第六章 第13話 本物
第六章 第13話 本物
「さっきの話、あとでちゃんと聞くからな」
キッドは、強化モズキャッチャーと強化ミラーカメレオンから目を離さないまま言った。
隣に立つ女性ヒーローが、わずかに視線を向ける。
「生き残れたらな」
「縁起でもないこと言うなよ」
返事を待つ間もなく、二体の怪人が動いた。
モズキャッチャーから低い音が響き、強烈な吸引が始まる。同時に、ミラーカメレオンが女性ヒーローへ飛び込んだ。
「来るぞ!」
キッドも構える。
だが、すぐに思い直した。
このままでは駄目だ。
外装が剥がれたモズキャッチャーの本体には、ほとんどダメージが入っていない。それどころか身体が軽くなった分、先ほどまでより速くなっている。
吸引への対応方法は少しずつ分かってきた。
それでも、今のままでは決定力が足りない。
キッドはベルトへ手を伸ばした。
「だったら――こっちも変える!」
メモリーを取り出す。
まずは身体。
「ゾウ!」
メモリーを装着すると、全身へ力が巡り、身体の芯が一段重くなったような感覚が走る。
次に腕。
「カンガルー!」
そして脚。
「ヒクイドリ!」
三つの力が、キッドの身体へ組み込まれた。
モズキャッチャーの吸引が強まる。
これまでなら、その瞬間に重心を前へ持っていかれていた。
だが。
「……おっ!」
足が地面を捉える。
身体は引かれている。
それでも、一気には崩れない。
キッドの表情が変わった。
「これなら……!」
完全に吸引を止められるわけではない。少しずつ身体は前へ滑っていく。
それでも、今までとはまるで違う。
ゾウの力によって土台が安定し、自分で次の動きを選べる。
◇
女性ヒーローは、ミラーカメレオンの攻撃をかわしながら背中の蝶の羽を展開した。
身体がふわりと浮く。
そのまま上から角度を変え、ミラーカメレオンの死角へ回り込む。
ミラーカメレオンもすぐに振り向いた。
拳。
女性ヒーローがかわす。
反撃。
右拳がミラーカメレオンの肩へ入った。
一発。
まだ、ほとんど変化はない。
ミラーカメレオンが反撃する。
女性ヒーローは羽を畳み、地面へ降りながら攻撃を避ける。
再び踏み込む。
右拳。
二発目。
ミラーカメレオンもすぐに返してくる。
女性ヒーローが腕で受け、衝撃に身体を後ろへ流された。
簡単な相手ではない。
それでも、女性ヒーローはまた距離を詰める。
今度も右手。
三発目。
そして、すぐに離れる。
一撃で倒そうとしているわけではない。
何度も。
何度も。
確実に右拳を当てていく。
◇
「来い!」
キッドがモズキャッチャーへ向かって構えた。
低い音。
吸引。
ゾウの力で踏ん張る。
足が地面を滑る。
だが、姿勢は崩れない。
「まだだ……!」
モズキャッチャーが捕獲腕を伸ばす。
その瞬間、キッドは踏ん張るのをやめた。
「今!」
自分から前へ出る。
吸引を利用して、一気に加速。
モズキャッチャーの捕獲腕が迫る。
キッドは真正面には残らず、身体を沈めて腕の下へ潜った。
横へ抜ける。
一歩。
そこで足を止めた。
自分の間合い。
拳を握る。
「はあっ!」
カンガルーの力を乗せた拳が、モズキャッチャーの胴体へ突き刺さった。
鈍い衝撃。
モズキャッチャーの身体が大きく揺れる。
キッド自身が驚いた。
今度は違う。
外装を壊した時とは違う。
本体が、確かによろめいた。
「入った!」
モズキャッチャーが反撃する。
キッドはかわしながら身体を回す。
今度は脚。
「こいつも!」
ヒクイドリの力を乗せた蹴りが、モズキャッチャーの脇腹へ叩き込まれた。
強烈な一撃に、その身体が横へ吹き飛ぶ。
「よし!」
ようやく。
本体へダメージが通った。
◇
その頃。
女性ヒーローの前では、ミラーカメレオンが再び姿を変えていた。
アリア。
次の瞬間には別の人間。
さらに別の姿。
形を変えながら、間合いを狂わせようとする。
だが、女性ヒーローは止まらない。
「見た目を変えたくらいで」
一歩踏み込み、右拳を叩き込む。
また一発。
ミラーカメレオンが後退した。
反撃。
女性ヒーローがかわす。
右。
もう一発。
その時。
ミラーカメレオンの動きが、わずかに遅れた。
女性ヒーローの拳を避けようとする。
だが、間に合わない。
右拳が頬へ入る。
「……?」
ミラーカメレオン自身も、何かを感じたように身体を揺らした。
もう一度擬態する。
アリアの姿。
だが、一瞬だけ輪郭が乱れる。
女性ヒーローは何も言わず、さらに右拳を叩き込んだ。
◇
少し離れた場所。
東たちも、ようやく戦闘地点へ到着した。
最初に見えたのはキッド。
そして、見覚えのない女性ヒーロー。
その向こうには、モズキャッチャーとミラーカメレオン。
東が足を止める。
「……何、この状況」
川出がミラーカメレオンを見る。
「またあいつです!」
「もう一体は?」
「分かりません。でも、キッドと戦ってます!」
東は戦況を確認する。
キッドたちは押されてはいない。
むしろ、互角以上に戦えている。
周囲には、まだ避難途中の一般人も残っていた。
壊れた建物。
放置された車両。
怪人が逃げれば、さらに被害が広がる。
東はすぐに判断した。
「キッドたちに任せる!」
ニシが見る。
「いいのか?」
「今はね!」
東が周囲を指す。
「私たちは一般人の避難! 逃走経路も塞ぐ! 二体をここから出さないで!」
CASHが散開した。
◇
モズキャッチャーの吸引がさらに強まった。
「ぐっ……!」
ゾウの力を使っていても、キッドの身体が少しずつ引かれていく。
足元が削れる。
「さすがに……強いな……!」
それでも、キッドは笑った。
「でも、もう分かってる!」
吸引へ逆らい続ける必要はない。
途中で力を抜く。
前へ。
一気に加速する。
モズキャッチャーも、それを読んでいた。
捕獲腕が、キッドの逃げる方向へ伸びる。
「読まれてる!」
横へ抜けようとした先に腕が来る。
「くそっ!」
ぎりぎりで身体を捻る。
それでも肩を掠めた。
体勢が崩れる。
そこへモズキャッチャーが迫る。
「しまっ――!」
その瞬間、横から女性ヒーローが飛び込んだ。
蹴り。
モズキャッチャーの身体が大きくずれる。
キッドが距離を取る。
「助かった!」
「同じ手を何度も使うな」
「今覚えたばっかりなんだけど!」
女性ヒーローはもう答えない。
すぐにミラーカメレオンへ戻る。
キッドもモズキャッチャーへ向き直った。
◇
ミラーカメレオンの動きは、明らかに変わり始めていた。
最初は、女性ヒーローの攻撃を余裕を持ってかわしていた。
今は一歩遅い。
拳を避けきれず、腕で受ける。
次の一撃は、受けることすら間に合わない。
右拳が胸へ入る。
ミラーカメレオンが後退する。
擬態。
アリア。
だが、身体の一部が元の姿へ戻る。
すぐに修正する。
また擬態。
今度は別の姿。
それも、一瞬乱れる。
キッドが横目で見る。
「……あいつ」
女性ヒーローの右拳が、また入った。
ミラーカメレオンの足がわずかにもつれる。
「さっきより遅くなってないか?」
女性ヒーローは答えない。
「お前、何かしてる?」
返事はない。
もう一度。
右拳。
ミラーカメレオンの身体が揺れる。
「絶対何かしてるだろ!」
「自分の相手を見ろ」
「そればっかりだな!」
キッドが振り向く。
モズキャッチャーが目の前まで迫っていた。
「うわっ!」
◇
戦いは続く。
キッドはゾウの力で吸引に耐え、必要な瞬間だけ自分から前へ出る。
相手の捕獲腕をかわし、間合いを作る。
カンガルーの拳。
モズキャッチャー本体が揺れる。
ヒクイドリの蹴り。
さらに後退する。
もう、さっきのように一方的ではない。
一方、女性ヒーローも右拳を当て続けていた。
一発。
また一発。
ミラーカメレオンは確実に鈍くなっていく。
羽を広げた女性ヒーローが上へ。
ミラーカメレオンが目で追う。
反応が遅い。
女性ヒーローが一気に降下する。
右拳。
直撃。
ミラーカメレオンが地面へ膝をついた。
立とうとする。
だが、足が思うように動かない。
擬態も安定しない。
アリアの姿になりかける。
崩れる。
別の姿。
また崩れる。
最後には、元の怪人体へ戻った。
女性ヒーローはそれを見下ろす。
何も説明しない。
ただ、もう一度右拳を握った。
◇
ミラーカメレオンが最後の力で飛び込む。
女性ヒーローがかわす。
拳。
右。
一撃。
ミラーカメレオンの身体が大きく揺れる。
そのまま倒れそうになる。
だが、まだ動く。
女性ヒーローが追おうとした瞬間、モズキャッチャーが横から吸引を放った。
女性ヒーローの身体が引かれる。
「っ!」
ミラーカメレオンが、その隙を狙う。
だが。
「させるか!」
キッドが間へ入った。
カンガルーの拳。
ミラーカメレオンを弾き飛ばす。
女性ヒーローがキッドを見る。
「そっちは?」
「任せろ!」
「言ったな」
女性ヒーローはすぐにミラーカメレオンを追う。
キッドはモズキャッチャーへ。
もう、完全に一対一ではない。
必要な時には互いの相手へ手を出し、その隙を作る。
二人の連携が、少しずつ形になっていた。
◇
女性ヒーローが再びミラーカメレオンへ追いつく。
相手は明らかに鈍っている。
反撃。
遅い。
女性ヒーローが避ける。
右拳。
さらに一発。
ミラーカメレオンの身体が大きくよろめいた。
女性ヒーローが踏み込む。
最後の一撃。
強烈な右拳が真正面から叩き込まれた。
ミラーカメレオンの身体が吹き飛ぶ。
地面へ落ちる。
一度、身体が動く。
だが、もう立ち上がらない。
キッドが横目で確認する。
「倒した……?」
女性ヒーローは答えず、モズキャッチャーへ向き直った。
「次」
「ほんと淡々としてるな……」
これで二対一。
◇
モズキャッチャーが大きく身体を反らした。
低い音が、これまで以上に響く。
「何だ……?」
吸入口が大きく開く。
次の瞬間、強烈な吸引。
「うわっ!」
キッドの身体が一気に前へ引かれる。
女性ヒーローも同じ。
周囲の瓦礫まで動き始めた。
看板。
壊れた資材。
細かな破片。
すべてがモズキャッチャーへ向かっていく。
「離れて!」
東の声。
CASHが一般人をさらに遠ざける。
キッドはゾウの力で足を踏ん張る。
だが。
「止まらねえ!」
少しずつ、確実に吸われていく。
隣。
女性ヒーローを見る。
その背中で、蝶の羽が開いた。
「合わせろ」
「何を!」
「タイミングだ」
「だから説明が足りないって!」
女性ヒーローは答えない。
そのまま吸引へ乗った。
「おい!」
羽を使い、さらに加速する。
一直線にモズキャッチャーへ向かう。
当然、捕獲腕が女性ヒーローへ伸びた。
「……そういうことか!」
キッドも踏ん張るのをやめる。
吸引へ乗る。
一気に前へ。
モズキャッチャーのもう一方の腕が、キッドへ向く。
二人同時。
モズキャッチャーは、どちらも捕まえようとする。
女性ヒーローが空中で身体をひねった。
蹴り。
捕獲腕を弾き飛ばす。
キッドの前から障害が消えた。
「今だ!」
だが、近すぎる。
このまま殴っても、また威力が乗らない。
そこで。
キッドが足を止める。
ゾウの力を宿した身体が地面を捉えた。
吸引に抗う。
ほんの一瞬。
止まった。
その一瞬で、一歩だけ自分から下がる。
拳が最も力を出せる距離。
「ここだ!」
カンガルーの拳。
全身の力を乗せ、モズキャッチャー本体へ叩き込んだ。
強烈な衝撃。
モズキャッチャーの身体が大きく仰け反る。
「まだ!」
キッドは身体を回す。
脚。
ヒクイドリ。
「これで――!」
強烈な蹴りが、モズキャッチャーへ直撃した。
その身体が大きく吹き飛ぶ。
地面へ叩きつけられ、そのまま滑っていく。
やがて止まった。
吸引音が消える。
◇
静かになった。
キッドは、しばらく構えを解かなかった。
モズキャッチャーを見る。
動かない。
強化ミラーカメレオンも、立ち上がらない。
「……終わった?」
女性ヒーローが羽を畳む。
「らしいな」
「らしいなって……」
キッドが大きく息を吐き、ようやく拳を下ろした。
少し離れた場所では、CASHがまだ警戒を続けている。
東たちが周囲を確認しているのを見て、キッドは女性ヒーローへ向き直った。
「で」
「何だ」
「今度こそ聞かせてもらうからな」
「何を」
「全部だよ!」
キッドは倒れたミラーカメレオンを指した。
「何であいつがサクラじゃないって、あんなに早く分かった?」
女性ヒーローは答えない。
「それに、お前は何者なんだよ。前にも突然出てきたし、今日だってそうだ」
女性ヒーローは、少しだけCASHの方を見る。
「ここでは話せない」
「じゃあ場所変えるぞ」
「……」
「今度は逃がさないからな」
キッドは周囲を確認した。
CASHのメンバーに変身解除を見られるわけにはいかない。
物陰へ移動する。
女性ヒーローも、その後をついてきた。
「何でついてくるんだよ」
「聞きたいんだろ」
「そうだけど」
人気のない場所まで来る。
キッドが振り返った。
「じゃあ、先に俺が――」
変身を解除する。
紀人の姿へ戻る。
その目の前で、女性ヒーローも変身を解いた。
輪郭が変わる。
装甲が消える。
蝶の羽も、右手のアタッチメントも消えていく。
そして。
そこに立っていた女性を見て、紀人の動きが止まった。
「……え?」
理解できない。
何度も、その顔を見る。
見間違えるはずがない。
「……サクラ?」
今度は偽物ではない。
目の前にいるのは。
本物のサクラだった。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




