第六章 第6話 間に合わなかった
第六章 第6話 間に合わなかった
銃声が途切れない。
「撃て!」
怪人特別対策班の隊員たちが一斉に引き金を引いた。
銃弾がシロアリ怪人へ集中する。
一発。
身体が大きく削れる。
だが、止まらない。
二発目。
それでも前へ進んでくる。
「まだ来るぞ!」
三発目。
身体が揺れる。
それでも倒れない。
「もう一発!」
四発目。
ようやく、シロアリ怪人が地面へ倒れた。
「倒した!」
隊員の一人が叫ぶ。
「いけるぞ! こいつら、倒せる!」
確かに倒せる。
新たに支給された武器は、通常の警察装備とは比較にならない威力を持っていた。
シロアリ怪人にも確実にダメージを与えられる。
だが、一体を倒すまでに時間がかかる。
「前!」
別の隊員が叫んだ。
振り向けば、別のシロアリ怪人がすぐ目の前まで迫っている。
「撃て!」
一発。
二発。
それでも止まらない。
「何で怯まないんだよ!」
シロアリ怪人には、痛みで足を止めるという反応そのものがない。
身体を壊されても、動ける限り前へ進んでくる。
◇
低い音が響いた。
「来るぞ!」
掃除機のような吸入口を持つシロアリ怪人。
その身体の一部が大きく開く。
次の瞬間。
周囲の空気が一気に引かれた。
「うわっ!」
隊員たちの身体が前へ持っていかれる。
踏ん張る。
だが、銃口がずれる。
「撃て!」
発砲。
一発は命中。
二発目は外れた。
「くそっ!」
もう一度狙う。
その間にも怪人は近づいてくる。
三発、四発。
続けて当てなければ倒しきれない。
しかし、吸引されながら正確に撃ち続けることは難しい。
一人の隊員が足を滑らせた。
「うわあっ!」
身体が怪人へ向かって引きずられる。
隣の隊員が腕を掴んだ。
「捕まれ!」
「離すな!」
二人が必死に踏ん張る。
その横から、別のシロアリ怪人が迫る。
「横!」
振り向く。
撃つ。
だが、遅い。
シロアリ怪人の一撃。
二人まとめて地面へ転がった。
◇
「射線を維持しろ!」
現場責任者が叫ぶ。
「距離を取れ! 囲まれるな!」
隊員たちは必死に立て直そうとする。
その判断は間違っていない。
だが、掃除機機能を持つ個体が再び吸引を始める。
隊列が乱れる。
「撃て!」
高火力の銃弾が放たれた。
しかし、吸引によって銃口がずれた。
弾丸はシロアリ怪人の横を抜け、その先に停められていた車両へ命中する。
轟音。
車体が大きく壊れた。
「撃つな!」
現場責任者が叫ぶ。
「周囲を確認してから撃て!」
「でも、撃たなきゃ近づかれます!」
別の方向から、また発砲。
今度は建物へ。
壁が崩れ、ガラスが砕ける。
そして飛び散った破片が、掃除機機能を持つシロアリ怪人へ吸い寄せられた。
「伏せろ!」
無数の破片が宙を飛ぶ。
怪人へ向かって吸われているはずなのに、その途中にいる人間にとっては、それ自体が凶器だった。
「うわああっ!」
隊員が倒れる。
さらに。
「一般人だ!」
まだ避難しきれていなかった人間がいる。
「そっち撃つな!」
「でも怪人が!」
撃てば周囲を巻き込む。
撃たなければ怪人が来る。
現場は急速に制御を失っていった。
◇
その混乱の中。
負傷した隊員の一人が、道路の端へ引きずられていた。
「……何だ?」
身体を掴んでいる。
小柄なネズミ型の怪人。
「怪……人……?」
隊員が武器へ手を伸ばそうとする。
だが、力が入らない。
ネズミ型怪人は攻撃してこなかった。
ただ、倒れている隊員を戦場から遠ざけようとしている。
別の場所では、白いネズミ型の怪人が、動けなくなった一般人のそばにいた。
シロアリ怪人が近づいてくる。
白いネズミ型は、その人間を守るように動く。
だが、戦場にいる隊員たちには、そこまで見る余裕がない。
「ネズミ型!」
一人が叫ぶ。
「怪人が二体増えたぞ!」
銃口が向く。
その瞬間。
「前!」
別のシロアリ怪人。
隊員は慌てて銃口を戻した。
ネズミ型怪人たちは、そんなことには構わず人間を助け続けていた。
◇
「撤退!」
現場責任者が叫んだ。
「一度下がる!」
通信へ向かって怒鳴る。
「負傷者を連れて後退! 隊列を組み直す!」
正しい判断だった。
これ以上、この場所で戦い続けるべきではない。
だが。
「こっちに負傷者が!」
「置いていけ!」
「無理です!」
「一人じゃ運べません!」
「吸引来ます!」
隊員たちの身体が再び引かれる。
退路にいた者まで姿勢を崩す。
一人を助けようと二人が残る。
その二人を守ろうと、さらに別の隊員が残る。
隊列が切れる。
通信が重なる。
「こちら第三班! 動けません!」
「第二班、負傷者多数!」
「誰か来てくれ!」
「撤退しろ!」
「できません!」
誰かを置いていけば逃げられる。
だが、誰も簡単には仲間を置いていけなかった。
その結果、撤退そのものが成立しなくなっていく。
◇
その頃。
パンさんの店。
「ほら。冷めるぞ」
パンさんが皿を置いた。
「ありがとうございます」
紀人は箸を取る。
テレビでは、いつも通りの番組が流れている。
客の笑い声。
食器の音。
何も変わらない夜。
「お前さ、最近ちゃんと学校行ってんのか?」
紀人が顔を上げる。
「行ってますって」
「本当か?」
「何で疑うんですか」
「何となく」
「ひどくないですか?」
パンさんが笑った。
◇
「救護!」
怒号。
「こっちにもう一人!」
倒れた隊員を抱えようとする。
だが、その向こうからシロアリ怪人が来る。
「早く!」
銃声。
◇
「野菜も食えよ」
パンさんが言う。
「食べてます」
「今、肉から食っただろ」
「肉から食べたら、野菜食べてないことになるんですか?」
「ならない」
「じゃあいいじゃないですか」
普通の会話。
普通の食事。
その夜。
同じ街で何が起きているのか。
紀人も。
パンさんも。
知らなかった。
◇
時間が過ぎた。
銃声が減っていた。
怪人が減ったからではない。
撃てる人間が減っていた。
最初は約五十人いた。
だが、今。
立っている隊員は、ほとんどいない。
壊れた防具。
落ちた武器。
倒れた隊員。
動けない負傷者。
街には、特殊班が撃った弾丸による破壊の跡まで残っている。
その中で。
わずか数人。
四人。
あるいは五人。
互いを支えながら、何とか立っていた。
「まだ……来るぞ……」
一人が震える手で武器を構える。
その前に。
シロアリ怪人。
まだ残っている。
◇
エンジン音。
車両が急停止した。
扉が開く。
東たちが飛び出す。
そして、止まった。
「……何よ、これ」
誰も、すぐには言葉が出なかった。
五十人規模。
そう聞いていた。
その部隊が。
どこにいる。
倒れている。
あちらにも。
こちらにも。
一般人まで。
川出が叫んだ。
「生存者います!」
東が我に返る。
怒りはある。
聞きたいこともある。
だが、今じゃない。
「怒るのは後!」
東が叫ぶ。
「一般人と負傷者の救助!」
そして、まだ動いているシロアリ怪人を見る。
「残ってる怪人を止めるわよ!」
CASHが動いた。
◇
シロアリ怪人が向かってくる。
CASHの一般隊員が武器を構えた。
発砲。
一発。
シロアリ怪人の身体が大きく跳ね、そのまま倒れた。
特殊班の生存者が目を見開く。
「……え?」
別のシロアリ。
CASH隊員が狙う。
一発。
倒れる。
「……一発?」
特殊班では三発、四発。
必死に撃ち込んで、ようやく一体。
それなのに、目の前では一発ごとに確実に一体ずつ怪人が減っていく。
「何だよ……あの武器……」
生存者が呟いた。
◇
だが。
低い音。
「来る!」
川出が叫ぶ。
掃除機機能を持つ個体。
吸入口が開く。
強烈な吸引。
「うおっ!」
CASHの隊員たちも身体を引かれる。
北山が足を踏ん張る。
ニシも姿勢を低くする。
東の髪が大きくなびく。
「これが掃除機ってわけね!」
「正面に立たないでください!」
川出が叫ぶ。
「吸入口が開く前に音がします!」
もう一度、低い音。
「来ます!」
全員が動く。
真正面から離れ、射線を変える。
南浦が距離を取り、狙う。
射撃。
シロアリ怪人が振り向く。
その隙に東が踏み込む。
レイピアによる鋭い突き。
怪人の意識がそちらへ向く。
「北山さん!」
川出の声。
吸引が止まった瞬間、北山が一気に間合いへ入る。
空手の一撃。
横からニシが身体ごとぶつかる。
怪人の体勢が崩れる。
川出は戦場を走る。
空いた場所へ。
必要な場所へ。
近距離と遠距離を、その時々で切り替える。
そして。
一般隊員の射撃。
一発。
また一体倒れる。
一人で全部をやろうとしない。
誰かが引きつける。
誰かが崩す。
誰かが仕留める。
同じ怪人。
だが、戦い方がまるで違っていた。
◇
「アガト!」
東の声。
小柄なネズミ型怪人が振り向いた。
「アガト!」
東が負傷者を指す。
「そっちの人お願い!」
「アガト!」
すぐに動く。
別の場所。
「ユキ!」
白いネズミ型も東を見る。
「あっち! まだ人がいる!」
ユキが走る。
特殊班の生存者が、呆然とその光景を見ていた。
「あいつら……」
先ほどは怪人が増えたと思った。
敵だと思った。
「俺たちを……助けてたのか?」
アガトは戦闘が始まってから、ずっと人を運んでいた。
ユキも一般人を守っていた。
ただ、自分たちにはそれに気づく余裕すらなかった。
CASHは違う。
二体が何をしているのか、最初から理解している。
だから救助を任せられる。
その分、戦う者は戦うことに集中できる。
◇
低い音。
また吸引。
だが、もう最初の一回とは違う。
「来るぞ!」
全員が動く。
吸引方向から外れる。
南浦が遠距離から狙う。
川出が横へ回る。
東が別方向から間合いを詰める。
北山とニシが、吸引が止まる瞬間を待つ。
止まった。
「今!」
一気に攻める。
体勢を崩す。
射線が開く。
発砲。
一発。
掃除機機能を持つシロアリ怪人が倒れた。
残り。
一体。
また一体。
CASHは確実に数を減らしていく。
苦戦はする。
だが、戦線は崩れない。
そして。
最後の一体が地面へ倒れた。
◇
静かになった。
銃声も。
吸引音も。
怪人の動く音も。
消えた。
そこで初めて、東たちは改めて現場を見ることになった。
倒れている隊員。
負傷した一般人。
壊れた街。
五十人近くいたはずの部隊。
自分の足で立っている者は、わずかだった。
東の拳が震える。
シラメ博士は、地面に落ちていた特殊班の武器を拾った。
見る。
何も言わない。
いつものような軽口も、皮肉もない。
「……だから」
小さく言いかけた。
だが、それ以上は口にしなかった。
怒りをぶつける相手は、ここにはいない。
◇
東の端末が鳴った。
本部から。
東は画面を見る。
通信を取る。
『状況を報告しろ』
東は何も言わなかった。
目の前では、アガトが負傷者を運んでいる。
ユキが一般人のそばにいる。
特殊班の生存者が、その二体を見つめている。
そして周囲には、倒れた仲間たち。
『東、聞こえているのか。状況を――』
「……後で」
東は通信を切った。
人を守るために作られた部隊は、ほとんど壊滅した。
その一方で。
怪人であるアガトとユキが、人を助け続けていた。
東は何も言わず、目の前の惨状を見つめていた。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




