第六章 第4話 動物じゃない方
第六章 第4話 動物じゃない方
ゲームセンターの店内には、妙な空白ができていた。
景品棚は残っている。
両替機も壊されていない。
現金を保管していた場所にも、大きな被害はなかった。
ただ、そこに並んでいたはずのものだけが、ごっそり消えている。
UFOキャッチャー。
それも一台や二台ではない。
何台もの筐体が、まとめて持ち去られていた。
「景品じゃなくて?」
現場へ来た川出が店員へ確認する。
「はい。中の景品も一緒に持っていかれてますけど、景品を狙ったっていうより……」
店員は、筐体のなくなったスペースを見る。
「機械ごとです」
「現金は?」
「ほとんど手を付けられてません」
川出は店内を見回した。
まただ。
スピーカー。
鏡。
加湿器。
そして今度は、UFOキャッチャー。
高価な物を選んでいるわけでも、金を奪っているわけでもない。
特定の種類だけを、大量に持ち去っている。
「防犯映像、見せてもらえますか?」
「はい」
◇
映像に残っていたのは、今回も人間の姿をした複数の男女だった。
一見すれば、どこにでもいそうな人間。
だが、大型の筐体を動かしている姿を見れば、普通ではないことが分かる。
何人かで運んでいる者もいる一方、一人で筐体を引きずり、そのまま持ち上げている者までいた。
「……やっぱりか」
川出が映像を止める。
行動も同じだ。
目的の場所へ向かい、必要な物だけを奪う。
邪魔されれば排除する。
それ以外には興味を示さない。
「同じ連中で間違いないでしょうね」
◇
CASHの拠点。
机の上には、四件の資料が並んでいた。
スピーカー。
鏡。
加湿器。
UFOキャッチャー。
東が腕を組む。
「ここまで来たら、さすがに偶然じゃないわね」
「昨日言ってたやつだろ?」
ニシが資料を見る。
「動物じゃない方」
川出が過去の怪人に関する資料を開き、一つずつ確認していく。
「スピーカー……セミスピーカー」
東が続ける。
「鏡はミラーカメレオン」
「加湿器は、前のネズミ型が使っていたガスや蒸気に近い」
そして、最後の資料。
「UFOキャッチャー……」
ニシが言った。
「モズキャッチャーか」
誰も否定しなかった。
四つ。
ここまで一致するなら、もう偶然では済ませられない。
シラメ博士が資料を見ながら言う。
「少なくとも、犯人側が過去の怪人を知ってるのは間違いなさそうだね」
北山が腕を組む。
「じゃあ、同じ怪人をもう一回作るつもりなのか?」
「かもしれない。でも、それだけとは限らないよ」
「どういうことだ?」
「例えば鏡」
シラメ博士が資料を持ち上げる。
「欲しいのがミラーカメレオンそのものじゃなくて、あいつの擬態能力だけだったら?」
東の表情が変わる。
「能力だけ……」
「スピーカーも同じ。蒸気も同じ。捕まえる機能だってそう」
川出が言う。
「過去の怪人そのものを作り直すんじゃなくて、使える機能だけ別の怪人へ移す?」
「その可能性もある」
南浦が顔をしかめた。
「面倒くせえことしやがるな」
「しかも、一体分とは限らない」
シラメ博士は、大量に盗まれた品物の数を見る。
部屋が静かになった。
北山が言う。
「第二、第三のミラーカメレオンが出てくるかもしれないってことか?」
「それもある。同じ能力を持った別の怪人が、何体も出てくる可能性だってある」
ニシが頭を掻く。
「今まで倒した奴の能力まで増えてくのかよ」
「可能性の話だけどね」
だが、誰も笑えなかった。
◇
川出は、これまでに確認された怪人を順番に並べてみた。
「もし、過去に出た怪人を順番に追っているなら……」
資料をめくり、そこで手が止まる。
東が聞いた。
「どうしたの?」
「次が……」
資料に載っていたのは、アリア。
蜂。
蝶。
蟻。
東も覗き込む。
「……全部、生き物ね」
「はい」
北山が言う。
「盗むもんねえじゃねえか」
ニシが考える。
「蜂蜜とか?」
南浦が見る。
「それは蜂が作るもんだろ」
「じゃあ花?」
「蝶まで混ぜたら何でもありになるだろ」
東が額を押さえた。
「ちょっと待って。そもそも、この考え方が違うんじゃない?」
川出も頷く。
「そうですね」
アリアには、これまで盗まれたような分かりやすい物品側のモチーフがない。
つまり。
「過去の怪人を、登場した順番に再現してるわけじゃない」
東が言う。
「必要な能力だけ選んでる?」
シラメ博士が答えた。
「その可能性が高くなったね」
これで、過去怪人の順番から次に何が盗まれるかを予測する方法は使えなくなった。
◇
川出たちは、今度は過去の盗難事件そのものを洗い直した。
高額窃盗。
倉庫荒らし。
店舗からの大量盗難。
これまで怪人事件とは結びつけられていなかった、小さな事件まで確認していく。
その中で、川出の手が止まった。
「……これ」
東が覗く。
「何?」
「少し前の窃盗です」
規模は大きくない。
そのため、これまでの連続強奪事件とは別件として扱われていた。
「家電倉庫から、同じ商品だけが何台かなくなってます」
「何が?」
「掃除機です」
一同が黙った。
「……掃除機?」
東が聞き返す。
「はい」
ニシが首を傾げた。
「掃除機の怪人なんていたか?」
北山も考える。
「知らねえな」
南浦が言う。
「俺も聞いたことねえ」
東がシラメ博士を見る。
「博士は?」
「少なくとも、僕たちが確認した中にはいないね」
シラメ博士は資料へ視線を落とす。
掃除機。
これまでの怪人には、対応するものが見当たらない。
東が言う。
「じゃあ、これは関係ない?」
「そうとも限らないよ」
シラメ博士は答えた。
「僕たちが知らない怪人のモチーフかもしれない」
「知らない怪人……」
「あるいは、これから使うつもりなのかもね」
誰も答えなかった。
今までは、過去に戦った怪人のモチーフが盗まれていると思っていた。
だが、もし掃除機まで同じ目的で盗まれたのなら話が変わる。
敵は過去を再現しているだけではない。
まだ見たことのない何かを作ろうとしている可能性がある。
◇
CASHは、その分析も本部へ送った。
過去怪人の非動物モチーフと、連続強奪品が一致している可能性。
同型怪人の再製造。
既存能力の転用。
複数個体への能力付与。
さらに、過去怪人に該当しない『掃除機』の盗難。
東が報告書を見る。
「ここまで書けば、さすがに何か返ってくるでしょう」
川出が送信する。
しばらくして、返答が届いた。
東が読む。
「……『情報提供を受領した』」
川出が待つ。
東も待つ。
それだけだった。
「終わり?」
「みたいですね」
「こっちはこんだけ調べて送ってるのに?」
川出が苦笑する。
「はい」
東は端末を机へ置いた。
「すごいわね。ここまで徹底されると、逆に感心するわ」
シラメ博士が言う。
「向こうは僕たちを必要としてないんでしょう?」
「情報だけは必要みたいだけどね」
東の声には、はっきりと苛立ちが混じっていた。
◇
その頃。
警察本部。
CASHから送られてきた資料は、怪人特別対策班の手元にあった。
「過去怪人のモチーフ……」
「掃除機の盗難も関連事件の可能性あり」
資料を確認した上で、指示が飛ぶ。
「次の標的を洗え。過去の怪人に関係する施設だけじゃない。特定の商品が大量に置かれている場所も候補に入れろ」
CASHの分析を使い、怪人特別対策班は次の事件へ備え始める。
一人が確認した。
「この警戒情報、CASHにも共有しますか?」
返答は、今回も同じだった。
「必要ない」
「ですが、向こうも同じ事件を追っています」
「だから何だ」
資料が閉じられる。
「怪人特別対策班は、こちらだ。次は我々が先に押さえる」
CASHが集めた情報。
CASHが立てた仮説。
それらを使いながら、CASHだけを現場から外そうとしていた。
◇
その日の夜。
紀人はパンさんの店の二階で、東から聞いた話を思い返していた。
UFOキャッチャー。
モズキャッチャー。
以前、自分が戦った怪人。
もし本当に、あいつがもう一度現れるのなら。
「……同じなのかな」
一度倒した。
戦い方も知っている。
だが、最近の怪人たちは以前とは明らかに違ってきている。
能力を組み合わせる。
人間に擬態する。
そして、過去の怪人に関係する物を大量に集めている。
紀人は窓の外を見る。
「同じまま出てくるわけ……ないよな」
嫌な予感だけが残った。
◇
同じ頃。
川出は地図を前にしていた。
隣には、これまでの被害記録。
スピーカー。
鏡。
加湿器。
UFOキャッチャー。
そして、掃除機。
東が聞く。
「次、分かりそう?」
川出は首を振った。
「逆です」
「逆?」
「候補が増えました」
過去怪人の順番ではない。
まだ知らないモチーフまで含まれる。
狙われる可能性のある場所は、一気に増えた。
「次を待つしかない?」
東が聞く。
川出は地図を見つめる。
「できれば、その前に見つけたいです」
だが。
同じ地図を。
同じ事件を。
別の場所でも追っている者たちがいる。
CASH。
そして、怪人特別対策班。
同じ敵を追いながら。
二つの組織は、一つの情報すら共有していなかった。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




