第六章 第2話 鏡だけ
第六章 第2話 鏡だけ
翌朝。
店内を見回した警察官は、しばらく言葉を失っていた。
荒らされてはいる。だが、妙だった。
レジは無事。現金も残っている。高価な商品にも、ほとんど手を付けられていない。
なくなっているのは、鏡だけだった。
壁掛け。卓上。化粧用。姿見。
値段も大きさも関係なく、店内にあった鏡という鏡が、ほとんどすべて消えている。
「……本当に鏡だけですか?」
警察官が尋ねると、店員は何度も頷いた。
「はい。最初は私も何かの間違いかと思ったんですけど……」
警察官は空になった売り場へ目を向ける。
「現金は?」
「盗られてません」
「他の商品も?」
「確認した限りでは……」
「鏡だけ」
「はい」
前日に起きたスピーカーの大量強奪。
そして今度は鏡。
まだ二つの事件が同じものだと決まったわけではない。
それでも、あまりにも奇妙だった。
◇
防犯カメラには、今回も複数の男女が映っていた。
どこにでもいそうな人間たち。
店へ入ると迷うことなく鏡売り場へ向かい、次々と商品を持ち出していく。
大型の姿見まで、一人で軽々と運んでいた。
途中で異変に気づいた店員が、一人の腕を掴む。
だが、軽く押し返されただけで床へ転がされた。
その間も、他の者たちは何事もなかったように鏡を運び続けている。
誰一人として、ほかの商品には興味を示していなかった。
◇
川出は映像を止めた。
「同じ連中でしょうね」
東が画面を覗き込む。
「やっぱり?」
「少なくとも、可能性はかなり高いです」
川出は前回の映像を横に並べた。
スピーカーを運ぶ男女。
鏡を運ぶ男女。
顔や服装が完全に一致しているわけではない。
しかし、行動があまりにも似ている。
店へ入る。
目的の売り場へ直行する。
必要な物だけを運ぶ。
邪魔をされた時だけ、異常な力で排除する。
そして撤退。
東が二つの映像を見比べる。
「これ……店に入ってから選んでないわね」
「そうなんです」
川出が頷いた。
「最初から、何を盗むか決めてます」
前回はスピーカー。
今回は鏡。
盗みやすい商品を選んでいるわけでも、高価な物を探しているわけでもない。
最初から「今回は鏡を盗む」と決めた上で、店を襲っている。
東が腕を組む。
「ますます分からなくなったわね」
「ですね」
◇
拠点では、二件分の資料が机いっぱいに広げられていた。
ニシが一枚を手に取る。
「スピーカーの次は鏡か」
北山が言う。
「統一感ねえな」
「何に使うんだよ」
ニシが考え込む。
「鏡見ながら大音量で音楽聴くとか?」
南浦が呆れた顔をした。
「趣味悪すぎんだろ」
「真面目に考えて」
東が二人を止める。
シラメ博士は、盗まれた商品の一覧を見ていた。
「鏡もバラバラだね」
川出が頷く。
「高級品だけじゃありません。安い卓上鏡も、大型の姿見も盗まれてます」
「材質は?」
「統一されてません」
「メーカーも?」
「はい」
シラメ博士は、前回の資料をその横へ置いた。
スピーカーも同じだった。
値段ではない。
メーカーでもない。
性能でもない。
「やっぱり、物の質には興味がないんだ」
東が見る。
「どういうこと?」
「欲しいのは高性能なスピーカーじゃない。スピーカーそのもの」
シラメ博士は今度は鏡の一覧を見る。
「高品質な鏡が欲しいわけでもない。鏡そのものが欲しい」
北山が首を傾げた。
「何が違うんだ?」
「全然違うよ。何かに使うために性能で選んでるなら、こんな盗み方にはならない」
川出も頷く。
「何であるか。それだけが重要……」
東が呟く。
「スピーカーであること」
「鏡であること」
まだ二つ。
だが、偶然と片づけるには少しずつ無理が出てきていた。
◇
今回も、CASHは調査結果を本部へ送った。
一件目との類似性。
同一犯である可能性。
異常な身体能力。
人間に擬態した怪人である可能性。
そして、犯人たちは事前に盗む商品の種類を決めていると考えられること。
川出が報告書を確認する。
「これで全部です」
東が頷いた。
「送って」
送信。
今回も、こちらで分かったことはすべて上げる。
本部がどんな態度を取ろうと、そこだけは変えない。
◇
その報告は警察本部を経由し、新設された怪人特別対策班へ回された。
「同一犯の可能性が高い、と」
「人間への擬態能力についても、前回より可能性が上がっています」
一人が川出の分析へ目を通す。
「よく調べているな」
別の者が口を開いた。
「川出は現場での追跡や聞き込みに強いと聞いています。情報交換くらいはしてもいいのでは?」
返事は変わらなかった。
「必要ない」
「ですが――」
「正式な対策班は我々だ」
CASHから上がってきた資料が机の上へ置かれる。
「向こうには向こうの仕事をさせておけばいい」
資料は使う。
分析も使う。
だが、こちらが持っている情報は渡さない。
怪人特別対策班ができた以上、怪人事件の主導権をCASHへ戻すつもりはなかった。
◇
「今度は鏡だけ?」
紀人は東から話を聞いて、思わず聞き返した。
「そう」
「スピーカーの次に?」
「そうなのよ」
紀人は考える。
スピーカー。
それなら――。
「……セミスピーカー」
そして鏡。
紀人の頭に、もう一体の怪人が浮かんだ。
「……ミラーカメレオン」
東も黙る。
二人で顔を見合わせた。
「いや……」
紀人が先に首を振る。
「さすがに考えすぎか」
「二件だけじゃね」
「ですよね」
スピーカーを盗んだからセミスピーカー。
鏡を盗んだからミラーカメレオン。
それだけで結びつけるのは、まだ強引すぎる。
ただ、一度浮かんだ考えは完全には消えなかった。
◇
怪人特別対策班では、訓練が続いていた。
隊員が新型銃器を構え、標的へ射撃する。
轟音。
通常の警察装備とは明らかに違う威力で、標的が破壊された。
「すげえな……」
一人の隊員が呟く。
別の隊員は、自分の防具を見る。
全身を覆う厚い装甲。
これまでの警察装備とは違う。
怪人との戦闘を前提に作られた装備。
「これなら戦える」
誰かが言った。
周囲の者たちも頷く。
今まで、警察は怪人を前にしてまともな対抗手段を持っていなかった。
だが、今は違う。
少なくとも、彼らはそう信じていた。
◇
数日後。
別の家電量販店。
何人かの男女が、普通の客に混じって店内へ入ってきた。
そのまま迷うことなく歩いていく。
向かった先は、加湿器売り場。
一人が商品を持ち上げる。
続いてもう一人。
また一人。
次々と、加湿器だけが運び出されていった。
◇
連絡を受けた川出が、資料を見つめていた。
東が尋ねる。
「また?」
「はい」
「今度は何?」
川出は少し間を置いてから答えた。
「加湿器です」
「……加湿器?」
スピーカー。
鏡。
加湿器。
三つ目。
川出は机の上に、三件の資料を並べる。
偶然。
そう呼ぶには、そろそろ数が増えすぎていた。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
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企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




