾げる。
「何、その顔」
声まで同じ。
今度こそ、偽物ではない。
「いや……本当に、サクラ?」
「そうだけど」
あまりにも普通に返されて、紀人の方が言葉を失った。
「そうだけどって……お前、自分がどうなったか分かってんのかよ。俺、お前があの時吹っ飛ばされて、それからずっと――」
そこまで言って、言葉が止まる。
死んだとは聞いていない。死亡確認もされていなかった。
だからこそ、ずっと引っかかっていた。
どこかで生きているのかもしれない。
そう思う一方で、あの状況から本当に助かったのかという不安も消えなかった。
「……生きてたのかよ」
ようやく絞り出した言葉だった。
サクラは少しだけ表情を緩める。
「生きてるよ」
その一言で、ようやく紀人にも目の前の現実が少しずつ染み込んできた。
だが、何を言えばいいのかまでは分からなかった。
◇
少し離れた場所から声がした。
「キッド?」
東だった。
紀人の表情が変わる。
東とシラメ博士なら自分の正体を知っている。だが、その後ろには他のCASHメンバーもいる。
このまま姿を見られるわけにはいかない。
サクラもそれに気づいたらしい。
「行った方がいいんじゃない?」
「このまま行けるかよ」
「じゃあ、あとで」
「あとでって、どこに行くんだよ!」
「逃げないから」
「前も突然いなくなっただろ!」
言われたサクラが、ほんの少し黙る。
「……じゃあ、博士に聞いて」
「博士?」
紀人の表情が変わった。
「何でここでシラメ博士が出てくるんだよ」
サクラは答えなかった。
だが、その沈黙だけで十分だった。
紀人の中に、新しい疑問が一つ増えた。
◇
戦闘後の処理が一段落した頃。
人通りの少ない公園に、紀人、サクラ、東、そしてシラメ博士の四人が集まっていた。
東は手元の資料とサクラ本人の顔を何度も見比べている。
「……確認するけど、サクラさんで間違いないのよね?」
「はい」
「本人?」
「はい」
東はしばらく黙った。
そして、信じられないものを見るような目でサクラを見つめる。
「生きてたの……?」
サクラは少し困ったように頷いた。
「私たち、ずっとあなたの行方を捜してたのよ」
紀人が東を見る。
「東さんも知らなかったんですか?」
「知らないわよ」
即答だった。
「怪人体で発見された後、戦闘中に吹き飛ばされて、その後は所在不明。死亡確認もできてない。だから、ずっと追ってたの」
そこまで言った東の視線が、ゆっくりと隣へ移る。
シラメ博士は、いつものような顔で立っていた。
「博士」
「何?」
「まさかとは思うけど」
「うん」
「まだ何も聞いてない!」
「知ってたかどうかでしょ?」
東の眉がぴくりと動く。
「……知ってたの?」
「うん」
数秒の沈黙。
「うん、じゃないわよ!」
東の声が公園に響いた。
「私たちがどれだけ捜したと思ってるの!」
「ごめん」
「軽い!」
紀人も横からシラメ博士を見る。
「俺も聞いてませんけど」
「紀人君には言えなかったからね」
「何でですか!」
「いろいろ事情があったんだよ」
「便利ですね、その言葉!」
東と紀人の両方から責められ、シラメ博士は珍しく少し困った顔をした。
◇
「それで」
紀人が改めてサクラを見る。
「何があったんだ?」
サクラは少し考えてから答えた。
「私も、全部覚えてるわけじゃない」
「あの後のこと?」
「うん」
吹き飛ばされたところまでは覚えている。
だが、その先の記憶はほとんど残っていなかった。
途切れ途切れに聞こえた声。
眩しい光。
誰かが何かを話していたこと。
覚えているのは、それくらいだった。
そこから先は、シラメ博士が引き継いだ。
「かなり危ない状態だったんだよ」
紀人が博士を見る。
「危ないって……」
「そのまま普通に治療して、助かるような状態じゃなかった」
サクラは黙って聞いている。
「だから、生きるためには別の方法を取るしかなかった」
「別の方法?」
「君と同じだよ」
紀人の表情が変わった。
「……俺と?」
シラメ博士が頷く。
「完全に同じじゃないけどね」
紀人は、もう一度サクラを見る。
今度はさっきまでとは違う意味で。
「まさか……」
「そう」
シラメ博士が静かに答える。
「彼女も、もう普通の人間の身体じゃない」
改造人間。
その言葉を、誰もすぐには口にしなかった。
◇
しばらく黙っていた紀人が、やがてシラメ博士を見る。
「博士がやったんですか?」
「違うよ」
答えはすぐだった。
「僕は手伝っただけ」
「じゃあ、誰が?」
シラメ博士は答えない。
「博士」
「僕がしたのは、救命のための作業を手伝ったこと。それから、彼女が戦えるように専用の装備を作ったこと」
「だから、誰がサクラを助けたんですか?」
紀人は引かなかった。
シラメ博士は、そんな紀人をしばらく見つめる。
「君と同じだよ」
「……何が?」
「君が想像してる人」
紀人の動きが止まった。
自分の身体。
突然送られてきたベルト。
そして、それを自分へ託した人物。
思い浮かぶのは一人しかいない。
「……ジンさん?」
シラメ博士は、その名前を肯定しなかった。
だが、否定もしない。
ただ、静かに言った。
「君の想像通りだよ」
紀人は何も言えなくなった。
◇
「ちょっと待って」
東が割って入る。
「私にも分かるように話してくれる?」
紀人とシラメ博士が東を見る。
「紀人君のこともそうだけど、サクラさんのことまで私に隠してたわけ?」
「隠したというより――」
「隠してたの」
「……はい」
「そこだけ急に素直にならないで」
シラメ博士が黙る。
東は深くため息をついた。
「あとで博士には、ちゃんと説明してもらうから」
「全部は無理かな」
「できる範囲で全部!」
「はい」
そんな二人のやり取りを聞きながら、紀人は別のことを考えていた。
ジン。
もし本当に、サクラを助けたのがジンなら。
「……生きてる?」
小さく漏れた声に、誰も答えなかった。
◇
紀人は気持ちを切り替えるように、サクラを見る。
「でも、さっきの変身」
サクラの腰へ目を向ける。
「俺とは違うよな」
「違うよ」
答えたのはシラメ博士だった。
「博士が作ったんですか?」
「そっちはね」
シラメ博士が少しだけ得意そうな顔になる。
「キッドと同じビーストギアは、僕には作れなかった」
「作れなかった?」
「うん。あれは、そんな簡単に真似できるものじゃない。だから、別のものを作った」
サクラが腰へ手をやる。
そこには、彼女専用の変身用ベルトがある。
「彼女の身体に合わせて、一から組んだ変身システムだよ」
紀人が目を丸くした。
「じゃあ、あの姿になるためのベルトはちゃんとあるんですね」
「もちろん」
「俺と同じじゃないけど、ベルトで変身する」
「そういうこと」
紀人は納得したように頷いた。
◇
「それで、あの羽は?」
紀人が聞く。
「蝶」
シラメ博士が即答する。
「見れば分かります」
「じゃあ聞かないでよ」
「そういう意味じゃないです!」
東が額を押さえた。
「話が進まない……」
シラメ博士は少し笑ってから、改めて説明を続ける。
「あの姿の基本設計は、彼女が以前なっていたアリアを参考にしてる」
蜂。
蝶。
蟻。
かつて怪人だった時の特徴を、今度はサクラ自身が扱うための装備として再構築した。
「蝶の羽は出し入れできる。ずっと出してる必要はないからね」
「じゃあ、こっちは?」
紀人はサクラの右手を見る。
今は何もついていない。
だが、変身時にはスズメバチの毒針を思わせるアタッチメントが装着されていた。
「あれも僕が作った」
シラメ博士が言う。
そこで紀人が何かに気づいた。
「あ」
「何?」
「ミラーカメレオン」
さっきの戦闘を思い出す。
「途中から急に動きが鈍くなってましたよね。擬態もおかしくなってた」
「うん」
「……あれ?」
シラメ博士が頷く。
「毒だよ」
「やっぱり!」
東も、思わずサクラの右手へ目を向けた。
◇
「ただし、一発で倒せるような毒じゃない」
シラメ博士が人差し指を立てる。
「じゃあ、どういう仕組みなんですか?」
「当てれば当てるほど、少しずつ蓄積していく」
右手の毒針型アタッチメント。
拳を当てるたびに、少量ずつ相手へ毒が入っていく。
一発ではほとんど変化しない。
だが、二発、三発と打撃を重ねるごとに毒は蓄積し、徐々に身体の反応が鈍くなっていく。
動きが遅れ、能力の維持も難しくなる。
「だからミラーカメレオンは、途中から擬態を維持できなくなった」
紀人がサクラを見る。
「じゃあ、最初からずっと右で殴ってたのって……」
「そういうこと」
サクラが答えた。
「最初から狙ってたのか……」
紀人は感心したように呟く。
そして、ふと別のことに気づいた。
「毒針型ってことは、他にもあるんですか?」
博士が笑う。
「あるよ」
「何が?」
「アタッチメント」
紀人が身を乗り出す。
「どんなの?」
「いろいろ」
「だから、どんなのですか」
「秘密」
「何で!」
「全部先に知ったら面白くないでしょ」
「俺が楽しむための装備じゃないですよね?」
「まあね」
東がまた額を押さえる。
「博士……」
「でも、相手や状況によって付け替えられるようにはしてあるよ」
毒が有効な敵もいれば、別の攻撃方法が必要な敵もいる。
その時々に応じて、サクラの身体能力に合わせた装備へ交換できる。
「改造された身体だから、生身の人間には扱えない出力にも耐えられる」
紀人が頷いた。
CASHの装備とは違う。
自分のビーストギアとも違う。
サクラのためだけに作られた戦闘システムだった。
◇
紀人は少し黙ってから聞いた。
「でもさ」
サクラを見る。
「何で戦ってるんだ?」
「何でって?」
「せっかく助かったのに、また怪人と戦うなんて」
サクラはすぐには答えなかった。
代わりにシラメ博士が口を開く。
「本人の希望だよ」
紀人が見る。
「改造して助けることになった時、この子自身の希望も聞いた。生きられるなら、戦える身体にしてほしいって」
紀人の表情が変わる。
サクラがその続きを自分で話した。
「どうせこうなったなら、何もできないよりいいでしょ」
「でも」
「それに」
サクラが紀人を見る。
「キッドを助けられるくらいにはしてほしいって頼んだ」
紀人が止まる。
「……俺?」
「そう」
「何で?」
「借りがあるから」
「借り?」
「忘れたの?」
サクラが少しだけ笑う。
紀人は以前の戦いを思い出した。
「別に、借りなんか……」
「私が決めることだから」
「いや、そうだけど……」
サクラは、それ以上説明しようとはしなかった。
「まだ全部返してないし」
紀人は困ったように頭を掻いた。
◇
東は二人の話を聞き終えると、現実的な問題へ話を戻した。
「それで」
三人が東を見る。
「サクラさん。これから、どうするつもり?」
「どうするって?」
「あなたは今まで行方不明者だったの」
東は静かに説明する。
「私たちは、あなたの所在も生死も分からないまま捜査を続けてた。生きてると分かった以上、ずっとそのままにはできない」
サクラが黙る。
「それに、あの姿のこともある」
女性ヒーロー。
改造された身体。
専用の変身用ベルト。
それらをCASHの他のメンバーへどこまで明かすのかも、まだ何一つ決まっていない。
東はシラメ博士を見る。
「その辺も含めて」
「うん」
「博士」
「はい」
「今度は勝手に決めないで」
「はい」
「絶対よ」
「はい」
紀人が小さく笑う。
東がすぐに睨んだ。
「紀人君も他人事じゃないからね」
「俺も?」
「当たり前でしょ」
「……はい」
そのやり取りを見て、サクラが少し笑った。
◇
話が終わり、四人は公園を出た。
少し歩いたところで、紀人が立ち止まる。
「博士」
シラメ博士が振り返った。
「何?」
「さっきの話。サクラを助けた人です」
シラメ博士は黙った。
「本当に……俺が思ってる人なんですか?」
少しの沈黙。
だが、シラメ博士はそれ以上の答えを与えなかった。
「僕から言えるのは、さっきまで」
「……」
「本人に会えたら、自分で聞きなよ」
紀人は何も言わなかった。
シラメ博士は、そのまま先へ歩いていく。
紀人は博士の背中を見送り、それから夜空を見上げた。
ジン。
自分へベルトを渡した男。
今まで、どこにいるのかも、生きているのかさえ分からなかった。
だが。
もし本当に、サクラを助けたのが――。
「……生きてるのかよ、ジンさん」
答えはない。
それでも。
今まで遠くにしか感じられなかったジンの存在が、以前よりずっと近くにあるように思えた。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




