第六章 第3話 三つ目
第六章 第3話 三つ目
道場での稽古を終えた紀人は、そのまま敷地の離れへ向かった。
入口には『立入禁止』の札が掛けられている。
周囲に人がいないことを確認してから扉を開けると、紀人はその場で足を止めた。
「おーい。元気にして――って、何してんの?」
離れの中では、アガトが物置に残っていた段ボール箱の中身を引っ張り出していた。
古いタオルや使っていない道具、何に使っていたのか分からない細々とした物が床一面に散乱している。
その中心に座っているアガトへ、紀人が問いかけた。
「おい、それどこから出した?」
「アガト」
「いや、名前聞いてないから」
少し離れた場所では、ユキが大人しく座っていた。
紀人を見つけると立ち上がり、ちょこちょこと近づいてくる。
「ユキはいい子だな」
紀人が頭へ手を伸ばした、その時。
「おい」
背後から声がした。
北山だった。
離れの中を覗き、散らかった床を見る。
「……何だ、これ」
紀人は即座にアガトを指差した。
「俺じゃないですよ」
「じゃあ誰だよ」
「アガト」
「アガト」
本人まで答えた。
北山がアガトを見る。
「自白したぞ」
「しましたね」
「アガト」
「何でちょっと誇らしげなんだよ」
紀人は笑いながら、持ってきた食べ物と飲み物を置いた。
「ほら。飯」
アガトがすぐに寄ってくると、ユキもその後をついてくる。
並んでいる二体を見て、紀人は小さく笑った。
「お前らは平和でいいよな」
「お前も片づけ手伝ってから帰れよ」
「俺がですか?」
「お前が連れてきたようなもんだろ」
「北山さんの離れじゃないですか」
「だから余計にお前が片づけろ」
「アガト」
「お前もだ」
アガトが首を傾げる。
紀人はため息をついた。
「絶対分かってないな、こいつ」
ユキだけが、二人のやり取りを静かに見つめていた。
◇
その頃、CASHでは三件目の強奪事件について調査が進められていた。
今回盗まれたのは、加湿器。
前の二件と同じく価格もメーカーも関係なく、店内にあった加湿器だけが大量に持ち去られている。
防犯映像に残っていたのも、人間の姿をした複数の男女だった。
川出が前二件の映像と見比べる。
「これで同一犯と見ていいでしょう」
東も頷いた。
「行動が同じね」
「はい。目的の売り場へ直行して、必要な物だけ持っていく。邪魔された場合だけ排除して撤退」
「今度は加湿器……本当に何なのよ、これ」
東は三件分の資料を見比べた。
◇
机の上には、三件の資料が並べられていた。
スピーカー。
鏡。
加湿器。
ニシが腕を組む。
「何か分かったか?」
川出は首を振った。
「共通点らしい共通点は、まだ」
シラメ博士は加湿器の一覧を見ている。
「今回も同じだね。値段もメーカーも性能もバラバラ」
高性能なものだけを盗んだわけではない。
大型だけでも小型だけでもなく、安い商品まで持ち去られている。
「前の二件と同じ。欲しいのは性能じゃない」
シラメ博士は三件の資料を並べた。
「スピーカーであること。鏡であること。そして今回は、加湿器であること」
南浦が腕を組む。
「意味分かんねえな」
北山も首を傾げた。
「三つ合わせて何ができるんだ?」
ニシが考える。
「鏡見ながら音楽聴いて、加湿する」
南浦がニシを見る。
「快適な部屋じゃねえか」
東が額を押さえた。
「だから真面目に考えて」
川出は三件の資料を見つめる。
「少なくとも、盗める物を適当に盗んでるわけじゃありません。最初から必要な物を決めて、それがある店を狙ってる」
つまり、犯人側には明確な目的がある。
ただ、その目的だけが見えなかった。
◇
今回もCASHは、調査結果を警察本部へ送った。
三件が同一犯による可能性が極めて高いこと。
犯人が人間へ擬態した怪人である可能性。
そして、犯行ごとに特定の商品だけを大量に狙っていること。
川出が報告内容を確認する。
「こちらで分かっているのは、ここまでですね」
東が頷いた。
「送って」
報告が送信される。
東は端末を見ながら、小さく息を吐いた。
「こっちからは毎回全部送ってるのにね」
「向こうからは何も来ませんね」
「本当に一方通行」
川出が苦笑する。
「それでも報告は必要ですから」
「分かってるわよ。分かってるから、ちゃんと送ってるの」
それが余計に腹立たしいのだろう。
川出は何も言わなかった。
◇
夜。
パンさんの店。
昼間は喫茶店だが、夜になればバーとして営業している。
カウンターには東。少し離れた席には北山とニシ。南浦と川出もいて、シラメ博士もいつものように混じっていた。
CASHの主要メンバーにとって、すっかり馴染みの店だ。
そして二階に下宿している紀人も、店内にいた。
「今度は加湿器だってよ」
ニシが何気なく口にした。
パンさんが反応する。
「何が?」
全員が止まった。
「……」
「何で黙るんだよ」
東がすぐに笑う。
「仕事の話よ」
「加湿器がどう仕事に関係すんだ?」
「色々あるの」
「どんな仕事だよ」
南浦がグラスを持ったまま言う。
「細けえこと気にすんな」
「俺の店で怪しい話してんだから気になるだろ」
「怪しくねえよ」
「今のやり取りで怪しくないと思えるか!」
別の客に呼ばれ、パンさんがその場を離れる。
全員が小さく息を吐いた。
紀人が近づく。
「加湿器って何ですか?」
東が声を落とす。
「またなのよ」
「また?」
「スピーカー、鏡。今度は加湿器」
紀人の表情が変わった。
「全部、それだけ?」
「そう」
「……変ですね」
「でしょ?」
紀人は考える。
スピーカーと聞いて、最初に浮かぶのは――。
「セミスピーカー……」
北山が紀人を見る。
「お前、よく覚えてんな」
紀人の動きが一瞬止まった。
東がすぐに口を挟む。
「この子、配信見てるから詳しいのよ」
「あ、そうそう。結構見てるんですよ」
北山は「ふーん」とだけ答えた。
紀人は内心で少しだけ息を吐く。
そして、もう一つ。
「鏡なら……ミラーカメレオン」
川出が反応する。
「確かに」
「で、加湿器……蒸気?」
東の表情が変わった。
「蒸気……」
川出も気づく。
「前のネズミ型」
南浦が言った。
「ガス撒いてた奴か」
一同が黙る。
そこでニシが、指を折りながら言った。
「ってことは、あれか? セミじゃなくてスピーカー。カメレオンじゃなくて鏡。ネズミじゃなくて、煙とか蒸気の方」
東が呟く。
「……動物じゃない方?」
川出も考え込む。
怪人は動物だけで構成されているわけではない。
それぞれに、別のモチーフが組み合わされている。
そして今、盗まれている物。
「まさか……」
東が言いかけた、その時だった。
「さっきから何の話してんだ?」
全員が固まる。
いつの間にか、パンさんが戻ってきていた。
「……」
「また黙る」
東が笑顔を作る。
「何でもないわよ」
「絶対何かあるだろ」
シラメ博士が言う。
「加湿器の話だよ」
「それは聞いた」
「じゃあ問題ないね」
「余計分かんねえよ!」
紀人が吹き出し、ニシも笑い始める。
「何がおかしいんだよ!」
パンさんの声が店内に響いた。
◇
翌日。
CASHでは改めて、過去の怪人に関する資料が並べられていた。
スピーカー。
鏡。
加湿器。
川出が言う。
「昨日の話、調べてみる価値はありそうです」
東も頷く。
「偶然にしては出来すぎてる」
シラメ博士は鏡の資料を見ていた。
「でも、もし本当に怪人のモチーフを集めてるなら、一つ気になる」
「何が?」
「量」
大量のスピーカー。
大量の鏡。
大量の加湿器。
北山が言う。
「一体作るのに、それだけ必要なんじゃないのか?」
シラメ博士は少し考えた。
「それなら、まだいいけどね」
東が眉をひそめる。
「まだいい?」
「一体分とは限らないでしょう?」
部屋が静かになる。
シラメ博士は鏡の資料を指で叩いた。
「鏡が大量に必要なら、第二、第三のミラーカメレオンを作るつもりかもしれない」
川出の表情が変わる。
「複数……」
「それだけじゃないよ。今までの怪人の一部の機能だけを、別の怪人へ載せることだって考えられる」
東が最近の事件を思い返す。
「前のネズミ型みたいに?」
「可能性はある」
シラメ博士が頷いた。
「もし怪人の能力を組み合わせる段階まで来てるなら、かなり面倒なことになるね」
◇
その時、川出の端末が鳴った。
「はい」
連絡を受けるうちに、その表情が変わっていく。
「分かりました」
通信を切る。
東が聞いた。
「何?」
「また強奪です」
「今度は?」
「ゲームセンター」
ニシが眉をひそめる。
「景品か?」
「違います」
「現金?」
「それも違うそうです」
川出は少し間を置いた。
「UFOキャッチャーの筐体です」
部屋が静かになった。
東が聞き返す。
「……筐体?」
「はい。UFOキャッチャーだけ、大量に持ち去られたそうです」
スピーカー。
鏡。
加湿器。
そして、UFOキャッチャー。
もう、偶然とは思えなかった。
後からその話を聞いた紀人の頭には、一体の怪人がはっきりと浮かんでいた。
「……モズキャッチャー」
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
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ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




