閑話 配信を見ていた人たち 前編
閑話 配信を見ていた人たち 前編
その日も、配信は突然始まった。
通知に気づいた人たちが集まり、いつものように視聴者数が増えていく。
だが、今回の画面は最初から少し様子が違った。
「もう怪人いるじゃん」
「始まった瞬間から戦闘中?」
「キットは?」
画面の中央にいるのは、カメレオンを思わせる怪人。
その周囲を囲んでいるのは、以前の配信にも登場した特殊部隊らしき人たちだった。
もちろん顔にはぼかしが入り、声も加工されている。
「あ、この人たち前にもいたよね」
「今回は特殊部隊回?」
「もう囲んでるってことは、この人たちが先に見つけた設定かな」
「レイピアの人いる?」
「いるっぽい」
視聴者たちは、すでに彼らの戦いを一度見ている。
名前も素性も分からない。
それでも、戦い方には覚えがある。
レイピアを使う人。
遠くから正確に攻撃する人。
やたら身体が大きく、相手を投げる人。
そして、空手らしい動きをする人。
顔が見えなくても、それくらいの区別はつくようになっていた。
もっとも、視聴者たちは誰一人として、彼らが本物の警察関係者だとは思っていない。
今回もまた、妙にリアルで、妙に凝った特撮配信。
そう思って見ていた。
やがて、待っていた姿が画面に入ってくる。
「キットきた!」
「主役登場」
「選手交代か」
「特殊部隊が逃げ道塞いで、キットがボス担当?」
「今回は共闘回っぽいな」
そして、キットが登場すると、毎回のように始まる話題があった。
「で、今日は何のメモリー使う?」
「始まった、恒例予想」
「そろそろ新しいメモリー来るだろ」
「俺はカンガルーとコブラの組み合わせ」
「オニヤンマで空中戦」
「相手カメレオンだからワニ」
「ワニメモリーあるの?」
「知らん」
「じゃあ俺はゾウ」
「どこにつけるんだよ」
「腕」
「重そう」
「ティラノサウルス」
「毎回それ言ってる奴いるだろ」
「いつか当たる」
存在するのかどうかすら分からない。
それでも予想するのは自由だった。
すでに登場したメモリーから真面目に組み合わせを考える者もいれば、完全に思いつきで動物の名前を挙げる者もいる。
「前に『次は新しい組み合わせが来る』って言ってた人いたよな」
「俺です」
「外した人だ」
「今回は当てる」
「信用ゼロで草」
そんなやり取りが流れている間に、キットと怪人の戦いが始まった。
最初にキットが使ったのは――。
「ノミだ」
「またノミか」
「使い慣れてるやつから行く感じ?」
「俺の予想もう外れた」
「早い」
キットが跳ぶ。
一気に怪人へ迫る。
だが、少ししてコメントの流れが変わった。
「待って」
「今、敵の足変わらなかった?」
「変わった」
「キットと似てない?」
怪人が地面を蹴る。
高く跳ぶ。
その動きまで、どこかキットに似ている。
「え?」
「ノミ?」
「コピーした?」
「カメレオンだから擬態系かと思ったら、能力まで真似するの?」
「そういう怪人か」
最初はキットの方が上手く使っているように見えた。
怪人の動きには、どこかぎこちなさがある。
ところが、戦いが続くにつれて、その差が小さくなっていった。
「敵、上手くなってない?」
「最初より明らかに動けてる」
「学習するタイプ?」
「コピーして、さらに覚えるのかよ」
「今回の敵めんどくさ」
キットがメモリーを変えた。
「来た」
「今度こそ新しいの?」
「ヒクイドリじゃね?」
「あ、前にも使ってる」
「新メモリーなし?」
「ノミとヒクイドリ、この組み合わせ前も見たぞ」
「俺の新メモリー予想が……」
「また外れたな」
キットの蹴りが怪人を押す。
「強っ」
「やっぱヒクイドリ攻撃力高そう」
「今度は行けるんじゃね?」
しかし、怪人はまたキットを見ていた。
「……あ」
「やめろ」
「見るな」
「嫌な予感」
怪人の脚が変わる。
「ですよねー」
「ヒクイドリも取られた」
「これ見せたやつ全部コピーされるの?」
「じゃあ新メモリー出しちゃ駄目じゃん」
さっきまで、新しいメモリーを出せ、新しい組み合わせを見せろと騒いでいた人たちが、一斉に意見を変えた。
「予想大会終了」
「今日は新しいの出すな」
「俺のゾウが」
「ゾウは最初から出ない」
「ティラノサウルスも?」
「もっと出ない」
「まだ分からんぞ」
そんな中、画面の端に白い影が現れた。
一体。
二体。
さらに増える。
「シロアリ!」
「またこいつらか」
「増えすぎ!」
「画面どこ見ればいいんだよ」
キット対カメレオン怪人。
その周囲では、特殊部隊とシロアリ怪人たちの戦闘が始まった。
「今回は特殊部隊の出番多いな」
「レイピアの人また前出てる」
「相変わらず距離近いな、この人」
「狙撃の人がカバーしてる」
「この組み合わせ前も安定してたよな」
「でかい人また投げた!」
「やっぱプロレス枠だろ」
「投げ方が完全にそっちなんよ」
以前にも戦いを見ているからこそ、視聴者たちにもそれぞれの戦い方が少しずつ分かってきていた。
名前は知らない。
顔も分からない。
声すら本物ではない。
それでも。
「あ、危ない」
一人の特殊部隊員が体勢を崩した。
シロアリ怪人が迫る。
「後ろ!」
「避けろ!」
「狙撃の人撃たないの?」
「無理だろ、味方が射線入ってる」
「やばいって」
その瞬間だった。
横から、小さな影が飛び込んできた。
「え?」
「何?」
「ネズミ?」
「新怪人?」
誰もが敵が増えたと思った。
だが、ネズミ型の怪人はシロアリへ襲いかからなかった。
危険にさらされていた特殊部隊員を引っ張り、攻撃の範囲から外した。
一瞬、コメントの勢いが落ちた。
「……今」
「助けた?」
「助けたよな?」
「え?」
ネズミ怪人は戦わない。
シロアリへ攻撃することもない。
ただ、特殊部隊員を助けた。
それだけ。
「味方怪人?」
「新しい仲間枠?」
「こういうの絶対あとで仲間になるやつ」
「いや、途中で裏切るタイプ」
「特撮の見すぎだろ」
「今見てるの特撮だろ」
「それもそう」
そして、ネズミ怪人はそのまま姿を消した。
「帰った」
「本当に助けただけ?」
「何だったんだ今の」
「あの特殊部隊の人と何か関係あるんじゃない?」
「知り合い設定?」
「顔見えないから分からん」
「また伏線増えた」
視聴者たちは盛り上がる。
もちろん、画面の向こうで本当に人間が怪人に助けられたなどとは、誰も思っていない。
「でもネズミかわいかった」
「分かる」
「グッズ出たら欲しい」
「気が早い」
その間にも、キットの戦いは続いていた。
怪人はノミとヒクイドリ、二つの特徴を切り替え始めている。
「待って、前の能力残ってるじゃん」
「一回コピーしたら保存されるの?」
「強すぎる」
「これ本当に新しいメモリー出せないな」
「さっき新メモリー出せって言ってた奴ら謝れ」
「ごめんなさい」
「俺のゾウ……」
「まだ言ってる」
キットが押され始める。
そのとき、特殊部隊の一人が声を上げた。
加工された声が配信に入る。
『キット! 抜塞!』
「?」
「今なんて?」
「ばっさい?」
「抜塞じゃない?」
「空手の型だよ」
「何で特殊部隊の人がキットに型指定してんの?」
そして、キットが反応した。
構えが変わる。
「やった」
「通じてるじゃん」
「待って、この人……」
「前にもキットに声かけてた人じゃね?」
「サクラの時?」
「そう!」
視聴者の記憶が、一つ前の大きな戦いへ戻る。
怪人体のサクラが倒されたとき。
キットは明らかに様子がおかしくなった。
怒りのまま暴走しかけたキットへ、特殊部隊の一人が声をかけた。
『お前のそんな姿を、サクラが見たいと思ってんのか』
そんな意味の言葉だった。
そして、キットは止まった。
「サクラの時にキット止めた人だ」
「あの時も、この人の言葉で冷静になったよな」
「前からキットと距離感おかしいんだよ、この人」
「で、今回は型の名前だけで通じるの?」
「絶対なんか関係あるだろ」
「この特殊部隊の人、何者だよ」
「脚本的に重要人物なのは間違いなさそう」
「顔ぼかしてるの、絶対あとで正体明かす演出だろ」
「考察班、仕事です」
だが、画面の中ではさらに面白いことが起きていた。
キットが使った抜塞。
それを、カメレオン怪人が真似する。
「型までコピーした」
「何でも真似するなこいつ」
そして、次の瞬間。
キットが怪人の動きを読んだ。
「お?」
「今、完全に待ってたよな」
「そういうことか!」
「わざと型をコピーさせた?」
「同じ型なら次に何するか分かる!」
「能力はコピーできても、経験まではコピーできないってこと?」
「この攻略好きだわ」
特殊部隊員が再び声を上げる。
『五十七歩!』
「また来た」
「ごじゅうしちほ?」
「これも空手」
今度はキットに迷いがない。
「即やった」
「完全に意図分かってる」
「やっぱこの二人、何かあるだろ」
「サクラの時も今回も、この人だけキットへの入り方が違う」
「特殊部隊のおっさん、実は師匠枠説」
「声加工されてるからおっさんかどうかも分からんぞ」
「じゃあ師匠っぽい人」
「雑になった」
キットが押し返していく。
コピーすればするほど、怪人の動きが読まれる。
さっきまで圧倒的に厄介だった能力が、今度は怪人自身を追い詰め始めていた。
そして、怪人の姿が変わった。
「え?」
「人間?」
カメレオンの顔が人間へ。
身体も、人間の姿へ変わっていく。
だが当然、配信に映った顔にはぼかしが入った。
「誰?」
「分からん」
「顔見えない」
「重要人物なんだろうけど視聴者には見せないやつか」
「キット止まったぞ」
「知ってる人設定?」
キットの拳が止まる。
人間の姿をした怪人は、その隙を突いて攻撃する。
「うわ」
「性格悪っ」
「人間の姿を盾にしてる?」
「キット殴れなくなってるじゃん」
「これどうするんだ」
だが、キットは再び構えた。
攻撃をかわす。
反撃。
「行った」
「殴った!」
人間の姿が崩れる。
その下から、再びカメレオン怪人。
「戻った!」
「やっぱ擬態だった」
「キットも確認したかったのかな」
そして、いよいよ怪人が追い詰められる。
「決めに行く?」
「足ノミだ」
「またノミ」
「新しいの最後まで出さないのか」
「今回はそれが正解だろ」
キットが身体を沈めた。
地面を蹴る。
「飛んだ!」
「高っ!」
「ノミの跳躍か」
「どこまで行くんだよ」
画面の中、キットが一気に上空へ。
そして、空中でメモリーを変えた。
「外した?」
「ヒクイドリ!」
「なるほど!」
「上から蹴る気だ!」
落下。
速度。
勢い。
そのすべてを乗せて、キットが怪人へ迫る。
怪人の脚も変わり始める。
「カメレオンも真似する!」
「遅い!」
「間に合わない!」
直撃。
一瞬、コメントが止まった。
次の瞬間。
「うおおおおお!」
「決まった!」
「今のかっこよすぎる」
「敵がやってた切り替えを最後にやり返したのか」
「しかも上から」
「コピー怪人に本家が経験で勝つのいいな」
「新メモリーなしでもめちゃくちゃ良かった」
「俺のゾウは?」
「次回に期待しろ」
「まだ諦めてないのかよ」
カメレオン怪人は動かない。
キットが立っている。
特殊部隊の戦いも、ほぼ終わっている。
「今回は濃かったな」
「特殊部隊もかなり戦った」
「ネズミが気になる」
「俺は空手の人」
「あの人絶対何かある」
「次回辺り正体出る?」
「顔ぼかし外れるイベント待ち」
「とりあえず今回はこれで終わりか」
そんな空気が、コメント欄に流れ始めた。
だが、配信は終わらない。
「あれ?」
「まだ切れないな」
「エンディング?」
「何かある?」
画面の端。
誰かが、ゆっくりと入ってきた。
「……誰?」
「新キャラ?」
「まだ終わってない?」
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




