第六章 第10話 味方
第六章 第10話 味方
キッドの身体が、また前へ引かれた。
「くっ……!」
踏ん張ろうとするが、足の裏が地面を滑る。
強化されたモズキャッチャーの吸入口から響く低い音。
その音が聞こえた時には、もう遅い。
間合いを取ろうとしていたはずなのに、強制的に距離を縮められる。
キッドは拳を放った。
当たる。
だが、浅い。
腕を伸ばしきる前に身体そのものを引き込まれ、腰も回らず、肩も入らない。
拳は確かにモズキャッチャーへ触れているのに、本来の威力が出ない。
「これなら!」
キッドは片足を上げて蹴りを放つ。
しかし、また吸引。
「なっ――!」
狙っていた距離より、半歩近い。
足は当たった。
だが、最も威力が乗る位置ではない。
鈍い衝撃。
モズキャッチャーの身体は、ほとんど揺れなかった。
「くそっ!」
キッドが下がろうとする。
その前に、モズキャッチャーの腕が伸びた。
「またか!」
身体を掴まれる。
逃れようとするが、近すぎる。
拳を振っても腕を十分に伸ばせず、蹴ろうとしても足を振る空間がない。
さらに吸引され、重心まで前へ崩される。
「離せ!」
モズキャッチャーは、そのままキッドを持ち上げた。
「うわっ!」
大きく振り回し、地面へ叩きつける。
「ぐあっ!」
背中から落ち、息が詰まる。
それでもキッドは転がり、すぐに起き上がった。
構えながら、ようやく理解する。
「近づかれるのが問題なんじゃない……」
普通なら、近距離は自分の領域だ。
拳。
蹴り。
空手を主体として戦ってきた。
だが、空手にも打撃にも、最も威力が出る距離がある。
「近すぎるんだ……」
モズキャッチャーが吸う。
キッドは足を踏ん張る。
遠ければ吸われる。
近づけば打てない。
さらに近くなれば、本来なら投げる、組む、相手の身体を使って崩す。
そんな戦い方もある。
だが、紀人はそれを実戦で使ってこなかった。
「こういう距離の戦い……やってねえぞ」
額から汗が流れた。
◇
少し離れた場所。
CASHもまた、シロアリ怪人たちと交戦していた。
「来ます!」
川出の声。
低い音。
掃除機機能を持つシロアリ怪人の吸入口が開く。
「正面を外して!」
東の指示と同時に、全員が動いた。
前回、怪人特別対策班を壊滅させた能力。
だが、CASHにとってはもう初見ではない。
南浦が距離を取り、射線を確保する。
吸引が始まった時には、すでに真正面から外れていた。
発砲。
一発。
シロアリ怪人が倒れる。
別の一体。
ニシが横へ回る。
北山が前方で注意を引き、川出が位置を変えながら援護する。
東はレイピアを構えた。
また低い音。
「来る!」
吸引。
「分かってりゃ、どうってことねえ!」
南浦が撃つ。
一体。
また一体。
確実に数を減らしていく。
だが、多い。
東は遠くから響く別の戦闘音へ視線を向けた。
「キッド……」
援護に行きたい。
しかし、今こちらを離れれば、このシロアリたちが街へ流れる。
「こっちはこっちで片づけるしかないわね!」
東は前を向いた。
「急ぐわよ!」
◇
キッドは再び、モズキャッチャーの腕をかわした。
「はっ!」
横へ回り、距離を作る。
今度こそ拳を打ち込もうとする。
だが。
低い音。
「また!」
身体が引かれる。
一歩。
二歩。
自分が踏み込みたい方向ではない。
無理やり前へ引かれ、体勢が崩れたところへ捕獲腕が伸びる。
「しまっ――」
掴まれた。
今度は、そのまま身体を持ち上げられる。
「ぐっ!」
キッドが腕を叩く。
外れない。
モズキャッチャーの力は、以前より明らかに強くなっている。
「こいつ……!」
吸引。
捕獲。
二つが繋がっている。
逃げれば吸う。
吸えば近づく。
近づけば掴む。
掴めば逃がさない。
モズキャッチャーの戦い方そのものが、完成していた。
「放せ!」
キッドが必死に身体を捻る。
だが、モズキャッチャーは腕を振り上げる。
また地面へ叩きつけるつもりだ。
その時。
横から何かが飛び込んできた。
強烈な一撃。
モズキャッチャーの身体が大きく吹き飛ぶ。
「……え?」
キッドの身体が地面へ落ちる。
咳き込みながら顔を上げた。
一体の怪人が、そこに立っていた。
蜂。
蝶。
蟻。
その姿を、キッドは知っている。
「……アリア?」
怪人は何も言わない。
ただ、モズキャッチャーの方を向いていた。
キッドの目が大きくなる。
「サクラ……?」
返事はない。
アリアは動かない。
だが、敵意もこちらには向いていない。
モズキャッチャーが起き上がった。
アリアが構える。
次の瞬間、飛び込んだ。
◇
アリアの攻撃を、モズキャッチャーが受け止める。
その瞬間。
吸引。
アリアの身体も前へ引かれる。
だが、キッドの時とは違う。
アリアはその勢いを利用するように、一気に距離を詰めた。
モズキャッチャーが捕獲腕を伸ばす。
アリアはかわし、横へ回ってそのまま一撃を叩き込む。
モズキャッチャーの身体が揺れた。
キッドは、その光景を見ていた。
「……本当に」
立ち上がる。
「生きてたのか?」
アリアは答えない。
ただ、モズキャッチャーと戦い続ける。
それだけで、キッドには十分だった。
「よし」
構える。
「話は後だ!」
キッドも走った。
◇
モズキャッチャーがアリアへ向かって吸引する。
その隙に、キッドが横から間合いへ入った。
今度は吸われていない。
自分で作った距離。
自分で踏み込める。
「はっ!」
拳。
腰が回る。
肩が入る。
今度は深い。
衝撃。
モズキャッチャーの身体が大きく揺れた。
「入った!」
キッドの表情が変わる。
一人では作れなかった適切な間合い。
それが、アリアがいることで作れる。
モズキャッチャーがキッドへ向く。
吸入口。
低い音。
だが、吸引が始まる前にアリアが横から攻撃する。
モズキャッチャーの身体がずれ、吸引方向も外れた。
「今だ!」
キッドが蹴る。
今度は、最も威力が乗る位置。
強烈な蹴りが、モズキャッチャーへ叩き込まれた。
大きく後退する。
「効いてる!」
キッドが笑う。
アリアを見る。
「サクラ!」
アリアが一瞬だけキッドを見る。
それだけ。
何も言わない。
だが、キッドの表情はさらに明るくなった。
「やっぱり……」
二人は再び、同時にモズキャッチャーへ向かう。
◇
アリアが前へ出る。
キッドが横へ回る。
モズキャッチャーが吸引すれば、アリアが崩す。
捕獲腕がアリアへ向けば、キッドが打つ。
モズキャッチャーがキッドへ意識を向ければ、アリアが攻撃する。
言葉はない。
それでも、動きが噛み合っていく。
「すげえ……」
キッド自身が驚いていた。
アリアが、自分の動きを分かっている。
キッドが距離を作りたい時に前へ出る。
キッドが攻撃へ移りたい時に、モズキャッチャーの注意を引く。
まるで、こちらの戦い方を知っているように。
「サクラ……」
キッドは、ますます疑わなくなっていった。
◇
モズキャッチャーの装甲が、少しずつ壊れていく。
吸引機能も、先ほどより安定しない。
低い音。
吸入口が開く。
だが、途中で止まる。
「弱ってる!」
キッドが踏み込む。
拳。
蹴り。
アリアも続く。
モズキャッチャーが後退する。
「もう少し!」
一度倒した相手。
強くなって戻ってきた。
だが、今は一人ではない。
「これならいける!」
アリアを見る。
怪人は黙ったまま、モズキャッチャーへ向いている。
「サクラ!」
キッドが笑う。
「一気に決めよう!」
返事はない。
それでも、アリアは前へ出た。
◇
モズキャッチャーが膝をついた。
装甲も大きく壊れている。
吸入口からは、不安定な音。
もう、最初の勢いはない。
キッドが息を整える。
「これで――」
踏み込む。
最後の一撃。
その瞬間。
背後から衝撃。
「ぐあっ!」
キッドの身体が吹き飛んだ。
地面を転がる。
一度。
二度。
ようやく止まる。
「……何?」
何が起きたのか分からない。
モズキャッチャーは前にいる。
なら、今の攻撃は後ろから。
キッドがゆっくりと顔を上げた。
そこに、アリアが立っていた。
「……え?」
アリアは何も言わない。
モズキャッチャーとキッドの間に立つ。
さっきまで共に戦っていた、その怪人が。
今度はキッドへ向かって構えている。
「サクラ……?」
返事はない。
アリアがキッドを見る。
そして、その隣。
傷ついたモズキャッチャーが、ゆっくりと立ち上がる。
二体が並ぶ。
二体とも、キッドへ向く。
「……何で?」
キッドには理解できなかった。
アリアは最後まで、一言も答えなかった。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




