閑話 アガト
閑話 アガト
足音が遠ざかっていく。
夕方の公園。
木々の間を抜けていく川出の姿が、少しずつ小さくなり、やがて見えなくなった。
それでも、何も起きない。
風が吹き、葉が揺れる。
ベンチのそばには、小さな袋が一つ。
パンさんの店で買った焼き菓子。
川出が置いていったもの。
誰もいない公園に、それだけが残されていた。
しばらくして。
がさっ。
茂みが揺れた。
だが、何も出てこない。
また静かになる。
少しして、今度は木の陰から何かがほんの少しだけ顔を出した。
ネズミ怪人。
顔だけを覗かせ、右を見る。
左を見る。
川出が歩いていった方向を見る。
動かない。
待つ。
もう一度、右。
そして左。
誰もいない。
ようやく一歩、木の陰から出た。
すぐに止まり、周囲を見る。
もう一歩。
また止まる。
その視線の先にあるのは、ベンチのそばの小さな袋。
ネズミ怪人はゆっくりと近づいた。
だが、すぐには触らない。
しゃがんで、じっと見る。
袋の右側へ回る。
見る。
左側へ回る。
また見る。
そして鼻を近づけた。
すん。
すんすん。
甘い匂い。
ネズミ怪人の鼻が動く。
もう一度。
すんすん。
今度は少し長い。
袋へ手を伸ばす。
触れる直前で止まり、引っ込める。
また周囲を見る。
誰もいない。
もう一度、手を伸ばした。
今度は触った。
何も起きない。
ネズミ怪人は袋を持ち上げ、軽く振ってみる。
中で、かさっと音がした。
「……?」
首を傾げる。
袋を開け、中に入っていた焼き菓子を一つ取り出した。
見る。
匂いを嗅ぐ。
そして、少しだけかじった。
「……!」
動きが止まる。
もぐ。
もぐ。
もう一口。
もぐもぐ。
ネズミ怪人の身体から、さっきまでの警戒が少しだけ消えた。
もう一つ取ろうとして、止まる。
何かを思い出したように顔を上げた。
さっきまで、ここにいた人間。
二度、助けた人間。
その人間が、この袋を置いていった。
そして最後に、何かを言った。
『ありがとうな』
ネズミ怪人は口を動かす。
声にはしない。
もう一度。
口だけで真似してみる。
あ。
り。
が。
とう。
難しい。
首を傾げる。
もう一度。
今度は声を出した。
「……ア……」
止まる。
「……ガ……」
少し考える。
「……ト?」
自分で言った言葉なのに、自分で首を傾げた。
「……アガト?」
静かな公園に、小さな声が響く。
ネズミ怪人は、しばらく動かなかった。
それから焼き菓子を見る。
もう一口、かじる。
もぐ。
もぐもぐ。
顔を上げた。
「アガト」
さっきより、少しだけ上手く言えた。
意味を分かっているのか。
それとも、自分へ向けられた音を覚えただけなのか。
それは誰にも分からない。
ただ。
ネズミ怪人は、その言葉を気に入ったらしい。
袋を大事そうに抱え、立ち上がる。
「アガト!!」
走り出す。
公園の奥へ。
「アガト!!」
もう一度。
嬉しそうな声。
小さな背中が、木々の向こうへ消えていく。
あとには、静かな公園だけが残った。
そして。
もう誰もいなくなった公園の奥から。
ほんのかすかに。
「アガト!!」
もう一度だけ、声が聞こえた。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




