閑話2「証拠」
閑話2「証拠」
時根脱才 作
「――ですから、私は見たんです」
東は、真っ直ぐ前を見て言った。
警視庁。
その一室で、東の正面には一人の男が座っている。
警視総監。
警視庁の頂点に立つ人物だった。
机の上には、いくつもの資料が並べられている。
怪人らしき存在についての目撃情報。
ネット上へ投稿されたという写真や動画。
そして――。
「これも確認した」
警視総監が、一枚の資料へ目を落とした。
そこには、動画配信サイトに投稿された映像について記されている。
異形の怪人。
それと戦う、ワシの頭を持った何者か。
東自身も、その映像は何度も確認していた。
「では――」
「最後まで聞きなさい」
「……失礼しました」
東は口を閉じる。
警視総監は、しばらく資料へ目を落としていた。
「君から最初に報告を受けたあと、こちらでも調べさせた」
「はい」
「目撃情報がなかったわけではない。ネット上にも、それらしい書き込みがあったという話は確認している」
東の表情がわずかに動いた。
「やはり――」
「だが、残っていない」
短い言葉だった。
「…………」
「確認できたという情報の多くが、現在はネット上から消えている。写真も、動画も、書き込みもだ」
「それがおかしいんです」
「分かっている」
警視総監は落ち着いた声で答えた。
「だから調べた」
東は黙る。
「しかし、消えたという事実だけでは、その内容が本物だった証明にはならない」
「ですが――」
「そして、現在確認できる映像がこれだ」
警視総監が、例の動画についての資料を指で叩いた。
「君も見ただろう」
「……はい」
「どう見えた?」
東は答えなかった。
いや。
答えられなかった。
自分は、本物を知っている。
実際に怪人と遭遇した。
あの異形を。
あの恐怖を。
この目で見た。
だからこそ、映像の中に映っているものが何なのか分かる。
だが。
もし何も知らない人間が、あの映像だけを見たなら。
「……特撮作品のように見えます」
「そうだ」
警視総監は頷いた。
「映像としては、むしろ出来すぎている」
怪人も。
戦っている者も。
爆発も。
何もかもが、現実の事件を撮影した映像というより、最初からそういう作品として作られたものに見える。
「加工された可能性も調べています」
東が言った。
「誰かが意図的に――」
「その可能性を否定しているわけではない」
「でしたら!」
「東」
静かな声だった。
それだけで、東は再び言葉を止めた。
「私は、君が嘘をついていると言っているわけではない」
「…………」
「君が何かを見た。それについて報告した。だからこちらでも調べた」
警視総監は机の上で手を組んだ。
「だが、警察は『見た』という話だけで動くわけにはいかない」
「分かっています」
「本当に?」
「…………」
東は唇を結んだ。
警視総監の言っていることは正しい。
怪人がいる。
人間ではない何かが、人を襲っている。
それを警察組織が正式に認める。
その意味は大きい。
だからこそ。
必要なのだ。
誰にも否定できない証拠が。
「現状では、怪人と呼ばれる存在が実在するとは認定できない」
「…………」
「少なくとも、警察組織としてはな」
東は俯かなかった。
しばらく警視総監を見つめ。
そして。
「分かりました」
そう答えた。
「なら、証拠を見つけてきます」
警視総監の眉が、わずかに動いた。
「東」
「失礼します」
東は深く頭を下げた。
そして、部屋を出ていった。
◇
数日後。
「――失礼します」
再びその部屋へ現れた東は、一人ではなかった。
その後ろに、一人の男が立っている。
どこにでもいる、ごく普通の一般人。
ただ。
男の表情は硬かった。
「彼は?」
警視総監が尋ねる。
「怪人の目撃者です」
東は答えた。
警視総監の視線が、男へ向く。
男は緊張した様子で頭を下げた。
「座ってください」
「……はい」
促され、男が椅子へ腰を下ろす。
東は、その隣に立った。
「話していただけますか」
東に言われ、男は小さく頷いた。
「……見ました」
「何を?」
「怪物……いや、怪人っていうんですか。そういうのを」
男は膝の上で両手を握った。
「白い……蟻みたいなやつでした」
「場所は?」
男が答える。
日時。
場所。
そのとき何をしていたのか。
何を見たのか。
警視総監は、一つずつ確認していった。
「その怪人は何をしていた?」
「人を襲ってました」
「あなたは?」
「…………」
男は一瞬、言葉に詰まった。
「最初は……俺も、なんとかしようと思ったんです」
拳を握る。
「でも、無理でした」
「無理?」
「怖かったんです」
男は、正直に言った。
「それだけじゃない」
「…………」
「途中で、若い男が来たんです」
東が男を見る。
「そいつが……強くて」
「怪人より?」
「分かりません。でも……俺とは全然違った」
男の声が、少しずつ小さくなっていく。
「怪人も怖かった。でも、その人も……俺には、よく分からなくて」
だから逃げた。
男は、そこまで隠さずに話した。
「ですが、この方は逃げる前に記録を残しています」
東が言った。
男がスマートフォンを取り出した。
「これです」
画面を開く。
写真。
一枚。
そして、もう一枚。
さらに短い動画。
「ネット上へ投稿されたものではありません。端末に残っていた元データです」
東はスマートフォンを受け取り、警視総監へ差し出した。
警視総監は黙って画面を見る。
写真を一枚。
次の一枚。
そして動画。
ブレている。
激しく。
白い何かがいることは分かる。
人影もある。
短い動画では、何かが動き回っている。
だが、撮影者の手も大きく震えていた。
やがて映像の中の男が走り出す。
画面が激しく揺れ。
そこで動画は終わった。
「…………」
警視総監はスマートフォンを机の上へ置いた。
「東」
「はい」
「君には、これがどう見える?」
「え?」
「この写真と映像だ」
東は画面へ目を落とした。
白い異形。
人影。
荒れた現場。
自分は知っている。
これが本物だと。
怪人はいる。
東自身も、その存在に襲われた。
だから、この男の証言も信じている。
だが。
もし。
何も知らず。
この映像だけを見せられたなら。
「…………」
東はしばらく画面を見つめていた。
そして。
「……特撮の撮影現場に見えます」
男が東を見る。
「え……?」
東は唇を噛んだ。
言いたくはなかった。
だが。
そう見えてしまう。
ブレた映像の中に映る、白い異形。
その周囲で動く人間。
何も知らない第三者なら。
怪人が実在する証拠ではなく。
着ぐるみを使った撮影現場だと言われた方が、まだ納得できる。
「……私にも、そう見える」
警視総監が言った。
「でも!」
男が身を乗り出した。
「本当にいたんです! 俺は見たんです!」
「あなたが嘘をついていると言っているわけではありません」
「だったら――!」
「この写真を見た人間全員に、同じことを信じさせられますか?」
「…………」
男は止まった。
「これを見せれば、怪人が実在すると誰もが認める。そう言い切れますか」
「それは……」
言葉が続かない。
「ネットへ投稿したものは消えています」
男は、それでも言った。
「俺だけじゃありません。他にもいたんです。写真を上げた人とか、見たって書いた人とか……」
「それも確認した」
「じゃあ!」
「現在は残っていない」
「だから、おかしいんですよ!」
男の声が大きくなった。
「俺は消してない! なのに消えてるんです! 何回上げても!」
「落ち着いてください」
東が静かに言う。
「…………すみません」
男は再び俯いた。
警視総監は机の上のスマートフォンを見る。
「投稿が不自然に消えている。それ自体は調査すべきことだろう」
「…………」
「しかし、それと怪人の実在を証明することは別だ」
東は何も言えなかった。
その通りだった。
おかしい。
間違いなく何かがおかしい。
それでも。
おかしいことと。
怪人がいることを証明できることは。
同じではない。
「東」
「はい」
「これでは足りない」
「…………」
目撃者がいる。
本人が証言している。
元のデータもある。
それでも。
足りない。
だが。
警視総監が間違っているとも言えなかった。
東自身。
この写真を見て。
特撮の撮影現場に見えると答えてしまったのだから。
「……分かりました」
東が静かに言った。
男が東を見る。
警視総監も、東を見た。
「もっと、はっきりした証拠が必要ということですね」
「そういうことになる」
「…………」
東は、しばらく考えた。
そして。
「分かりました」
もう一度、同じ言葉を口にする。
だが。
数日前とは、その意味が少し違っていた。
証言だけでは足りない。
写真でも足りない。
ブレた映像でも足りない。
なら。
誰にも否定できない証拠を。
怪人が、本当にいるという証拠を。
見つけなければならない。
「失礼します」
東は頭を下げた。
男とともに部屋を出る。
扉が閉まった。
廊下を歩きながら、男がおそるおそる口を開く。
「……すみません」
「なぜ謝るんですか」
「俺の写真が、もっとちゃんと撮れてたら……」
東は足を止めた。
「違います」
「え?」
「あなたは証言してくれました。それで十分です」
東は真っ直ぐ男を見る。
「足りないのは、あなたではありません」
そして。
再び歩き出す。
「証拠です」
東の頭の中には、まだ答えはない。
ただ一つ。
はっきりしたことがある。
今までと同じやり方では。
怪人の存在を、誰にも認めさせることはできない。
◇
後書き
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




