閑話 配信を見ていた人たち 後編
閑話 配信を見ていた人たち 後編
画面の端から、一人の男が入ってくる。
最初は、視聴者にも誰なのか分からなかった。
「誰?」
「新キャラ?」
「まだボスいるの?」
だが、男の姿が画面の中央へ近づく。
キットが男を見る。
そして。
『ちょっと俺と付き合えや』
一瞬、コメントの流れが止まった。
「……あ」
「あ」
「ああああああああ!」
「こいつ!!」
「お前かよ!」
「ふざけんな!」
覚えている。
忘れるはずがない。
サクラの時。
怪人体となったサクラとキット。
戦いの果てに、ようやくほんの少しだけ、何かが変わりそうだった。
キットがサクラへ手を伸ばそうとしていた。
敵と味方。
そんな単純な関係ではなくなるかもしれない。
仲間になるのではないか。
助けられるのではないか。
そんな期待が、視聴者たちの間にも生まれていた。
そこへ現れたのが、こいつだった。
「お前がサクラにやったこと忘れてねえからな!」
「サクラの仇!」
「帰れ!」
「何普通にキットに話しかけてんだよ!」
「キットやっちゃえ!」
「今日はこいつ倒して終われ!」
画面の中の本人には届かない。
それでも、コメント欄には容赦がなかった。
「前回の仲間フラグ返せ」
「絶対サクラ仲間になると思ったのに」
「俺も思った」
「今でも許してない」
「こいつだけは無理」
視聴者たちからの好感度は、恐ろしく低かった。
そんなことなど知るはずもなく、男はキットと向かい合う。
そして、メモリーを使った。
「待って」
「それ」
「ワシだ!」
姿が変わる。
翼。
そのスタイルを、視聴者たちは覚えていた。
「またワシか!」
「前回もこれ使ってたよな」
「サクラの時のやつ!」
「これでキット圧倒してた奴じゃん」
「嫌な記憶しかない」
しかも今回は、キットがカメレオン怪人との戦いを終えた直後だ。
「ちょっと待て」
「キット連戦だぞ」
「カメレオン倒したばっかじゃん」
「相手は最初からワシ?」
「卑怯とかいう以前に勝ちに来てる」
「こいつそういう奴だろ」
「これどうやって戦うんだよ」
答えは、すぐに画面へ出た。
男が動く。
「速っ!」
キットが受ける。
押される。
反撃。
かわされる。
「やっぱ強い」
「前回と同じだ」
「キット押されてる」
「カメレオン戦のダメージもあるだろ」
「それ差し引いてもワシ強くない?」
キットも反撃する。
当てる。
だが、流れを取り返せない。
「素のキットじゃ厳しいな」
「メモリー使え!」
「今度こそ予想大会再開?」
「さっき終了したばっかだぞ」
「相手変わったからセーフ」
「じゃあカンガルー」
「俺もカンガルー」
「ノミ」
「ノミはさっき散々使っただろ」
「ヒクイドリで蹴り合い」
「新メモリー!」
「今度こそゾウ」
「帰ってきたなゾウの人」
「俺は諦めない」
「ティラノサウルス」
「お前もいたな」
そして、キットがメモリーへ手を伸ばした。
「来る!」
「何だ?」
腕が変化する。
「カンガルー!」
「当たった!」
「俺当てた!」
「腕か!」
「カンガルーってパンチも強いもんな」
「なるほど」
続いて脚。
「ヒクイドリ!」
「カンガルーとヒクイドリ!」
「この組み合わせ前にも使ってたな」
「攻撃重視で行くのか」
「ワシ相手なら火力優先か」
「新しいのじゃなくて、使い慣れてる組み合わせ選んだか」
「今回は堅実だな」
「ゾウは?」
「来てない」
キットが攻める。
拳。
続けて蹴り。
今までより明らかに攻撃が重い。
「おお!」
「行ける!」
「さすがにこれなら!」
だが、男は受ける。
かわす。
そして、返す。
「え」
「まだ押されるの?」
「嘘だろ」
「キットかなり強化したぞ」
「ワシ強すぎない?」
「前回よりキットも戦い方増えてるのに」
視聴者たちの苛立ちが増していく。
「こいつ嫌いなのに強いの腹立つ」
「分かる」
「敵としては強い方が燃えるけど」
「それでも嫌い」
「サクラの件は別」
戦いは続く。
だが、少しずつ妙なことに気づく人が出始めた。
「……あれ?」
「何?」
「こいつ、さっきから移動してない?」
「戦ってるんだから移動するだろ」
「いや、そうじゃなくて」
キットを押す。
位置が変わる。
また戦う。
さらに移動。
「カメレオンの方に近づいてない?」
「え?」
「ほんとだ」
「たまたまじゃね?」
「でもずっと同じ方向じゃない?」
画面の中。
特殊部隊の一人も、何かに気づいたようだった。
「ほら!」
「特殊部隊も気づいた?」
「やっぱ何かある」
「カメレオン狙い?」
「倒れてる怪人に何の用だよ」
キットも気づく。
男の進路を塞ごうとする。
そのとき、男の動きが止まった。
「?」
「どうした?」
「苦しんでない?」
胸元を押さえる。
呼吸が乱れる。
「急にどうした」
「時間制限?」
「ワシ使いすぎると駄目とか?」
「前回こんなのあった?」
「分からん」
それまで圧倒していた男の動きが落ちる。
キットの拳が入る。
「よし!」
「今だ!」
「行け!」
蹴り。
さらに攻撃。
今度はキットが押す。
「逆転した!」
「やっぱ何か制限あるんだ」
「そのまま倒せ!」
「サクラの分まで!」
男が下がる。
キットが追う。
さらに下がる。
「待って」
「何?」
「そこ」
男のすぐそば。
倒れているカメレオン怪人。
「あ」
「まさか」
キットも気づいたようだった。
だが、遅い。
男が身体を沈める。
倒れた怪人へ手を伸ばす。
「何してる?」
「何か取った!」
「え?」
「パーツ?」
「何だそれ」
男が手にしたものを確認する。
『目的は果たした』
「は?」
「それが目的!?」
「最初からカメレオンの部品取りに来たの?」
「じゃあキットとの戦いは?」
「時間稼ぎ?」
「いや、戦いながら近づいてた」
「最初から勝負する気なかったのか」
「こいつ……!」
視聴者たちの嫌悪感が、さらに上がった。
「本当に腹立つな!」
「勝ち負けどうでもいいのかよ」
「欲しいものだけ持って帰る気だ」
「返せ!」
「キット取れ!」
特殊部隊も動き出す。
包囲。
だが、男の背中で翼が開いた。
「あ」
「待て」
「おい」
「逃げる気だ!」
男が飛ぶ。
一気に上空へ。
「逃げたあああ!」
「追え!」
「キット!」
だが、キットはすぐには飛ばない。
「何してる!?」
「飛べない構成なんじゃない?」
「今、腕カンガルーで脚ヒクイドリだぞ」
「あ」
「オニヤンマ!」
「胴空いてる!」
「早く!」
キットが別のメモリーを取り出す。
「オニヤンマ来た!」
「予想当たった!」
「今それ言ってる場合か!」
空いていた胴へ装着。
キットの姿がさらに変わる。
「三つ同時!?」
「腕カンガルー、脚ヒクイドリ、胴オニヤンマ?」
「盛ったな」
「でも遅れた!」
キットも飛び上がる。
「行け!」
「追いつけ!」
「サクラの仇逃がすな!」
二人が空を行く。
だが、先に飛んだ男との距離は大きい。
「縮まらない」
「最初の差がでかい」
「キット頑張れ!」
「もうちょい!」
それでも、距離は縮まらない。
やがて、男の姿が小さくなっていく。
「……逃げられた?」
「マジか」
「またかよ!」
「あいつ毎回腹立つ終わり方するな!」
「強い、目的達成する、逃げる」
「嫌われる要素しかない」
「でも敵キャラとしてはめちゃくちゃ仕事してる」
「それは認める」
「でも嫌い」
「分かる」
キットもやがて追跡を諦めた。
男は、画面の向こうへ消えていった。
◇
戦いが終わった。
少なくとも、視聴者にはそう見えた。
コメント欄では、すぐに今回の配信についての話が始まった。
「今回情報量多すぎ」
「コピー怪人」
「ネズミ」
「空手の特殊部隊員」
「サクラの仇」
「謎のパーツ」
「メモリー三つ同時」
「多いな」
特に話題になったものは、いくつかあった。
一つ。
カメレオン怪人。
「コピー能力強かったな」
「能力だけじゃなくて戦い方まで学習するのヤバい」
「でも最後は経験差で攻略したの良かった」
「抜塞と五十七歩のところ好き」
二つ。
特殊部隊。
「今回かなり出番あったな」
「レイピアの人好き」
「狙撃の人安定」
「でかい人はプロレスラー設定だと思う」
「空手の人だけ明らかにキットと関係ありそう」
「サクラの時から怪しい」
「正体開示回いつですか」
三つ。
ネズミ怪人。
「結局ネズミ何だったんだ」
「助けただけで消えた」
「味方怪人説」
「特殊部隊員と知り合い説」
「次回仲間になる説」
「グッズ化希望」
そして、四つ目。
「で」
「一番分からないの」
「サクラの仇が持っていったあれ何?」
「パーツっぽかったけど」
「次の強化アイテム?」
「怪人の部品集めて何か作るとか?」
「嫌な予感しかしない」
「絶対ろくなことに使わない」
誰も答えを知らない。
当然だった。
視聴者たちは、これを特撮作品だと思っている。
脚本の伏線。
次回への引き。
新しい敵。
新しい強化形態。
そんな言葉で、好き勝手に予想する。
「今回のMVP誰?」
「キット」
「ネズミ」
「空手の人」
「ゾウ予想の人」
「何もしてないだろ」
「最後まで諦めなかった」
「次は当てる」
「まだやるのか」
「次回はゾウ」
「俺ティラノサウルス」
「じゃあ俺シャチ」
「どこで使うんだよ」
「知らん」
戦いが終われば、次に何が出るのか。
もう予想が始まっている。
今回も、彼らにとっては、とんでもなく出来のいい特撮配信だった。
ただ。
サクラの仇だけは、次に出てきても絶対に許さない。
その一点だけは、妙に多くの視聴者の意見が一致していた。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




