第五話 敵じゃない怪人
第五話 敵じゃない怪人
「……怪人に?」
南浦の声が低くなった。
CASHの室内。
川出は昨日の出来事を一通り報告していた。
東。
北山。
ニシ。
南浦。
シラメ博士。
その場にいた全員が川出を見ている。
「そう」
川出は頷いた。
「ネズミっぽい怪人だった」
「そいつに助けられたって?」
「結果だけ見ればね」
南浦の眉が動く。
「結果だけ?」
「俺がシロアリに囲まれてた。煙みたいなのが出て、そいつに腕を掴まれた。そのままマンホールの下まで引っ張られて――」
「それで?」
「地下を通って逃げた」
川出は肩をすくめた。
「少なくとも、あいつがいなかったら俺はかなり危なかった」
南浦は黙っていた。
だが、その顔には明らかな嫌悪感が浮かんでいる。
ニシが腕を組む。
「そいつ、何か喋ったのか?」
「いや。一言も」
「じゃあ、何で助けたかも分からねえのか」
「分からない」
川出は素直に答えた。
「でも、俺を殺すつもりなら、もっと簡単にできたと思う」
「だから何だ」
南浦が言った。
川出が見る。
「そいつが味方だって言いたいのか?」
「そこまでは言ってないよ」
「だったら怪人は怪人だろ」
空気が少し変わった。
川出は南浦を見る。
「俺は起きたことを報告してるだけだ」
「人間を助ける怪人がいるかもしれない、って?」
「実際、助けられたからね」
「それをどう見分ける」
南浦は即座に返した。
「え?」
「仮にだ。仮に人間を助ける怪人がいるとする」
南浦は机へ手を置いた。
「現場で怪人がこっちへ走ってくる。一秒、二秒。その間に判断するのか?」
誰も口を挟まない。
「こいつは敵。こいつは味方。間違えたら?」
南浦が川出を見る。
「死ぬのはこっちだ」
「……それはそうだね」
「だったら全部敵として見る方が確実だ」
川出は少し考えた。
「でも、それで昨日の奴を撃ってたら?」
「怪人だ」
南浦は言い切った。
「敵だろ」
その声には、単なる理屈ではないものが混じっていた。
怪人。
南浦にとって、その言葉が持つ意味は他の者とは少し違う。
敵討ち。
そのために、ここにいる。
怪人にも人間を助ける者がいる。
そんな話を簡単に受け入れられるはずがなかった。
「そこまで」
東が口を開いた。
南浦が東を見る。
「川出は、味方だなんて言ってない」
「でも――」
「だからといって、今の段階で敵だとも決めない」
東は川出へ視線を移す。
「ネズミ型の怪人。人間を助ける行動を取った。目的は不明」
「はい」
「それで保留」
南浦は納得していない顔をしていた。
東は続ける。
「次に会ったとき、襲ってくるかもしれない。もう一度助けるかもしれない。今は何も分からない」
「……分かった」
南浦はそれ以上言わなかった。
東が川出を見る。
「それより、もう一つ」
「追ってた奴ですね」
「そう」
川出は資料を広げた。
「最初は男でした」
全員の視線が集まる。
「途中で一度見失った。その直後、今度は女が現れた」
「同一人物だと思う根拠は?」
北山が聞く。
「感覚」
「おい」
ニシが笑う。
「それ報告書に書けるのか?」
「書けないから困ってるんですよ」
川出も苦笑した。
「でも、見られてる感じが同じだった」
シラメ博士が首を傾げる。
「見られてる感じ?」
「観察されてるっていうか。こっちを見てるんだけど、顔じゃなくて……何かを覚えようとしてるみたいな」
「覚える?」
「うまく言えないんだけどね」
東が資料へ目を落とした。
「事件前にも、人や防犯カメラを観察していた人物が目撃されている」
「そうなんですよ」
川出が頷く。
「だから俺、思ったんです」
「何を?」
「もしかして、顔を選んでるんじゃないかって」
室内が静かになった。
◇
「怪人に助けられた?」
紀人は思わず聞き返した。
『らしいわ』
スマートフォンの向こうから東の声がする。
「本当に?」
『川出本人がそう言ってる』
「どんな怪人です?」
『ネズミみたいな姿だったって』
紀人は黙った。
サクラは人間だった。
そのサクラが怪人になった。
そして今度は、怪人が人間を助けた。
「……怪人って、何なんですかね」
『それが分かれば苦労しないわよ』
「ですよね」
『ただ、勘違いしないで』
「何がです?」
『その怪人が味方だと決まったわけじゃない』
「分かってます」
『ならいい』
紀人は通話を切った。
怪人。
少し前まで、その言葉はもっと単純だった。
倒す相手。
それだけだった。
今は違う。
人間が怪人になる。
怪人が人間を助ける。
なら。
目の前に怪人が現れたとき、自分は何を見て判断すればいいのか。
紀人にはまだ分からなかった。
◇
夜。
パンさんの店は、昼間とは少し違う顔を見せていた。
照明は落ち着き、カウンターには酒瓶が並んでいる。
客が途切れたところで、パンさんはドラムスティックを一本手に取った。
カウンターの端を軽く叩く。
タッ、タタッ。
少し間を置いて。
タッ、タタッ、タン。
「またやってる」
カウンター席から声がした。
ニシだった。
「暇なんだよ」
パンさんは答える。
「客に暇って言うなよ」
「今、お前しかいないだろ」
「俺は客じゃないのか?」
「ちゃんと金払えば客だ」
「払ってるよ」
少し離れた席には南浦もいた。
グラスを手にしている。
昼間の険しい空気は、いくらか薄れていた。
「そうだ」
パンさんがスティックを置く。
「新しいの作ったんだけど、試す?」
「酒?」
「カクテル」
ニシが少し警戒する。
「変なの入ってないだろうな」
「人聞き悪いな」
「前のやつ甘すぎたんだよ」
「南浦は?」
「俺はいい」
「じゃあニシな」
「なんでそうなる」
パンさんが笑いながらグラスを用意する。
南浦は黙ってそれを眺めていた。
怪人の話はしない。
CASHの話もしない。
パンさんは何も知らない。
ここではただの客だった。
しばらくして、ニシの前へグラスが置かれる。
「名前は?」
「まだない」
「名前ないのに客に出すのかよ」
「だから試してるんだろ」
ニシが一口飲む。
少し黙る。
「……どう?」
「悪くない」
「素直じゃないな」
「悪くないって言ってんだろ」
パンさんは満足そうに笑った。
南浦もほんの少しだけ口元を緩めた。
◇
一方。
警察の捜査も進んでいた。
「二人とも、事件現場の近くに来たことがある?」
刑事が資料を見る。
「はい」
部下が答えた。
「銀行強盗の犯人とされた男は、事件の数日前に近くの取引先へ行っています」
「女は?」
「施設の近くにある店を利用しています」
「偶然じゃないのか?」
「その可能性はあります」
「他には?」
「今のところ、それだけです」
刑事は腕を組んだ。
二人に直接の接点はない。
だが。
二人とも事件前に、犯行現場の周辺へ来ている。
「……犯人が、そこで見た?」
「え?」
「本人をだよ」
刑事は資料を机へ置いた。
「変装するために、事前に似せる相手を選んでるんじゃないか?」
「でも、あそこまで同じ顔にできますか?」
「知らん。だから調べろ」
「はい」
刑事は椅子へ深く座った。
「ったく。CASHの連中が喜びそうな話になってきたな」
嫌そうに呟いた。
◇
「直接見る必要がある」
川出が言った。
CASHの机には、これまでの情報が並べられている。
一件目。
二件目。
目撃証言。
防犯映像。
川出が追った男。
その後に現れた女。
「まだ仮説よ」
東が言う。
「分かってます」
「でも筋は通るな」
北山が資料を見る。
「事件前に周辺をうろついて、人間を見てる」
「その姿を覚える」
川出が続ける。
「そのあと、その人間の顔を使って事件を起こす」
ニシが眉をひそめる。
「そんなことできる怪人がいるって?」
「いたとしても、もう驚かないでしょ」
「まあな」
東が考える。
「だったら」
川出が言った。
「こっちから見せたらどうです?」
「何を?」
「顔ですよ」
東が川出を見る。
「次の顔を探してるなら、探しやすいところに置いてやる」
「囮?」
「そういうことです」
「誰がやるの」
川出が自分を指した。
「俺」
「却下」
「早いな」
「昨日死にかけた人が何言ってるの」
「だからですよ」
川出は笑う。
「向こうに一回見られてるかもしれない。俺なら追跡もできる」
東はしばらく川出を見た。
「一人ではやらせない」
「もちろん」
「勝手に追いすぎない」
「努力します」
「努力じゃなくて守って」
「はいはい」
東が睨む。
「はい、一回」
「……はい」
ニシが吹き出した。
◇
翌日。
川出は人通りのある場所を歩いていた。
一見、何の変哲もない。
だが。
周囲にはCASHの人間が配置されている。
店の中。
車の中。
少し離れた歩道。
誰も川出を見ていないように見える。
川出自身も、何かを探しているような素振りは見せない。
ただ歩く。
十分。
二十分。
三十分。
「……来ないか」
小さく呟く。
そのとき。
視線を感じた。
川出は振り向かない。
歩き続ける。
ガラスに映る人影。
一人の男。
こちらを見ている。
顔ではない。
全身を。
観察するように。
川出は小さく息を吐いた。
「……来た」
通信へ囁く。
『確認した』
東の声。
『まだ動かないで』
「了解」
男が歩き出す。
川出も歩く。
距離が開く。
『今』
CASHが動いた。
男が振り返る。
走り出した。
「逃がすな!」
複数方向から隊員が出る。
男は人混みへ飛び込んだ。
川出が追う。
「今度は見失わないぞ!」
だが。
人の流れ。
一瞬。
男の姿が隠れる。
次に見えたとき。
「……またか」
そこに男はいなかった。
代わりに。
一人の若い女が走っていた。
「そっちだ!」
川出が叫ぶ。
隊員たちが反応する。
女が振り返った。
その目。
間違いない。
「止まれ!」
女は止まらない。
走る。
速い。
普通の人間の速度ではない。
「回り込め!」
別方向から隊員が出る。
女は進路を変えた。
壁。
行き止まり。
「追い詰めた!」
隊員が叫ぶ。
女は壁を見る。
そして。
地面を蹴った。
「は?」
跳んだ。
高い。
壁へ足をかける。
さらに蹴る。
上へ。
「おいおい……」
川出が見上げる。
女は建物の上へ消えた。
誰も言葉が出なかった。
しばらくして、東の声が通信から聞こえた。
『……普通の変装犯ではなさそうね』
川出は建物の上を見たまま答える。
「でしょうね」
『怪人の可能性は?』
「かなり高いと思います」
川出は息を整えた。
「少なくとも、人間相手の捜査だと思わない方がよさそうです」
建物の上には、もう誰の姿もなかった。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




