閑話一 配信の向こう側
閑話一 配信の向こう側
配信が終わった後も、コメント欄の勢いはなかなか収まらなかった。
今回映っていたのは、キッドがネズミ型怪人と戦った一箇所だけ。別の場所で何が起きていたのか、そこで誰が戦っていたのか。配信を見ていた者たちは何も知らない。
彼らが見たのは、いつものように怪人の前へ立ったキッドの姿だけだった。
『今回の怪人、普通に強くね?』
『最初からシロアリまでいるの反則だろ』
『キッド一人じゃん』
『そういや今回、いつもの人間部隊いなくない?』
『あの変な装備の人たち?』
『変な装備言うな』
『でも今回マジでキッドだけだったな』
『警察っぽいの最初に映ってなかった?』
『途中から誰もいなくなってる』
『別の場所で何かあったとか?』
『知らん。配信ここだけだし』
映っていないものについては、想像するしかない。
コメントはすぐに、画面の中のキッドへ戻っていった。
戦い始めたキッドが最初に使ったのは、見慣れた組み合わせだった。
脚にヒクイドリ。
胴体にカンガルー。
『鉄板きた』
『困った時のヒクイドリ』
『カンガルーの尻尾便利すぎる』
『蹴って尻尾で薙ぐの好き』
『これもう本人も使い慣れてるだろ』
ヒクイドリの蹴りでシロアリ怪人を倒し、カンガルーのしっぽを横薙ぎに振るって別の一体を吹き飛ばす。
そこまでは、いつものキッドだった。
だが、戦いが続くにつれてコメント欄の空気が変わり始める。
『あれ?』
『今の避けるの遅くなかった?』
『さっきから動き重くね?』
『ダメージ?』
『いや、煙じゃね?』
画面には、薄い煙のようなものが残っていた。
キッド自身も異変に気づき始める。
そこへ現れた謎のヒーローから、新しいメモリーが投げ渡された。
『新メモリー!』
『何!?』
『マングース!?』
『ここでマングースか!』
胴体のカンガルーが外され、代わりにマングースが装着される。
すると、それまで明らかに鈍っていたキッドの動きが少しずつ戻り始めた。
『毒対策か』
『マングースって毒効かないの?』
『無効ではない』
その書き込みへ、すぐに返信が続く。
『マングースは毒に強い耐性があるってだけ』
『毒そのものを無効化できるわけじゃない』
『じゃあ食らい続けたら普通にまずい?』
『たぶん』
『長時間あの煙の中で戦い続けたら危ないと思う』
『なるほど。無敵化じゃなくて耐えられる時間が伸びた感じか』
そこへ、別の書き込み。
『ならラーテルの方が強くない?』
数秒後。
『馬鹿』
『ラーテル出したら毒どころか攻撃ほぼ無効になってこの特撮終了じゃん』
『一話で最終回にするな』
『怪人側泣くだろ』
『制作側が一番泣く』
『ラーテル禁止カードで草』
コメント欄が一気に脱線する。
その間にも、キッドの戦いは続いていた。
マングースによってガスへの耐性を得た。
だが、代わりにカンガルーのしっぽが消えている。
画面の中のキッド自身も、それに気づいた。
『あ』
『尻尾なくなった』
『耐性取ったら手数減った』
『どうすんのこれ』
その時。
謎のヒーローが、もう一つメモリーを投げた。
画面に映る。
ゾウ。
『…………』
一瞬、コメントが止まった。
そして。
『ゾウ!!!!!!!!』
『来たああああああああああ!!』
一人だけ、異常な勢いで連投を始めるリスナーがいた。
『だから言っただろ!!』
『ゾウは来るって!!』
『ずっと言ってた!!』
『ついに当たった!!!!』
すぐに返信が飛ぶ。
『何回外したと思ってんだよ』
『前回サイって言ってただろ』
『その前カバ』
『マンモスも言ってたぞ』
『当たった回だけイキるな』
『今回当たったから俺の勝ち』
『何に勝ったんだよ』
頭部へゾウメモリーが装着される。
ヘルメットには大きな耳と鼻が加わった。
そして、その鼻が動く。
『鼻動いた!?』
『動くのかよ!』
『うおおおおお!!』
『ゾウ予想マン成仏しろ』
『まだするか!』
キッドはゾウの鼻を伸ばしてシロアリ怪人を巻き取り、そのまま持ち上げて投げ飛ばす。
別の敵が迫れば、今度は鼻を横薙ぎにして進路を塞いだ。
『頭メモリーなのに攻撃手段増えてる』
『腕二本と鼻一本』
『実質三本腕じゃん』
『いや鼻だろ』
『細かいことはいいんだよ』
『これ便利すぎる』
マングースでガスに耐え、ゾウの鼻で失った手数を補う。
最初は戸惑っていたキッドも、少しずつ新しい組み合わせを使いこなしていく。
そして最後。
ゾウの鼻がネズミ型怪人を捕らえた。
『拘束した!』
『ここからどうする?』
脚のヒクイドリが外される。
装着されたのは、ノミ。
『来た』
『はい、終わった』
『フィニッシュ入ります』
『この流れ知ってる』
ノミの脚で、キッドが一気に高く跳び上がった。
『やっぱこれだよな』
『最後ヒクイドリだろ』
『もう勝った』
上空でゾウを外し、怪人の拘束を解く。
そして空中でノミを外し、再びヒクイドリへ。
『はい、いつもの』
『これこれ』
『フィニッシュはこれだよね』
『安定のノミ→ヒクイドリ』
『この決め方好きだわ』
キッドが一直線に落下する。
ヒクイドリの蹴りがネズミ型怪人へ突き刺さった。
『知ってた』
『はい終了』
『決まったあああ!』
『やっぱ最後はこれだな』
『定番だけど強い』
怪人が倒れ、配信は終わった。
だが、コメント欄はまだ止まらない。
しばらくして、話題は今回のネズミ型怪人へ戻った。
『しかし今回の怪人怖かったな』
『人間の姿してたのが一番怖い』
『普通に街歩いてたら分からんだろ』
『ネズミ型って全部あんな感じなのか?』
その時、一つの書き込みが流れる。
『俺、似たようなの見たことあるかも』
『は?』
『今回のやつ?』
『どこで?』
『いや、今回のとは違う』
『もっと小さくて、白っぽくて』
少し間が空く。
『なんか凄く愛嬌あった』
すぐに反応が返る。
『怪人で愛嬌とか誰得?』
『怖くない怪人って何だよ』
『それもうゆるキャラだろ』
『本当に怪人?』
そこまでは、いつもの軽いやり取りだった。
だが、目撃したというリスナーから、さらに書き込みが来た。
『あと、人助けてた』
『は?』
『ありえねー』
『怪人が?』
『いや、マジで』
『転んだ人起こしたりしてた』
『逃げるのも手伝ってた』
少しだけ、コメントの流れが変わる。
そして、誰かが気づいた。
『待って』
『お前さっきから「見た」って言ってるけど』
『本物を見たって言ってんの?』
『そうだけど』
その一言で、コメント欄が一気に燃え上がった。
『いやいやいやいや』
『そもそもこれ特撮だぞ』
『怪人が本当にいるわけないじゃん』
『設定と現実混ぜんなよ』
『釣りだろ』
『こんな事件あったら、とっくにニュースになってるわ』
『それな』
『人間に化ける怪人がガス撒いて暴れてるとか大事件だろ』
『ニュースになってない時点で察しろ』
『本物なわけねーじゃん』
だが、目撃者も引かない。
『だから本当に見たんだって』
『証拠は?』
『写真出せ』
『動画は?』
『撮ってない』
『はい解散』
『嘘乙』
『写真も動画もないのに信じろは無理』
『いや、そんな状況で撮影する余裕ないだろ』
『擁護まで出てきた』
『俺も似た話聞いたことあるぞ』
『便乗始まった』
『特撮のコメント欄で都市伝説大会すんな』
次々とコメントが流れ、最初の目撃談など完全に置き去りになっていく。
『でも今回、人間部隊いなかったのも変じゃね?』
『それとこれ結びつけるのは無理あるだろ』
『別の場所でも何か起きてたとか?』
『陰謀論始まった』
『ニュース規制されてる可能性』
『はい陰謀論』
『警察までグルってか?』
『話でかくなりすぎ』
『そもそもKIDが本物なら撮影してる奴何者だよ』
『それは最初から謎だろ』
『そこ掘るな』
『設定崩壊する』
『だから特撮だって言ってんだろ!』
もはや、何について言い争っているのかすら分からない。
怪人は実在する。
しない。
ニュースになっていない。
隠されている。
配信そのものが演出。
いや、本物かもしれない。
コメント欄は完全に収拾がつかなくなっていた。
しばらくすると、さすがに疲れたのか、少しずつ書き込みの勢いが落ち始める。
そこへ、まるで何事もなかったかのように一つのコメントが流れた。
『次の新メモリー予想しようぜ』
例のリスナーが即座に反応する。
『ラーテル』
『お前まだ言うのかよ』
『禁止カードだって言っただろ』
『じゃあカバ』
『何で耐久力ありそうなのばっかなんだよ』
『次こそ来る』
『ゾウ一回当てただけで強気すぎる』
『次も外したら半年黙れ』
『嫌だ』
少しずつ、コメント欄はいつもの調子へ戻っていった。
新しいメモリー。
次の怪人。
キッドの戦い方。
いつもの話題が、炎上した書き込みを次々と上へ押し流していく。
やがて「怪人を見た」という話も、数え切れないコメントの中へ埋もれていった。
ただ、その中には確かに一つだけ、こんな書き込みが残っていた。
『人を助ける怪人、見たよ』
配信を見ている者たちは、まだ知らない。
今回、画面に映らなかった場所で。
本当に、人間を守った怪人がいたことを。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




