第五章 第六話 見つけるな、見つけろ
第五章 第六話 見つけるな、見つけろ
翌日。
CASHの部屋。
壁には、大きな地図が貼られていた。
そこには、これまで事件が起きた場所が、いくつもの印で示されている。
原因不明の体調不良が発生した場所。
ネズミ型の怪人が目撃された場所。
一回目。
二回目。
三回目。
東。
川出。
北山。
ニシ。
南浦。
シラメ博士。
そして数人の隊員が、その地図を囲んでいた。
川出が一つの印を見る。
「こうして全部並べると……」
北山が聞く。
「何かある?」
「場所そのものはバラバラなんだけど」
川出は一つの地点を指した。
「ここ」
次。
「ここも」
さらに別の印。
「こっちも」
ニシが地図を覗き込む。
「何が同じなんだ?」
「中心から、ちょっと外れてる」
「中心?」
川出が頷く。
「大きな駅とか、代表的な繁華街そのものじゃない」
東も地図を見る。
「でも、完全に人が少ない場所でもないわね」
「そうなんです」
川出は続ける。
「人通りはある。でも、駅前みたいにごった返してはいない」
北山が別の地点を見る。
「こっちもそうだ」
ニシも頷く。
「確かに」
大きな街。
その中心部から、ほんの少しだけ外れた場所。
人はいる。
店もある。
住宅もある。
だが、一番人が集まる場所ではない。
南浦が短く言った。
「選んでるな」
東が振り返る。
「どうしてそう思うの?」
「人が多すぎれば、騒ぎになるのも早い」
南浦は地図を指した。
「警察も消防もすぐ集まる」
次の印を見る。
「逆に、人がいなきゃ薬を撒く意味がない」
東の表情が僅かに変わった。
「……薬を試すには、ちょうどいい?」
「そういうことだろ」
シラメ博士も地図へ近づいた。
「僕も、その可能性は高いと思うよ」
「博士も?」
「うん」
シラメ博士が言う。
「前回、場所によって症状にかなり差があったでしょう?」
軽い痺れ。
重症。
死亡。
同じような事件なのに。
結果がまるで違った。
「人への影響を調べたいなら、ある程度の人数は必要。でも、人が多すぎるといろんな条件が混ざるし、対応も早くなる」
ニシが顔をしかめる。
「だから、中心から少し外れた場所」
「そう考えると筋は通るね」
川出が呟く。
「サンプルは取れる」
北山が続ける。
「でも、中心街より警察が集まるまで時間がかかる」
東は地図に並ぶ印を見つめた。
「最初から、場所まで選んでる……」
ただ事件を起こしているわけではない。
どこで。
何人くらいを相手に。
どの程度の薬を使うのか。
そこまで考えられている可能性がある。
◇
次に。
川出が発生時刻をまとめた資料を机に広げた。
「もう一つあります」
一回目。
二回目。
三回目。
どの回も。
最初の通報から、最後の怪人目撃まで。
およそ二時間以内。
「毎回、三箇所で体調不良」
北山が言う。
「それと、一箇所でネズミ怪人」
ニシが腕を組む。
「三回とも同じ形」
南浦が言った。
「四匹いる」
川出が見る。
「四匹?」
「三箇所で撒いてる奴が三匹」
南浦は指を一本ずつ立てる。
「一」
「二」
「三」
そして。
四本目。
「別の場所に出る奴」
北山が考える。
「……四体か」
東も、すぐには否定しなかった。
「可能性はかなり高くなったと思う」
ニシが怪人目撃の資料を見る。
「でも、四体目だけ妙なんだよな」
「人を襲ってない」
川出が言う。
「それどころか、毎回助けてる」
南浦は短く返した。
「だからって味方とは限らない」
川出が南浦を見る。
「被害は出してない」
「今はな」
南浦は、それだけだった。
その言葉に。
東。
川出。
北山。
ニシ。
四人の空気が、ほんの少しだけ固くなった。
◇
ネズミ型怪人の捜索は、本格的に始まった。
ただし。
通常の警察が探しているのは、ガス事件に関与している可能性のある不審人物。
CASHが考えているような、人間に擬態する怪人。
そんな存在を、警察本部全体が信じているわけではない。
防犯カメラ。
目撃証言。
路地裏。
公園。
地下道。
空き地。
下水道の出入口。
様々な場所を調べていく。
だが。
川出。
北山。
ニシ。
三人には、困った問題があった。
地図を見ていた川出の指が、ある場所の手前で止まる。
「……ここは後にするか」
北山が見る。
「何で?」
「いや」
「何で?」
もう一度聞かれた。
川出が答える。
「人通りも、そんなに多くないし」
ニシが地図を見る。
そして。
川出を見る。
「そこ」
「何だよ」
「俺たちが、あいつとよく会う辺りだろ」
「……」
川出が黙る。
北山も気づいた。
「あ」
ニシがため息をつく。
「避けようとしてない?」
「……お前だって避けたいだろ」
川出が返す。
「そりゃ避けたい」
「だろ」
北山が二人を見る。
「でも、犯人は探さないと駄目だぞ」
「分かってる」
川出は地図を見る。
犯人は、見つけなければならない。
だが。
あのネズミ怪人だけは。
できれば見つかってほしくない。
ニシが苦笑する。
「無茶苦茶だな」
「何が?」
「見つけるために探してるのに」
地図を見る。
「一匹だけ、見つけるなって思ってる」
三人が少しだけ黙った。
川出が言う。
「あいつは違う」
北山も頷いた。
「ああ」
ニシも。
「分かってるよ」
◇
東も、同じ問題を抱えていた。
捜索区域を決める。
その中には、アガトが現れることの多い場所も含まれている。
東の手が止まる。
ここを外す。
それは簡単だった。
でも。
警察官として。
個人的な感情だけで捜索範囲を変えるわけにはいかない。
安全だと証明されたわけではない。
東は小さく息を吐く。
そして。
地図に印をつけた。
「……ここも確認しましょう」
その声は、いつも通りだった。
◇
その日の夕方。
紀人は、東から連絡を受けていた。
『ネズミ型の怪人を、本格的に探すことになったわ』
「……アガトも?」
『見つかれば、確認対象にはなると思う』
紀人が少し黙る。
「じゃあ俺、行ってきます」
『どこへ?』
「アガトのところ」
『何するの?』
「今日は出てくるなって言ってきます」
少し間。
東が聞く。
『……伝わる?』
「そこなんですよね」
紀人自身。
それが一番不安だった。
◇
いつもの公園。
「アガト!」
しばらくして。
植え込みの向こうから、見慣れた姿が出てきた。
「いた」
アガトは、いつものように紀人へ寄ってくる。
「いいか」
紀人はしゃがんだ。
「今日はあんまり出歩くな」
アガトが首を傾げる。
「警察がネズミ探してるんだ」
アガトが片言で返す。
「ネズミ」
「そう」
紀人は頷く。
そして。
一瞬止まった。
「……お前だよ」
アガトが自分を指した。
「いや!」
紀人が慌てる。
「お前が犯人って意味じゃない!」
アガト。
「……?」
「違う違う」
紀人は頭を抱える。
「ネズミの怪人を探してるんだって」
アガトが、もう一度。
「ネズミ」
「そこだけ覚えなくていいから!」
紀人がため息をつく。
言葉を変える。
「警察」
アガトを見る。
「危ない」
「……」
「今日は」
地面を指す。
「ここ」
「……」
「ここにいる」
少し間。
アガトが小さく頷いた。
紀人の表情が明るくなる。
「お、分かった?」
アガトが、公園の出口へ向かって歩き始めた。
「分かってねえじゃん!」
紀人が追いかける。
「逆! 逆!」
アガトを連れ戻す。
「ここ!」
地面を指す。
「頼むよ……」
アガトは。
やっぱり。
よく分かっていないようだった。
◇
その少し後。
紀人が帰った公園へ。
川出。
北山。
ニシ。
三人がやってきた。
「いた」
川出がアガトを見つける。
アガトも三人に気づき、近づいてきた。
川出がしゃがむ。
「お前、今日はここから出るなよ」
アガトが見る。
北山が言う。
「分かるか?」
「……」
ニシが首を傾げる。
「分かってないだろ」
川出が言葉を選ぶ。
「警察」
アガトが見る。
「危ない」
アガトが。
ぽつり。
「ネズミ」
三人が止まった。
「……」
北山が聞く。
「何でネズミだけ覚えてるんだ?」
ニシがアガトを見る。
「誰か、もう同じ説明したんじゃないか?」
川出も少しだけ首を傾げる。
当然。
三人は知らない。
つい先ほど。
紀人も、まったく同じ苦労をしていた。
◇
CASHへ戻ったシラメ博士は、これまでの事件資料を確認していた。
東が隣に立つ。
「どう?」
「嫌な結果だね」
「やっぱり?」
「うん」
シラメ博士が画面を切り替える。
軽症。
重症。
死亡。
「同じ薬剤を、同じ量で使ってるとは思いにくい」
「濃度?」
「濃度か量。たぶん、その両方を変えてる」
東が資料を見る。
「実験してる可能性は?」
「高いと思うよ」
シラメ博士が答える。
「それに」
「うん?」
「まだデータを取ってる途中なら」
東の顔を見る。
「またやると思う」
東の表情が変わる。
「……次がある」
「僕なら、まだ続ける」
シラメ博士は言った。
「前回の結果だけで終わるとは思えないね」
◇
CASHの全員が、再び集められた。
東が地図を広げる。
「次も、同じ形で来る可能性があると思う」
川出が聞く。
「三箇所と、一箇所?」
「ええ」
東は頷く。
「問題は」
地図を見る。
「私たちだけでは、四箇所を同時に対応できないこと」
南浦が短く言った。
「人数が足りない」
「そうなの」
CASHは、警察全体から見ればごく小さな集団。
四地点へ、十分な戦力を同時に送ることはできない。
ニシが聞く。
「じゃあ、どうする?」
東は少し考えてから答える。
「まず、一件目には私たちが集中して向かう」
北山が頷く。
「全員で?」
「基本はね」
東は続ける。
「二件目、三件目が起きたら」
地図を指す。
「まずは通常の警察に向かってもらう」
川出が聞く。
「大丈夫ですか?」
「戦わせるためじゃないわ」
東が答える。
「現場確認。住民の避難。可能なら対象の足止め」
少し間を置く。
「それだけでも時間は作れる」
南浦が言う。
「怪人だったら、普通の装備じゃ止まらないぞ」
「分かってる」
東もそこは否定しない。
「だから、無理に交戦はさせない。危険だと判断したら退いてもらう」
ニシが腕を組む。
「それでも多少は被害が出るかもな」
部屋が静かになる。
東が頷いた。
「その可能性はあるわ」
だが。
他に手段はない。
CASHを最初から四つに分ければ、一箇所ごとの戦力が弱くなりすぎる。
なら。
最初の現場へ集中。
他の地点は通常警察が。
偵察。
避難。
時間稼ぎ。
その間にCASH側で対応を終え、次へ向かう。
川出が地図を見る。
「一極集中して」
北山が続ける。
「必要になったら、少しずつ対応を広げる」
「そういうことね」
東が答えた。
南浦は、地図から目を離さない。
「相手の狙い通りかもしれないな」
東が見る。
「どういうこと?」
「毎回」
南浦は指を動かした。
一箇所。
二箇所。
三箇所。
四箇所。
「短い時間で、別の場所に出る」
川出の表情が変わる。
「……こっちを分けさせるため?」
北山も地図を見る。
「薬の実験だけじゃなく?」
ニシが言う。
「CASHの動きまで見てる?」
東はしばらく答えなかった。
相手がこちらの存在を知っている。
それ自体は不思議ではない。
これまで、何度も怪人事件へ介入している。
「……あり得るわね」
東が言った。
「薬のデータを取ることと」
地図を見る。
「私たちの対応を分散させること」
川出が言う。
「両方が目的」
「そうかもしれない」
南浦が短く言った。
「なら、次は気を抜けないな」
◇
その夜。
CASHの一室。
シラメ博士が、一人で作業していた。
机の上。
小さなケース。
その中には、一発の弾丸。
通常のものとは、少し形が違う。
扉が開く。
南浦が入ってきた。
「まだやってたのか」
「南浦さんこそ」
シラメ博士は作業を続ける。
南浦がケースを見る。
「それ」
「うん」
「例のやつか」
「まだ試作品だけどね」
南浦が弾丸を見る。
「効くのか?」
シラメ博士は少しだけ考えた。
「分からない」
南浦の眉が動く。
「分からない?」
「実戦では一度も試してないからね」
「使えなきゃ意味ない」
「だから、使えるようにしてるんだよ」
シラメ博士は苦笑する。
南浦がケースを見る。
「一発?」
「今はね」
「外したら終わりか」
「その通り」
シラメ博士が答える。
「しかも」
弾丸を見る。
「急所に当てても、本当に怪人を倒せるかは分からない」
南浦は、しばらく黙っていた。
そして。
短く言う。
「当てるのは俺の仕事だ」
シラメ博士が見る。
「まだ渡さないよ」
「何でだ」
「完成してないから」
シラメ博士は、また手元へ視線を戻した。
「使うなら、ちゃんと使える状態にしてからね」
南浦は何も言わなかった。
◇
同じ頃。
地下施設。
四体のネズミ怪人が並んでいた。
ドブネズミ怪人。
戦闘的なハツカネズミ怪人。
超・ドブネズミ怪人。
そして。
女性型のハツカネズミ怪人。
男が端末を操作している。
これまでの結果。
薬剤量。
濃度。
散布量。
被害。
四体それぞれの数字。
一体目。
設定を変更。
二体目。
変更。
三体目。
変更。
そして。
四体目。
男の手が止まった。
女性型ハツカネズミ怪人。
二度続けて、薬剤の使用量が極端に少ない。
男が怪人を見る。
「次は」
少し間を置く。
「ちゃんと使え」
女性型ハツカネズミ怪人は黙っていた。
「二回続けて、まともなデータが取れてない」
端末を見る。
「次で分かる」
何が分かるのか。
男は、それ以上言わなかった。
新しい設定が四体へ与えられる。
そして。
ネズミ怪人たちは。
次の指示を待つように。
静かに並んでいた。
※本作は、作者とChatGPTが合作しながら制作しています。物語の根幹となる設定・構成・キャラクター・展開は作者が主体となって制作し、AIが生成した文章についても作者が確認・修正・全面的な推敲を行っています。作品としての最終的な判断と責任は、すべて作者にあります。




