第五章 第九話 守る怪人
第五章 第九話 守る怪人
二箇所目。
新しいメモリーを組み合わせたキッドは、先ほどまでとは明らかに違う動きでネズミ型怪人へ迫った。
ヒクイドリの脚で一気に間合いを詰め、振り下ろされた拳を身体を沈めてかわす。そのまま懐へ潜り込み、カンガルーの腕で腹部へ拳を叩き込んだ。
怪人の身体が後ろへ押される。
「よし!」
だが、その横からシロアリ怪人が飛び込んでくる。
キッドは振り向かない。
頭部から伸びたゾウの鼻がしなり、シロアリ怪人の身体へ巻きつく。そのまま勢いよく横へ放り投げた。
「手が塞がってても使えるの、便利だな!」
別方向から、もう一体。
今度は鼻を横へ薙ぎ、飛びかかってきたシロアリ怪人の進路を強引に逸らす。
「そっちは任せた!」
言ってから、キッドが一瞬止まった。
「……いや、これも俺か」
考えている暇はない。
ネズミ型怪人の拳が迫る。
「おっと!」
今度は余裕を持ってかわした。
マングースのメモリーを胴体へ入れてから、身体を縛っていた重さはほとんど感じなくなっている。
ガスの影響は抑えられた。
だが、だからといって楽な相手になったわけではない。
ネズミ型怪人はキッドの蹴りをかわし、一気に懐へ潜り込んだ。
「っ!」
腹部へ一撃。
キッドが後ろへ下がる。
そこへ追撃。
腕で受ける。
さらに横からシロアリ怪人が迫るが、ゾウの鼻を伸ばして近づかせない。
「一対一ならまだしも……数が多いんだよ!」
キッドはヒクイドリの脚で地面を蹴り、ネズミ型怪人の攻撃をかわした。
着地した瞬間、そのまま近くのシロアリへ蹴りを叩き込む。
一体が倒れる。
続いて別の一体へ踏み込み、カンガルーの腕を振り抜いた。
シロアリ怪人が吹き飛ぶ。
その間に主怪人が迫るが、正面へ伸ばしたゾウの鼻が牽制し、簡単には近づかせない。
脚。
腕。
鼻。
それぞれを別々に使うのではなく、組み合わせる。
その感覚が、少しずつ分かってきた。
「なるほどな……こう使えばいいのか」
最後に残ったシロアリ怪人が飛び込んでくる。
ゾウの鼻がその身体を捕らえた。
「悪いけど――」
大きく振り回す。
「そっち行ってろ!」
投げ飛ばされたシロアリ怪人が地面を転がり、そのまま動かなくなった。
残ったのは、ネズミ型怪人だけ。
キッドが息を整える。
「やっと一対一だな」
怪人も低く構えた。
次の瞬間、二人が同時に走る。
拳をかわす。
キッドの拳は受け止められる。
蹴りを放てば、怪人は後ろへ跳んで逃れる。
キッドが追い、怪人も迎え撃つ。
何度もぶつかり合い、互いに攻撃を入れる。
それでも、もう身体の動きが鈍ることはなかった。
やがて、怪人が大きく腕を振る。
キッドはその下へ潜り込んだ。
「そこ!」
ゾウの鼻が伸び、怪人の胴体へ巻きつく。
「捕まえた!」
怪人が暴れ、鼻を引き剥がそうともがく。
その間にも、キッドはベルトへ手を伸ばしていた。
「このままやってても、まだ倒れそうにないしな」
脚のヒクイドリを外す。
代わりに装着したのは、ノミ。
脚部が変化する。
「だったら――上から行く!」
ゾウの鼻で怪人の動きを封じたまま、ノミの脚で地面を強く蹴った。
次の瞬間。
キッドの身体が一気に上空へ跳ね上がる。
ゾウの鼻が長く伸び、地上の怪人を拘束し続ける。
十分な高さまで上がったところで、キッドは頭部のゾウメモリーを外した。
拘束が解ける。
地上の怪人が体勢を立て直し、上を見る。
その遥か上では、キッドがすでに落下へ転じていた。
「まだ終わりじゃない!」
空中で脚のノミを外す。
再び、ヒクイドリ。
装着。
落下しながら脚部が変化する。
ノミの跳躍で稼いだ高さ。
そこから生まれる落下速度。
そして、ヒクイドリの蹴り。
キッドは空中で身体をひねり、怪人へ脚を向けた。
「これだけ高けりゃ――!」
地上のネズミ型怪人が動こうとする。
だが、遅い。
「避けられるなら、避けてみろ!」
一直線に落下する。
ヒクイドリの蹴りが、ネズミ型怪人へまともに突き刺さった。
轟音。
怪人の身体が地面へ叩きつけられる。
キッドは反動で前へ転がり、すぐに起き上がった。
構えたまま様子を見る。
ネズミ型怪人は動かない。
周囲にも、もうシロアリ怪人の姿はなかった。
「……今度こそ終わったな」
大きく息を吐く。
休みたいところだが、まだ終わりではない。
キッドはすぐに端末を取り出した。
『紀人君?』
東の声。
「東さん。こっちは終わりました」
通信の向こうからは、まだ戦闘音が聞こえている。
『分かった。じゃあ、そのまま三つ目に向かって』
「了解。場所は?」
東から位置が伝えられる。
『こっちから人を出した場所よ。今は避難も済んでるはずだけど、怪人はまだ残ってる』
「分かりました」
キッドはすぐに走り出した。
「次か……!」
休んでいる暇はなかった。
◇
一箇所目。
こちらの戦闘は、まだ終わっていない。
東たちは連携しながら、主怪人を少しずつ追い込んでいた。
北山が前へ出る。
ネズミ型怪人の拳を受け流し、空手の突きを腹部へ叩き込む。
怪人が僅かに下がったところへ、東が踏み込んだ。
レイピアの切っ先が走る。
怪人は身体をひねって避ける。
その先にはニシ。
「逃がすか!」
真正面から組みつき、怪人の動きを止めようとする。
だが、怪人は力任せにニシを振りほどいた。
「ぐっ!」
ニシが数歩下がる。
そこへ、遠距離から南浦の射撃。
銃弾が怪人の身体を捉えた。
確実に効いている。
傷も増えている。
それでも、倒れない。
北山の空手。
ニシのプロレス。
東のレイピア。
南浦の射撃。
近距離と遠距離を繋ぎ、何度も攻撃を重ねている。
追い込むことはできる。
ダメージも与えられる。
だが、決定打にはならない。
南浦は、それを誰より分かっていた。
だからこそ、一発しかない特殊弾にはまだ手を出さない。
撃つなら、確実に。
その一発で決められる時だけ。
そんな戦場に、アガトと、小柄で白っぽいメス型怪人も加わっていた。
ただし、二体は敵を倒そうとしているわけではない。
シロアリ怪人が北山の死角へ回る。
アガトが、その間へ入った。
攻撃をぎりぎりでかわしながら位置をずらし、北山から離れる方向へ誘導する。
北山が振り返る。
「……助けてくれたのか?」
その間にも、別のシロアリ怪人が負傷した隊員へ近づいていた。
今度はメス型怪人が走る。
隊員とシロアリ怪人の間へ入り、進路を塞いだ。
そこへニシが踏み込む。
「どけ!」
シロアリ怪人へ組みつき、そのまま身体を持ち上げる。
一気に地面へ叩きつけた。
シロアリ怪人が動かなくなる。
「今のうちだ!」
メス型怪人は倒れた敵を追わない。
すぐに負傷した隊員のもとへ向かい、その身体を支えると、戦闘から離れた安全な場所まで運んでいった。
東は、その姿を見ていた。
「……やっぱり」
戦っているのではない。
人を守っている。
川出も同じ光景を見ていた。
四箇所目で銃を下ろした判断は、少なくとも今のところ間違っていない。
「こいつも……人を助けてる」
その横で、南浦が主怪人から目を離さずに言う。
「だから何だ」
川出が南浦を見る。
「南浦」
「今こっちを襲ってない。それだけだろ」
北山も構えたまま言った。
「でも、助けてるぞ」
「だから何だって言ってんだ」
南浦の声は変わらない。
「怪人は怪人だ」
誰も、それ以上は続けなかった。
今は話し合っている場合ではない。
◇
別のシロアリ怪人が東へ向かう。
アガトが前へ出た。
攻撃をぎりぎりでかわしながら、東とは反対側へ誘導する。
「アガト、無茶しないで!」
東が思わず声を上げた。
川出が一瞬だけ東を見る。
「……東さん」
「何?」
「何でそいつをアガトって呼んでるんです?」
東が目を瞬いた。
「え?」
シロアリ怪人が戻ってくる。
北山が踏み込み、正面から蹴りを叩き込む。
怪人がよろめく。
東もレイピアで牽制する。
それでも東は、気になって仕方がない。
「何でって……この子、アガトでしょ?」
「いや。それ、名前じゃないですよ」
「え?」
今度は東の動きが止まりかけた。
「名前じゃない?」
「『ありがとう』って意味です」
「……え?」
東がアガトを見る。
アガトも東を見る。
「アガト」
「ほら!」
東が言う。
川出が返す。
「だから、それ『ありがとう』って言ってるんです!」
「ええっ!?」
ニシがシロアリ怪人を押さえ込みながら叫ぶ。
「今それやってる場合か!」
「そうだけど!」
東はまだ混乱している。
「じゃあ私、ずっと名前だと思って呼んでたの!?」
川出が聞き返した。
「ずっと?」
今度は川出が引っかかる。
「東さん、前からこいつと会ってたんですか?」
「そうよ!」
「俺たちもですよ!」
「俺たち?」
東の視線が川出から北山へ。
さらにニシへ。
ニシが怪人を投げ飛ばしてから答える。
「まあ……そういうことだ」
「三人とも!?」
別のシロアリ怪人が迫る。
川出が叫ぶ。
「話は後です!」
「そうね!」
東もすぐに構え直した。
少し離れた場所では、南浦が四人を見ている。
「……何なんだよ、お前ら」
答える者はいなかった。
◇
主怪人が距離を取った。
その手が動く。
東が気づく。
「来る!」
これまで何人もの人間を倒してきた薬剤。
東たちは防護マスクを装備している。
だが、主怪人が腕を上げた瞬間。
メス型怪人の様子が変わった。
川出が気づく。
「……?」
メス型怪人が主怪人へ走る。
攻撃するためではない。
薬剤を撒こうとしている腕へ飛びつき、必死に押さえ込む。
主怪人の腕が大きく逸れた。
放たれた薬剤が、誰もいない方向へ流れていく。
東が目を見開く。
「……止めた?」
主怪人がもう一度腕を上げようとする。
メス型怪人は離れない。
散布を邪魔するように、必死に腕を押さえ続けている。
川出も、その行動の意味に気づいた。
「こいつ……分かってるのか?」
何を撒けば、人間がどうなるのか。
知っている。
だから、止めている。
主怪人が苛立ったように腕を振り払った。
メス型怪人の身体が地面へ転がる。
アガトがすぐに駆け寄った。
攻撃することはない。
倒れたメス型怪人の前へ立ち、守るように身体を広げる。
南浦も、その光景を見ていた。
人を襲う怪人。
人を守る怪人。
同じネズミ型でありながら、まるで正反対の行動を取っている。
南浦は何も言わなかった。
◇
三箇所目。
キッドが現場へ到着した。
「ここか」
走ってきた足を止める。
妙に静かだった。
周囲を見回す。
人はいない。
警察官も、特殊装備の隊員たちも、一般人も、すでに現場から離れている。
だが、戦闘音だけは聞こえた。
「……?」
キッドが音の方向を見る。
ネズミ型怪人。
そして、もう一人。
何者かがいる。
二人だけ。
誰もいない場所で、正面から戦っていた。
ネズミ型怪人が飛び込む。
相手がかわす。
反撃。
怪人が受ける。
キッドは思わず足を止めた。
「誰だ、あいつ……」
ただ逃げ回っているわけではない。
明らかに戦えている。
それも、誰の助けも借りずに。
一人で。
「俺以外にも、一人で怪人とやり合えるやつがいるのか……?」
キッドが構える。
加勢しようと、一歩踏み出した。
その時だった。
何者かが大きく踏み込む。
強烈な一撃。
ネズミ型怪人の身体が宙へ浮いた。
そのまま大きく吹き飛ばされる。
地面へ叩きつけられ、何度か転がり、止まった。
動かない。
キッドが目を見開く。
「……倒した?」
目の前の何者かは、たった一人でネズミ型怪人を倒していた。
◇
一箇所目。
主怪人がゆっくりと立ち上がる。
その視線は、もう東たちには向いていなかった。
薬剤の散布を邪魔したメス型怪人。
同じネズミ型でありながら、自分の行動を止めた相手。
そこへ、明確な敵意が向けられていた。
川出が気づく。
「まずい!」
主怪人が飛び出す。
狙いは、メス型怪人。
アガトが、その前へ立った。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




