第五章 第七話 四つに分かれる
第五章 第七話 四つに分かれる
朝。
CASHの一室では、シラメ博士が机の上に置いた小さなケースを確認していた。
「……これでいいと思う」
ケースの中には、通常のものとは少し形の違う弾丸が一発だけ収められている。
南浦が手を伸ばそうとすると、シラメ博士が止めた。
「待って。説明してから」
「昨日も聞いた」
「完成したものを渡すのは今日が初めてだからね」
シラメ博士は弾丸へ目を落とす。
「これ一発しかない。外したら終わり。それに、急所に当てても本当に怪人を倒せるかどうかは分からない」
「完成したんじゃないのか」
「使える状態にはしたよ。でも、実戦で怪人に撃ち込んだことは一度もない。だから慎重に使って」
南浦は弾丸を手に取り、通常弾とは別のケースへ収めた。
「当てる」
「そういう問題だけじゃないんだけどなあ」
シラメ博士が小さく息を吐く。
南浦は何も答えなかった。
使えるのは一度だけ。
その時、部屋の外から慌ただしい足音が聞こえた。
扉が開く。
「東さん! 出ました!」
東がすぐに立ち上がる。
「場所は?」
報告されたのは、これまでの事件から予測していた条件に近い場所だった。
大きな街の中心部から少し外れた地域。
人通りはあるが、駅前や繁華街ほどではない。
東の表情が引き締まる。
「……来たわね」
次はある。
そう考えて準備していた。
それでも、実際に始まれば空気は一変する。
東は全員を見回した。
「マスク装備、確認して。今回は何を撒いてくるか分からないわ。ガス対策を忘れないで」
隊員たちが防護マスクを確認する。
南浦も特殊弾のケースを確かめた。
「行きましょう」
東の言葉と同時に、全員が動き出した。
◇
現場では、すでに何人もの人が倒れていた。
「こっちです!」
「救急車、もう一台!」
「歩ける人は向こうへ!」
車両が到着すると、一般隊員たちは防護マスクを装着したまま、すぐに負傷者の救護へ向かった。
「負傷者を優先! 動ける人から安全な場所へ!」
その一方で、東、川出、北山、ニシ、南浦の五人は現場の奥へ目を向ける。
逃げていく人々の中で、一人だけその場に立ち続けている人物がいた。
見た目は普通の人間。
周囲では人が倒れ、救急隊員や警察官が慌ただしく走り回っている。
それなのに、その人物だけが妙に落ち着いていた。
川出が目を細める。
「……あいつか?」
「まだ分からないわ」
東たちは慎重に近づいた。
「すみません」
東が声をかけようとした、その瞬間。
南浦が銃を上げた。
「南浦さん、待っ――」
銃声が響く。
人物の肩が跳ねた。
「南浦さん!」
東が振り向いた。
「まだ人間かもしれないでしょう!」
南浦は銃口を下げない。
「この状況で、こいつだけ平然としてる方がおかしい」
「だからって撃っていい理由には――」
東の言葉が止まった。
撃たれた人物が倒れない。
ゆっくりと南浦へ顔を向ける。
南浦がもう一発撃った。
命中。
それでも倒れない。
川出の表情が変わる。
「……普通じゃない」
人物の輪郭が揺れた。
顔も、身体も、服も歪み、人間の姿が剥がれるように消えていく。
その下から現れたのは、ネズミ型の怪人だった。
南浦が短く言う。
「ほらな」
東が睨んだ。
「結果論でしょう!」
その直後。
周囲から、いくつもの物音がした。
白い異形が次々と姿を現す。
シロアリ怪人。
さらに奥からも増えてくる。
「来るぞ!」
北山が武器を構える。
東が振り返った。
「救護はそのまま続けて!」
一般隊員たちは負傷者を運び続ける。
東たち五人は戦闘態勢へ移った。
ネズミ怪人が低く身体を沈める。
次の瞬間、一気に飛び出した。
◇
「右!」
川出の声に、ニシが身体をずらす。
ネズミ怪人がその横を駆け抜けた。
北山が射撃するが、怪人は身を翻してかわす。
その隙に、シロアリ怪人が距離を詰めてくる。
「そっち来るぞ!」
ニシが一体を迎え撃ち、川出も別のシロアリへ発砲する。
東も援護に回った。
南浦は少し離れた位置から主怪人の動きを追っている。
通常弾を撃ち込んでも、決定打にはならない。
だが、特殊弾にはまだ手を伸ばさなかった。
味方が近い。
怪人も動き続けている。
一発しかない以上、外すわけにはいかない。
その時。
東の端末が鳴った。
一瞬、嫌な緊張が走る。
「はい」
数秒間、報告を聞いた東の顔が強張った。
「場所は? ……分かった」
通信を切る。
川出が振り返る。
「出ました?」
「ええ。二つ目」
本当に、同じ形で来た。
南浦が怪人から目を離さずに言う。
「始まったな」
東は戦線から少しだけ離れ、周囲に聞かれない位置で別の番号へ連絡した。
◇
紀人のスマートフォンが鳴った。
「はい?」
『紀人君』
東の声を聞いた時点で、紀人には大体の事情が分かった。
「出たんですか?」
『ええ。二つ目』
「場所は?」
東から場所を聞く。
『一般の警察がもう向かってる』
「分かりました」
紀人はすぐに立ち上がった。
『気をつけて』
「はい」
短く答え、走り出す。
◇
二箇所目。
「止まれ!」
警察官たちが銃を構えていた。
道路の向こうに、一人の人物が立っている。
見た目は普通の人間。
だが、その足元には何人もの人が倒れていた。
手の周囲からは、薄い煙のようなものが広がっている。
「両手を見えるところに出せ!」
反応はない。
「聞こえてるのか!」
人物がゆっくりと振り返り、警察官たちへ手を向ける。
「撃て!」
銃声が響いた。
一発。
二発。
三発。
確実に命中している。
それでも倒れない。
さらに発砲する。
「当たってるぞ!」
「何で倒れない!」
人物は、銃弾など気にも留めていないように歩いてくる。
警察官たちは発砲しながら距離を取った。
「十発以上入ってるぞ!」
それでも止まらない。
人物が腕を振る。
一人の警察官が吹き飛ばされた。
「ぐっ!」
「下がれ!」
警察官たちは、ただ逃げるのではない。
牽制射撃を続けながら、少しずつ後退していく。
「負傷者を後ろへ!」
「住民を逃がせ!」
「撃ちながら下がれ!」
そこへ紀人が駆け込んできた。
「大丈夫ですか!」
警察官の一人が振り返る。
「一般人は来るな!」
直後、人物の拳が紀人へ飛んだ。
紀人は横へかわす。
拳が壁へ叩き込まれ、鈍い音が響いた。
「……こいつ」
人間ではない。
それは、もう見れば分かる。
だが、まだ変身はできない。
周囲には警察官がいる。
紀人は攻撃をかわしながら、警察官たちと同じように後退していく。
逃げるように見せながら、隙を見つけて蹴りを叩き込んだ。
相手の身体が僅かに揺れる。
警察官の一人が目を見開いた。
「一般人……だよな?」
「何なんだ、あいつ」
紀人は構わなかった。
今は、警察が安全に下がるまで時間を稼ぐ。
人物が突進してくる。
紀人は横へかわし、そのまま後方へ走った。
警察官から見れば、紀人も一緒に撤退しているようにしか見えない。
「そっちも早く逃げろ!」
「はい!」
返事をしながら角を曲がる。
警察側から紀人の姿が消えた。
「一般人も抜けた!」
「よし、こっちも下がるぞ!」
警察官たちは発砲と後退を繰り返しながら、負傷者を回収し、残っていた住民を避難させる。
「全員乗ったか!」
「はい!」
一台。
もう一台。
最後の警察車両も現場から離れていった。
やがて辺りが静かになる。
少しして。
逃げたはずの紀人が、建物の陰から顔を出した。
「……行ったな」
周囲を確認する。
誰もいない。
紀人は現場へ戻った。
人間姿の敵がこちらを見る。
「悪いな」
紀人が腰へ手を回した。
「逃げたと思った?」
ベルトを装着。
構える。
「配信開始!」
紀人の身体がキッドへと変わる。
その姿を見た相手も、擬態を解いた。
人間の輪郭が崩れ、ネズミ型の怪人が姿を現す。
紀人はすぐに構えた。
初めて見るネズミ型怪人。
大きな身体。
隙のない立ち方。
ただ立っているだけでも、重い圧を感じる。
「……こいつ、かなりやりそうだな」
その時。
周囲から白い影が現れた。
シロアリ怪人。
一体。
二体。
三体。
さらにいる。
「……うわ」
主怪人とシロアリ。
全部、自分一人で相手をしなければならない。
「こういう時くらい、CASHいてくれよ……」
ネズミ怪人が突進してくる。
紀人が構えた。
「仕方ねえ!」
真正面からぶつかった。
◇
一箇所目。
東たちの戦闘も続いていた。
主怪人は徐々に追い込まれている。
だが、シロアリ怪人が次々と割って入り、決着まで持ち込ませてくれない。
川出が一体を撃ち抜く。
「まだ来る!」
ニシが叫び、北山が援護する。
東も前へ出た。
南浦は主怪人を追い続けている。
特殊弾は、まだ使わない。
その時。
再び東の端末が鳴った。
「はい」
報告を聞いた東が小さく息を吐く。
「……分かった」
通信を切る。
北山が聞いた。
「三つ目ですか?」
「ええ」
南浦が短く言う。
「予定通り過ぎるな」
東は救護に当たっていた一般隊員を見る。
「救護班!」
数人が振り返る。
「三つ目が出た!」
「はい!」
「ここの救護は?」
「消防へ引き継げます!」
「なら向かって!」
場所を伝える。
「無理に戦わなくていいわ。現場確認と避難、それから負傷者の救助を優先して!」
「了解!」
特殊装備の隊員たちが車両へ走る。
救護班を乗せた車両が現場から離れていった。
東は、その背中を一瞬だけ見送る。
最初の現場では、自分たちがまだ戦っている。
二つ目には、すでにキッドが向かっている。
そして今。
三つ目にも人を出した。
一つ事件が増えるたびに、こちらの手が一つずつ減っていく。
「……本当に」
東が小さく呟いた。
「分けられてる」
川出がシロアリを撃ちながら返す。
「分かってても、行かないわけにいかないですからね!」
その通りだった。
罠だと分かっている。
それでも、助けを求める人がいる以上、放っておくことはできない。
◇
三箇所目。
特殊装備の隊員たちを乗せた車両が到着した。
現場にいた警察官の一人が、その装備を見て目を見張る。
「……何だ、あれ」
別の警察官も一瞬だけ目を向けた。
通常の警察とは明らかに違う装備。
だが、確認している暇などない。
車両から降りた隊員たちは、そのまま負傷者のもとへ走った。
「歩ける人は安全な場所へ!」
「倒れてる人を優先!」
現場の奥には、一人の人物が立っている。
今回も人間の姿。
隊員の一人が目を向けた。
「……あいつか」
だが、主怪人を倒すために来たわけではない。
今は、助ける。
逃がす。
そして、時間を稼ぐ。
「近づきすぎるな!」
「救護優先!」
隊員たちは役割に徹した。
◇
一箇所目。
東の端末が、さらに鳴った。
東が一瞬だけ動きを止める。
「……まさか」
通信を取る。
「はい」
今度はガスではない。
現時点で負傷者もいない。
ただ一件。
怪人が現れた。
その報告だった。
東が目を閉じる。
「……四つ目」
北山が振り返る。
「出たんですか?」
「ええ」
川出が聞く。
「被害は?」
「今のところなし」
ここでは、まだ戦闘が続いている。
救護班はすでに三つ目へ向かった。
もう余裕はない。
東が川出を見る。
川出も察した。
「俺が行きます」
北山が言う。
「一人で?」
「被害は出てない。確認だけなら何とかなる」
東は迷った。
だが、他に人はいない。
「危険だと思ったら」
「戻ります」
「絶対よ」
川出が頷き、走り出した。
また一人。
現場から人が減った。
◇
四箇所目。
川出が到着する。
思っていたより静かだった。
人はいる。
だが、逃げ惑うほどの騒ぎではない。
倒れている人もいない。
壊されたものもない。
「……どこだ?」
周囲を見回す。
そして。
少し先に見つけた。
一体の、小柄な怪人。
白っぽい身体。
川出の頭に、これまでの証言が浮かぶ。
小柄。
白っぽい。
怖い感じではなかった。
「……こいつか」
女性型のハツカネズミ怪人。
怪人も川出を見る。
川出は銃を構えた。
だが、撃たない。
女性型怪人も襲ってこない。
数秒間。
互いに動かない。
川出が少しだけ銃口を下げる。
「お前、何してる?」
返事はない。
その時。
別方向から足音が聞こえた。
何かが走ってくる。
川出が振り向く。
「……え?」
見慣れた姿。
「お前」
アガト。
「何でここに」
だが。
アガトは川出のところへは来なかった。
そのまま女性型怪人へ走っていく。
そして。
彼女と川出の間に入った。
身体を広げるように立つ。
まるで。
彼女を庇うように。
川出の銃口が、さらに下がった。
「……お前」
アガトを見る。
女性型怪人を見る。
そして、もう一度アガトを見る。
「そいつの……仲間なのか?」
アガトは。
川出から目を逸らさなかった。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




