第五章 第四話 二時間で四件
第五章 第四話 二時間で四件
数日後。
午前十時過ぎ。
最初の通報が入った。
住宅街に近い商店通り。
買い物客や店員が、次々と身体の異変を訴え始めた。
「手が……痺れる……」
「大丈夫ですか?」
「足にも力が……」
一人。
また一人。
その場にしゃがみ込む。
ほどなくして、救急車と消防車が到着した。
症状は、前回とよく似ている。
手足の痺れ。
吐き気。
脱力感。
警察にもすぐ情報が回った。
「またか」
報告を受けた警察官が顔をしかめる。
「前の件と同じ症状です」
「ガス設備は?」
「消防が確認中です」
「前と同じなら、何も出ないかもしれないな」
「一応、周辺を封鎖します」
警察の動きも、前回より早かった。
一度なら。
原因不明の事故。
だが。
同じことがもう一度起これば、話は変わってくる。
そして。
その三十分ほど後。
別の地域から、新たな通報が入った。
◇
「こちらでも複数人が倒れています!」
二つ目の現場。
最初の場所からは、かなり離れていた。
症状は、ほぼ同じ。
「また手足の痺れ?」
「はい」
「気分が悪いという人も複数います」
「発生源は?」
「まだ分かりません」
警察本部の空気が変わる。
「同じ日に二箇所……」
「偶然か?」
「分からん」
「前の事件も入れれば、もう三件目だぞ」
担当者が地図を広げた。
最初の現場。
二つ目の現場。
二地点は離れている。
同じ設備。
同じ配管。
そうした説明では繋がらない。
「誰かが撒いてるんじゃないのか?」
「テロ?」
「まだそこまで言えない」
だが。
その可能性を、誰も笑わなくなっていた。
◇
さらに。
一時間も経たないうちに、三件目。
今度は駅から少し離れた繁華街。
「またです!」
警察本部の男が立ち上がった。
「症状は?」
「同じです!」
「何人?」
「今のところ十人以上!」
「……」
最初の通報から、まだ二時間も経っていない。
その短い間に三箇所。
いずれも。
手足の痺れ。
吐き気。
脱力感。
そして。
原因不明。
「偶然じゃないな」
誰かが言った。
今度は。
誰も否定しなかった。
◇
同じ頃。
さらに別の場所。
こちらでは、人が倒れてはいなかった。
代わりに。
通報内容が、まるで違った。
「怪人がいた?」
「はい」
電話を受けた警察官が聞き返す。
「ネズミみたいな……その、怪人です!」
「また怪人か」
「本当に見たんです!」
「何かされた?」
「いや……」
「暴れた?」
「それも……」
「誰か怪我した?」
「いません」
警察官は眉を寄せた。
「じゃあ、何してたんだよ」
「それが……」
通報者は少し迷ってから答えた。
「倒れた人を、起こしてたように見えました」
「は?」
「転んだ人を助けてたっていうか……」
警察官は、ますます分からなくなった。
「怪人が?」
「はい」
「……」
しばらくして。
その情報もCASHへ回された。
◇
CASH。
机の上には、四枚の報告が並んでいた。
東が時間を確認する。
「最初が十時十二分」
次。
「二件目が十時四十三分」
次。
「三件目が十一時二十八分」
川出が四件目を見る。
「怪人の目撃が十一時五十分頃」
北山が時計を見る。
「全部、二時間以内か」
「そうなるわね」
東が答える。
ニシが地図を覗き込む。
「しかも場所は全部別」
南浦が腕を組んだ。
「偶然じゃないだろ」
東は黙って地図を見る。
三箇所。
ガスのような原因不明の症状。
そして。
もう一箇所。
ネズミ型怪人の目撃。
東が静かに言う。
「前の時も、似たような時間帯にいくつか情報が出てたのよね」
川出が顔を上げる。
「じゃあ」
「ええ」
東は四枚の報告書を見る。
「一件ずつ別に考えない方がいいのかもしれない」
南浦が短く言った。
「四件で一つ」
東が南浦を見る。
「そう考えると、かなり不自然な一致ではなくなるわね」
北山が地図を見る。
「わざと複数の場所で?」
「可能性はあるわ」
「でも、何のために?」
東はすぐには答えなかった。
まだ、そこまでは分からない。
ただ。
何者かが意図的に。
短い時間の中で。
複数の事件を起こしている。
その疑いは、確実に強くなっていた。
◇
三箇所の防犯映像が集められた。
一件目。
画面の中。
一人の人物が、人の流れから少し外れた場所に立っている。
「ここね」
東が映像を止める。
人物が腕を上げる。
手を前へ。
その直後。
周囲に煙のようなものが広がる。
二件目。
同じように、人間に見える人物。
だが。
一件目とは服装が違う。
川出が画面を切り替える。
「こっちは体格も違う」
北山が映像を見比べる。
「着替えただけじゃない?」
「それにしては違いすぎる」
川出が答える。
「身長も違う」
三件目。
また別の人物。
ニシが呟く。
「三人?」
「そう見えるな」
川出が答えた。
南浦は三つの映像を順番に見る。
「三人いるなら、それだけの話だ」
東が見る。
「まだ人間かどうかも分かってないわ」
「人間が手からガスを出すよりは、怪人の方が話は早い」
「それはそうだけど」
東は映像を止めた。
三人とも、姿は違う。
だが。
共通しているものがある。
手を前へ向ける。
その直後。
煙。
「動きは似てるわね」
東が言った。
北山も頷く。
「同じ方法で散布してるようには見えます」
川出が腕を組む。
「複数犯……」
ニシが続ける。
「それも、同じやり方をする複数犯」
南浦が短く言った。
「組織的だな」
誰も否定しなかった。
◇
それぞれの現場から、証拠も集められた。
そして。
また。
毛が見つかった。
川出が証拠袋を机に並べる。
「一件目」
一本。
「二件目」
別の一本。
「三件目」
さらに、もう一本。
北山が覗き込む。
「全部ネズミっぽい」
「でも」
ニシが見比べる。
「少し違わないか?」
色。
太さ。
長さ。
完全には同じではない。
川出が言う。
「一匹から落ちた毛とは思いにくい」
南浦が即座に言った。
「なら三匹だ」
東が苦笑する。
「相変わらず早いわね」
「三箇所。三人。毛も三種類」
南浦は淡々としている。
「それ以上、何がいる」
「証拠として確定するには、まだ足りないってこと」
「そうか」
南浦はそれ以上言わない。
ただ。
CASHの中でも。
誰も。
複数のネズミ型怪人という可能性を、簡単には否定できなくなっていた。
◇
一方。
四箇所目。
CASHは改めて目撃者から話を聞いた。
「怪人が出たのは間違いない?」
川出が尋ねる。
「はい」
若い男性が答える。
「ネズミみたいなやつでした」
「何かしました?」
「いや……」
男性は首を振った。
「俺も最初は逃げようとしたんです」
「それで?」
「前を歩いてた人が転んで」
「怪人が襲った?」
「逆です」
川出の目が少し動く。
「逆?」
「怪人が、その人を起こしてたんです」
北山。
ニシ。
二人も表情を変える。
別の目撃者も言った。
「子供が泣いてたんですけど」
「はい」
「危ないところから離れるようにしてたと思います」
「襲ってはいない?」
「見た限りは」
また。
人を助けている。
川出。
北山。
ニシ。
三人の頭には、当然、同じネズミ怪人が浮かぶ。
そして。
少し離れた東も、同じことを考えていた。
アガト。
だが。
今回。
三箇所から、違う種類にも見えるネズミの毛が出ている。
川出が小さく呟いた。
「……別なのか?」
北山が川出を見る。
「何が?」
「いや」
川出は首を振る。
東は、そのやり取りを横目で見た。
何かが引っかかった。
だが。
今は聞かなかった。
◇
その日の夕方。
東は紀人へ連絡した。
パンさんの店。
今日は周囲に聞かれないよう、少し離れた席。
「三箇所?」
紀人が驚く。
「ええ。短い時間の間にね」
「全部、同じような症状?」
「そう」
東が頷く。
「それと、三箇所ともネズミの毛みたいなものが見つかったの」
紀人の表情が曇る。
「でも」
東は続ける。
「少しずつ違うみたいなの」
「違う?」
「色とか、太さとか」
紀人が考える。
そして。
少しだけ顔を上げた。
「じゃあ」
「うん?」
「アガトじゃないかもしれないってことですよね」
東は少し間を置いた。
「その可能性は、前より高くなったと思う」
紀人の顔が少しだけ明るくなる。
「やっぱり」
「でも」
東が続けた。
「まだ完全に無関係だとは言えないわ」
「……」
「別の場所では、また人を助けるネズミみたいな怪人も目撃されてるの」
紀人が眉を寄せる。
「それはアガトっぽい」
「そうなのよね」
東も困ったように笑った。
悪いことをしているように見えるネズミ。
人を助けているネズミ。
同じなのか。
違うのか。
一体なのか。
複数なのか。
少しずつ。
分かってきたようで。
まだ何も分かっていなかった。
◇
その日の夜。
人のいない地下。
重い扉が閉じる。
一人の人間が入ってくる。
その身体が揺れた。
輪郭が崩れる。
人間の姿が、剥がれるように消えていく。
現れたのは。
ドブネズミ型の怪人。
続いて。
別の人間が入ってくる。
同じように擬態を解く。
戦闘的な姿をしたハツカネズミ怪人。
さらに。
大きな人影。
人間の姿が崩れ。
重装甲のような身体を持つ、超・ドブネズミ怪人へと変わる。
そして。
最後。
もう一人。
小柄な人影が入ってくる。
擬態が解ける。
現れたのは。
白く。
どこか愛嬌のある。
女性型のハツカネズミ怪人だった。
四体。
全員が戻っていた。
少し離れた場所。
男が端末を見ている。
画面には、数字が並んでいた。
それぞれの個体。
薬剤の残量。
使用量。
散布量。
男が画面を指で送る。
「一番目……問題なし」
次。
「二番目も悪くない」
さらに。
「三番目……」
少しだけ手を止める。
そして。
四番目。
男の眉が僅かに動いた。
「……こいつだけ減りが遅いな」
女性型ハツカネズミ怪人を見る。
怪人は何も言わない。
男は端末へ視線を戻した。
「散布量が足りないか」
数字を確認する。
「これじゃサンプルが取れないな」
少し考える。
そして。
設定を変更した。
「次は、少し濃くするか」
薬剤の濃度。
量。
散布条件。
四体を動かすたびに。
データは増えていく。
どれほど使えば。
どれほど人間に効くのか。
どの程度なら動けなくなるのか。
男にとって。
街で起きていることは。
恐怖でも。
悲劇でもなかった。
ただの。
実験結果だった。
そして。
四体のネズミ怪人は。
次の指示を待つように。
静かに。
そこに並んでいた。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




