第六章 第9話 もう一度
第六章 第9話 もう一度
本部との会談から戻った東は、CASHの拠点に全員を集めていた。
机を囲むのは、北山、ニシ、南浦、川出、そしてシラメ博士。
東は全員の顔を見渡してから口を開いた。
「まず、本部との話だけど。CASHを今の本部の直接指揮から外すように要求したわ」
ニシが眉を上げる。
「通ったのか?」
「まだ。上の判断待ち」
南浦が鼻を鳴らした。
「向こうが素直に通すわけねえわな」
「でしょうね」
東も否定しない。
「でも、今回の作戦については全部上に報告する。私たちに送られてきた場所と、実際の作戦地点が違ったことも含めて」
北山が腕を組む。
「じゃあ、それまでは?」
「CASHは止めない」
東は即答した。
「怪人が待ってくれるわけじゃないもの」
本部との問題は終わっていない。
だが、それとは別に。
こちらも、まだ終わっていなかった。
◇
川出が机の上へ資料を並べる。
スピーカー。
鏡。
加湿器。
UFOキャッチャー。
掃除機。
「それなんですが」
東が見る。
「何?」
「止まってます」
「止まってる?」
「強奪事件です」
全員の視線が資料へ集まった。
あれほど立て続けに発生していた、特定の物だけを大量に奪う不可解な強奪事件。
それが、怪人特別対策班の壊滅事件以降、一件も起きていない。
ニシが言う。
「警察が警戒してるからじゃねえのか?」
「その可能性もあります」
川出は答える。
「でも、今までの犯人たちが、それだけで全部止めるとも思えません」
シラメ博士が資料を見ながら言った。
「集め終わったんじゃない?」
部屋が静かになる。
東が博士を見る。
「……集め終わった?」
「うん。欲しい物が揃ったから、もう盗む必要がない」
北山が顔をしかめる。
「じゃあ、次は」
シラメ博士は静かに答えた。
「使うんじゃないかな」
空気が変わった。
今までは、集める段階だった。
なら。
次に来るのは、集めたものを使う段階。
◇
その日の夕方。
紀人は道場にいた。
「もう一本!」
北山の声に、紀人が踏み込む。
拳。
北山が受ける。
すぐに返す。
紀人はそれをかわし、距離を取って再び構えた。
「集中しろ」
「してますよ」
「今、別のこと考えてただろ」
「……ちょっとだけ」
「それを集中してないって言うんだよ」
紀人は苦笑した。
だが、頭から離れないものがある。
ニュースで報じられた大規模銃乱射テロ。
そして、その映像の端に映っていたCASHの車両。
稽古を終え、紀人がタオルで汗を拭きながら聞く。
「北山さん」
「何だ?」
「この前のニュース」
北山の手が、ほんの少し止まった。
「銃乱射のやつです」
「ああ」
「大変でしたね」
「……そうだな」
短い。
紀人は北山を見る。
「北山さんも行ってたんですか?」
北山も紀人を見る。
少しの間。
「何でそう思う」
「いや……何となく」
本当は、CASHの車両を見たから。
だが、そこまでは言わない。
北山はタオルを肩へかけた。
「ニュースで言ってる通りならな」
紀人の表情が変わる。
「……違うんですか?」
北山は答えない。
「北山さん?」
「お前は首突っ込むな」
「でも――」
「紀人」
少し強い声。
紀人は黙る。
北山は、それ以上何も言わなかった。
だが、その態度だけで十分だった。
ニュースで報道されたものと、実際に起きたことは違う。
◇
数日後。
街中。
一人の男が歩いていた。
ごく普通の服。
ごく普通の顔。
周囲の人間は、誰も気に留めない。
男が足を止める。
近くを歩いていた女性のバッグが、突然大きく揺れた。
「え?」
女性が振り返る。
バッグが引っ張られる。
「何?」
両手で掴む。
だが、力は強くなる。
「ちょ、ちょっと!」
バッグが手から抜けた。
宙を滑るように男の方へ飛んでいき、そのまま男の手に収まる。
「何するんですか!」
女性が声を上げる。
周囲の人々も振り返った。
男は答えない。
次は、道路脇に置かれていた看板が動き出した。
地面を擦りながら、男の方へ引き寄せられていく。
「え?」
誰かが声を漏らす。
さらに、停められていた自転車まで倒れ、そのまま引きずられ始めた。
人々が距離を取る。
「何だ、これ……」
その時。
別の男が突然、前へよろめいた。
「うわっ!」
身体そのものが引っ張られている。
「ちょ、待っ――!」
周囲の人間が腕を掴む。
だが、力は止まらない。
男の方へ、少しずつ引き寄せられていく。
◇
通報を受けたCASHが現場へ向かう。
「吸引?」
東が聞く。
川出が端末を確認する。
「目撃者の話だけなら、そう見えます」
南浦が言う。
「また掃除機か?」
シラメ博士は首を傾げた。
「どうだろう」
「違うの?」
「掃除機の時とは、ちょっと違う気がする」
東が見る。
「何が?」
シラメ博士は目撃映像を見つめる。
バッグ。
看板。
自転車。
そして、人間。
「吸ってるっていうより、狙った物を捕まえてる感じがする」
東の表情が変わる。
「捕まえる……」
川出も気づく。
「UFOキャッチャー?」
「かもしれないね」
掃除機。
UFOキャッチャー。
今まで別々に集められていたものが、一つの能力として重なり始めている。
◇
CASHが到着した時には、男はすでに移動を始めていた。
「いました!」
川出が指す。
人混みの向こう。
男が走る。
「追います!」
川出が先行する。
路地へ入り、角を曲がる。
男の姿。
見失わない。
「止まれ!」
男は振り返らない。
さらに奥へ。
人気の少ない場所へ入っていく。
川出も追う。
だが、突然。
男の身体が不自然な速度で前へ移動した。
「何だ?」
まるで何かに引っ張られたように、一気に距離を離される。
川出が足を止める。
「逃げるためにも使えるのか……」
吸引。
捕獲。
その力を、自分自身の移動にも利用している。
◇
その頃。
紀人にも東から連絡が入っていた。
パンさんに気づかれないよう店を出る。
人気のない場所まで移動し、端末を見る。
「捕まえる能力……?」
嫌なものが頭に浮かぶ。
UFOキャッチャー。
そして、一体の怪人。
「まさか……」
紀人は走り出した。
◇
川出が追跡を続ける。
逃げた男は、倉庫が並ぶ一角へ入った。
「待て!」
川出も飛び込む。
男が止まり、ようやく振り返る。
「……」
「逃げても無駄です」
返事はない。
男の身体が、ゆっくりと変わり始める。
人間の輪郭が崩れ、その下から別の姿が現れた。
川出が目を見開く。
「怪人……!」
だが、見覚えがない。
少なくとも、川出にはその怪人が何者なのか分からなかった。
◇
少し遅れて、紀人が到着する。
川出たちとは別方向から。
倉庫の影。
怪人の姿が見えた。
紀人の足が止まる。
「……嘘だろ」
知っている。
あの形。
あの腕。
以前、戦った。
ただし、同じではない。
身体は以前より大きく。
装甲も厚い。
腕の捕獲機構も、明らかに強化されている。
そして、身体の一部には前にはなかった大きな吸入口。
紀人は呟いた。
「……モズキャッチャー」
怪人が、ゆっくりと紀人の方を向いた。
◇
「配信開始」
ベルトが起動する。
「いいねよろしく」
紀人の姿が変わる。
キッド。
以前、一度倒した相手。
なら、戦い方は分かっている。
キッドが構える。
「またお前か」
モズキャッチャーが動いた。
キッドも踏み込む。
間合いへ入り、拳を放つ。
その瞬間。
低い音。
「え?」
身体が前へ引かれた。
重心が崩れる。
拳は当たった。
だが、浅い。
「何だ?」
モズキャッチャーがさらに吸う。
キッドの身体が、強制的に前へ引き込まれる。
「くっ!」
近い。
近すぎる。
キッドが蹴る。
本来なら、最も威力が乗る距離。
だが、蹴りが届くより先に身体を引き込まれた。
足は当たる。
しかし、ミートする位置がずれる。
「効いてない……?」
次の瞬間。
モズキャッチャーの腕が、キッドを捕らえた。
「なっ!」
締め上げられる。
離れようとする。
だが、吸われる。
距離を取れない。
拳を振るう。
近すぎて腕が伸びない。
腰も回らない。
蹴ろうとしても、重心が崩れている。
「くそっ!」
空手。
紀人がずっと使ってきた戦い方。
拳。
蹴り。
間合い。
重心。
踏み込み。
その全部を、吸引が狂わせる。
近づけばいいわけじゃない。
近すぎる。
キッドには、この距離で使える投げ技も組み技も、ほとんどない。
モズキャッチャーが、捕らえたキッドを持ち上げる。
そして、地面へ叩きつけた。
「ぐあっ!」
キッドが転がる。
すぐに起き上がる。
だが、表情が変わっていた。
以前、倒した相手。
そのはずだった。
モズキャッチャーの吸入口から、再び低い音が響く。
キッドは構える。
しかし、さっきまでとは違う。
「……前と」
吸引。
身体が前へ引かれる。
「全然違うじゃねえか……!」
強化されたモズキャッチャーが、再びキッドを自分の間合いへ引きずり込んだ。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




