閑話三 ユキ
閑話三 ユキ
事件が終わっても、まだ決めなければならないことが残っていた。
アガトと、もう一体のメス型ハツカネズミ怪人。
この二体を、これからどこに置くのか。
人間を襲わないことは分かった。むしろ、人を助けていた。
だからといって、怪人の存在が警察内部で正式に認識され始めた今、これまでのように好きに街を歩かせておくわけにもいかない。
東たちは、二体の今後について頭を悩ませていた。
「とりあえず、しばらく隠れて生活できる場所が必要ね」
川出が頷く。
「本部に見つかるのも面倒ですし、一般人に見られるのもまずいですね」
南浦が腕を組む。
「逃がしといて、またどっかで見つかるよりはマシだな」
以前なら、怪人を保護するという話そのものに反対していたかもしれない。
それでも今回は、二体が何をしていたのかを南浦自身も見ている。
積極的に賛成するわけではないが、反対もしなかった。
そこで紀人が手を挙げる。
「だったら、俺んち使えますよ」
「紀人君の家?」
「今、誰もいないんで」
紀人自身はパンさんの喫茶店の二階に下宿しているが、両親のいない実家は現在ほぼ空き家になっている。
しかも、パンさんの店からも近い。
「毎日見に行けますし」
東は少し考える。
確かに悪くない。
ただ、川出が現実的な問題を口にした。
「住宅街ですよね?」
「そうですけど」
「近所の人に見られたら?」
「あ……」
アガトだけでも危ない。
二体揃って窓から顔を出したり、勝手に外へ出たりしたら大騒ぎになる。
紀人がアガトを見る。
「お前、勝手に出る?」
「アガト」
「出そうだな」
「何で今ので分かるのよ」
東が突っ込んだ。
第一候補としては悪くない。
だが、常時置いておくには少し不安がある。
そこで北山が口を開いた。
「だったら、道場の離れはどうだ?」
全員が北山を見る。
「離れ?」
「ああ。今はほとんど物置になってる」
普段使っている道場とは別に、小さな離れのスペースがある。
現在は荷物を置いているだけで、人が出入りすることもほとんどない。
「立入禁止にしちまえば、道場の連中もわざわざ入らない」
川出が考える。
「それなら住宅よりは人目を避けやすいですね」
「隣は公園だ」
北山が続ける。
「夜とか、人のいない時間なら多少外にも出せる」
紀人も頷いた。
「俺も道場来るから、様子見られるし」
東の表情が明るくなる。
「それ、かなりいいんじゃない?」
シラメ博士も頷く。
「何かあった時に北山さんが気づけるのも大きいね」
南浦も、
「少なくとも住宅街の真ん中よりはマシだろ」
と認めた。
こうして、普段の保護場所は道場の離れ。
何かあった場合には、紀人の実家を第二候補として使う。
ひとまず、その形に落ち着いた。
◇
「よし」
紀人が立ち上がる。
「じゃあ、次」
東が嫌な予感のする顔をした。
「まだ何かあるの?」
「ありますよ」
紀人が指差す。
アガトの隣。
小柄で白っぽいメス型怪人が、こちらを見ている。
「こいつの名前」
一同が黙った。
「……今?」
「大事でしょ」
紀人は真剣だった。
アガトには、もう名前がある。
正確には、「ありがとう」を意味する言葉を東と紀人が名前だと勘違いし続けた結果、本当に名前として定着してしまっただけだが。
もう一体には、まだ何もない。
「いつまでも『メスのネズミ』じゃかわいそうじゃないですか」
それには、東も少し納得した。
「まあ……確かにそうね」
南浦がメス型怪人を見る。
「ネズミだろ?」
「そうですけど」
「だったら、ミ○ーとかジェ○ーでいいんじゃねえか?」
数秒。
沈黙。
東が即答した。
「駄目」
「何でだよ」
「そのネズミの名前は、あまりにも有名すぎるのよ」
「名前なんて分かりやすい方がいいだろ」
「分かりやすすぎるから駄目なの!」
南浦は少し考える。
「じゃあ……ピ○チュウ」
「それはもっと駄目でしょう!」
東の声が一段上がった。
紀人が吹き出す。
「南浦さん、さっきから怒られそうな名前しか出してないですよ」
「ネズミっぽいだろ」
シラメ博士が冷静に言う。
「分かりやすすぎるから駄目なんだと思うよ」
「注文多いな」
南浦が不満そうに言った。
ニシも参加する。
「じゃあポチ」
紀人が即座に振り返る。
「犬じゃないですか」
「呼びやすいぞ」
「そういう問題じゃないです」
北山も考える。
「ネズミ」
「名前ですらないじゃないですか!」
東が言う。
「じゃあ白いからシロ」
紀人がメス型怪人を見る。
「シロ」
反応なし。
「駄目か」
「別に本人が反応しないと駄目って決まりもないでしょう」
「でも、せっかくなら気に入ったやつの方がいいじゃないですか」
紀人はかなり本気だった。
南浦がまた口を挟む。
「じゃあチュー太」
「男の名前っぽいです」
「チュー子」
「急に昭和っぽい!」
ニシが笑う。
「じゃあ、ねず子」
東がすぐに止める。
「それも何か危ない気がするからやめましょう」
「何が危ないんだよ」
「説明しづらいけど、駄目なものは駄目!」
シラメ博士まで考え始める。
「白いならホワイト」
「英語にしただけじゃないですか」
「じゃあスノー」
「急にかっこつけましたね」
北山が言う。
「モチ」
紀人が少し考える。
「ちょっとありかも」
東が首を傾げる。
「でもネズミ感ゼロよ」
「ネズミ感、必要なんですか?」
「さっきからそこにこだわってたでしょう!」
候補はどんどん増えていく。
シロ。
ユキ。
マロン。
モチ。
チュー子。
ポチ。
ネズミ。
スノー。
途中からは、もう何を基準に考えているのか誰にも分からなくなっていた。
アガトも参加する。
「アガト」
「お前はもう決まってるの」
「アガト」
「二回言っても変わらないから」
南浦が腕を組む。
「俺はミ○ーでいいと思うんだけどな」
「まだ言ってる!」
東が即座に返した。
「じゃあジェ○ー」
「同じ!」
「ピ○チュウ」
「もっと駄目!」
「何ならいいんだよ!」
「普通のでいいのよ、普通ので!」
「普通って何だよ!」
名前を決めるだけなのに、なぜか全員が少し疲れてきた。
紀人は、メス型怪人の白い身体を改めて眺める。
白くて、小さい。
凶悪というより、どこか雪の中にでもいそうな見た目だった。
「……ユキ」
ぽつりと、紀人が言う。
メス型怪人の耳が動いた。
「ん?」
紀人がもう一度呼ぶ。
「ユキ」
今度は、はっきりと紀人の方を向いた。
東が気づく。
「あ」
北山も見る。
「今、反応したな」
「したよな?」
紀人が嬉しそうに近づく。
「ユキ」
メス型怪人が一歩だけ紀人の方へ近づいた。
紀人が笑う。
「じゃあ決まり」
東も頷く。
「いいんじゃない? 白いし、呼びやすいし」
ニシも、
「ポチよりはな」
と言う。
「最初からポチはないですって」
シラメ博士も、
「無難なところに落ち着いたね」
と頷く。
南浦だけは少し不満そうだった。
「ミ○ーの方が分かりやすいだろ」
「もう諦めて!」
東が叫んだ。
◇
数日後。
道場の離れ。
物置だった場所は、最低限だが二体が過ごせるように片づけられていた。
入口には、しっかりと『立入禁止』の札が掛けられている。
紀人が扉を開ける。
「ほら、今日からここな」
アガトが先に入る。
「アガト」
「気に入った?」
返事になっているのかは分からない。
その後ろから、ユキも中へ入っていく。
アガトより慎重なのか、しばらく周囲を眺めてから奥へ進んだ。
北山が腕を組む。
「頼むから、道場の方には出てくるなよ」
「大丈夫ですよ」
紀人が軽く答える。
「何を根拠に」
「アガトとユキですから」
「名前は安全証明にならないからな」
紀人は気にしなかった。
アガト。
そして、ユキ。
同じネズミ型の怪人でも、人間を襲った怪人とはまったく違った二体。
警察がこの二体をどう扱うのか。
怪人と人間が、これからどうなっていくのか。
そんなことは、まだ誰にも分からない。
ただ、紀人にとってはもっと単純だった。
敵じゃない。
人を助けてくれた。
だったら、居場所くらいあってもいい。
名前だって、あった方がいい。
紀人は二体を見る。
「じゃあ、改めて」
アガトが振り向く。
ユキもこちらを見る。
「これからよろしくな。アガト、ユキ」
「アガト」
ユキは言葉を返さない。
ただ、少しだけ紀人へ近づいた。
北山が離れの扉に手をかける。
「ほら、今日はもう出るぞ」
「はいはい」
紀人も外へ出ようとする。
その背中へ。
「アガト」
声が飛んできた。
紀人が振り返り、笑う。
「分かってるって。また来るよ」
扉が閉まる。
立入禁止になった、小さな離れ。
そこに、アガトとユキ。
二体のネズミ怪人の、新しい居場所ができた。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




