第十一話 ありがとうな
第十一話 ありがとうな
ヨミの姿は、もう見えなかった。
キットは追跡を諦め、高度を落とした。
だが、CASHのいる現場には戻らない。
少し離れた、建物に囲まれて通りからも見えにくい場所へ降りる。
周囲を確認してから、東へ連絡した。
『どうだった?』
「駄目です。逃げられました」
『そう……』
「すみません」
『あなたが謝ることじゃないわ』
少し間が空いた。
「ヨミ、やっぱり長くは戦えないみたいです」
『さっきの?』
「はい。途中から明らかに動きがおかしくなった。でも、あいつ、それも分かった上で戦ってた」
『カメレオンのところまで移動するために』
「たぶん」
キットはヨミが消えた空を見る。
「あのパーツ、何なんでしょうね」
『分からない。でも、わざわざあなたと戦ってまで持っていった』
「必要だったってことですよね」
『そう考えるのが自然ね』
東の声が少し遠くなる。
現場ではまだCASHが動いている。
「東さん」
『何?』
「少し話せます?」
短い沈黙。
『そこで待ってて』
「はい」
◇
しばらくして、東が一人でやってきた。
周囲には誰もいない。
CASHの現場からも離れている。
東は一度周囲を確認してから、キットの前へ来た。
「ここなら大丈夫」
「すみません」
「だから謝らなくていいって」
キットは少し黙った。
「……あの人」
「カメレオンが使った顔?」
「はい」
キットが頷く。
「本当に、東さんたちが捜してる人なんですよね」
「資料の顔とは一致してる」
「生きてるんですかね」
「分からない」
東は迷わず答えた。
「いつ、どこでカメレオンがあの人を見たのかも分からない。今どこにいるのかも、生きているのかも」
「……ですよね」
キットは壁へ背を預けた。
「顔が変わったとき、殴れなくなりました」
「見てた」
「サクラのこと、思い出して」
「うん」
「もし、あの人自身が怪人にされてたらって思ったら……止まっちゃって」
東は何も言わない。
「でも」
キットが顔を上げる。
「結局、分からなかったんですよね」
「そうね」
「本人なのか。偽物なのか。分からない。でも、目の前で人を襲ってるなら、まず止めなきゃいけない」
少し間を置く。
「本人だったとしても」
東がキットを見る。
「それでいいと思う」
「正解かどうかは分からないですけど」
「私だって分からないわよ」
東は小さく息を吐いた。
「だから調べるの」
「残りの人たちも?」
「もちろん」
キットは頷いた。
「分かりました」
「それと」
「はい?」
「ここから直接現場には戻らないで」
「やっぱり?」
「川出も南浦もニシも、あなたの正体を知らないんだから」
「北山さんは?」
東が少しだけ嫌な顔をした。
「……あれは、かなり怪しい」
「ですよね」
「何したのよ」
「俺じゃないですよ。北山さんが抜塞とか五十七歩とか言うから」
「それで普通にやったの?」
「やりました」
「そりゃ疑われるわよ」
「でも、やらなかったらカメレオン倒せなかったし」
「それはそうなんだけど……」
東は額へ手を当てた。
「とにかく。まだ自分から正体を明かさないで」
「分かってます」
「変身を解くなら、もっと離れてから」
「はい」
キットはその場を離れようとして、一度止まった。
「東さん」
「何?」
「五人のこと、何か分かったら教えてください」
「分かった」
キットは頷き、その場を離れた。
東は姿が見えなくなるまで見送った。
◇
東が現場へ戻る。
「遅かったですね」
川出が言った。
「ちょっと確認してたの」
「何を?」
「色々」
「便利な言葉だなあ」
「あなたも仕事して」
「してますよ」
東は周囲を見る。
「負傷者は?」
「処置中。重いのはいないです」
「一般人は?」
「避難済み。今のところ大きな被害報告はなし」
「シロアリは?」
「追加は確認されてません」
「分かった」
東が頷く。
そこで、視線が止まった。
「……あれ?」
「どうしました?」
「カメレオン」
「え?」
東が指差す。
さっきまで、そこにいた。
キットの蹴りを受け、地面に倒れていたミラーカメレオン。
ヨミが近づき、その身体から一つのパーツを持っていった。
その場所に、今は何もない。
「……いない?」
川出が近づく。
地面には戦闘の跡が残っている。
だが、ミラーカメレオンの姿はない。
「誰か運んだ?」
「いや」
南浦が答える。
「見てない」
「俺もです」
北山も首を振る。
ニシが周囲を見回した。
「自分で逃げたとか?」
「分からない」
東はすぐに通信を取る。
「周辺確認! さっきまで倒れてたカメレオン型の怪人が消えてる!」
『了解!』
「見つけても不用意に近づかないで!」
返事が続く。
だが、どこにもいない。
いつ。
どうやって。
誰も分からなかった。
◇
現場の安全が確認されるまで、しばらく時間がかかった。
シロアリ怪人の追加は確認されなかった。
一般人の避難も済んでいる。
負傷した隊員の処置も進んでいた。
川出は資料端末を見ながら、東のところへ来た。
「さっきの顔」
「うん」
東も画面を見る。
ミラーカメレオンが最後に使った人間の姿。
そして、CASHが持っている資料。
同じ顔。
「間違いないですね」
「ええ」
現在も所在の確認が取れていない五人。
その中の一人。
「これで、この人と今回の怪人がつながった」
川出が言う。
「つながった、と言っていいのかな」
「少なくとも、カメレオンはこの顔を知ってた」
「そうね」
「実際に見ないとコピーできないなら、どこかで会ってる」
川出は少し考える。
「でも、いつなのか分からない」
「本人が今どこにいるかも」
「生きているかどうかも」
東の言葉に、川出が黙った。
「……そうですね」
分かったことはある。
だが、分からないことの方が多い。
東は画面を閉じた。
「捜査は続ける」
「もちろん」
「残りの人たちも」
「はい」
川出が頷いた。
◇
少し離れた場所。
北山は一人で立っていた。
頭に残っているのは、ミラーカメレオンでもヨミでもなかった。
「抜塞……」
自分が叫んだ。
キットは反応した。
迷いはあった。
だが、すぐに型へ入った。
五十七歩も同じ。
名前を聞いただけで分かった。
それだけではない。
型を知っている程度の動きではなかった。
何度も、何度も身体へ叩き込んだ人間の動き。
「……空手、か」
北山の頭に、一人の少年が浮かぶ。
内田紀人。
道場で見た動き。
自分へ向けられた言葉。
『北山さんも最近、動きがシャープになってますけど』
『何か実戦でもしてるんですか?』
北山は腕を組んだ。
まだ証拠はない。
ただ、偶然で片づけるには、少しずつ重なりすぎている。
「今度……もう少し確かめるか」
北山は小さく呟いた。
◇
「……あいつ」
南浦が言った。
川出が振り返る。
「誰?」
「ネズミだよ」
「ああ」
「前もお前を助けたんだよな」
「そう」
「二回目か」
「二回目」
南浦は黙った。
川出も何も言わない。
少しして。
「分からねえな」
南浦が言った。
「何が?」
「怪人だよ」
川出は南浦を見る。
「……そうだね」
「俺は今でも、あいつらを簡単に信用する気はねえ」
「うん」
「でも……」
南浦はそこで言葉を止めた。
自分で見た。
ネズミ型の怪人は、川出を助けた。
シロアリを攻撃することもなく、ただ川出を守った。
「……分からねえ」
もう一度、同じ言葉。
川出は少し笑った。
「俺も」
「何笑ってんだ」
「いや。南浦さんからそれ聞くと思わなかったから」
「撃つぞ」
「それはやめて」
南浦は鼻を鳴らした。
それ以上、二人とも何も言わなかった。
◇
「これください」
数日後。
パンさんの店。
川出がショーケースを指差していた。
「これ?」
「はい」
「持ち帰り?」
「持ち帰りで」
パンさんが焼き菓子を取り出す。
「珍しいな」
「何がです?」
「お前、ここで食ってくことの方が多いだろ」
「今日は土産です」
「誰かに?」
「まあ、そんなところです」
パンさんが袋へ詰める。
「誰に?」
「名前も知らないんですよ」
パンさんの手が止まった。
「何だそりゃ」
「俺もそう思います」
「相変わらず変な仕事してんな、お前」
「仕事じゃないですよ」
「じゃあ何だ」
川出は少し考えた。
「お礼?」
「余計分からん」
「ですよね」
パンさんが袋を渡す。
「ほら」
「ありがとうございます」
「食い物なんだから、ちゃんと相手に渡せよ」
「それができれば一番なんですけどね」
「?」
「こっちの話です」
川出は代金を払い、店を出た。
◇
夕方。
川出は公園を歩いていた。
人通りの多い場所から少し外れ、奥へ進むにつれて木々が増えていく。
外から見えづらい場所もある。
内田紀人が空手の帰りなどに通ることがある公園。
川出は周囲を見る。
「こういうところかな……」
確証なんてない。
ネズミ型の怪人がここに住んでいるわけでもない。
ただ、人目につかず、隠れる場所も多い。
あいつなら、こういうところにいても不思議ではない。
川出は少し奥まで歩いた。
ベンチ。
その近くに、雨が降っても濡れにくそうな場所を見つける。
パンさんの店で買った袋を置いた。
周囲を見る。
誰もいない。
「いるのか?」
返事はない。
「まあ、いないか」
川出は少し笑った。
袋を見る。
「食えるのかどうかも知らないけど」
一度目。
シロアリに囲まれ、もう駄目かと思ったとき。
煙の中から腕を掴まれ、マンホールの下へ連れていかれた。
二度目。
攻撃を避けきれなかったとき。
また引っ張られた。
二度とも、助けられた。
「二回だからな」
川出は立ち上がる。
もう一度、公園の奥を見る。
誰もいない。
それでも。
「ありがとうな」
川出はそう言って、歩き出した。
足音が遠ざかる。
公園に静けさが戻る。
ベンチのそばには、小さな袋だけが残されている。
風が吹き、木々の葉がかすかに揺れた。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




